神獣を尋問する伯爵夫人
(結論…私の心配した時間を返せ。はぁ…帰りたい…。)
私も聞きたいことは聞こうと思ったのだが…相手は最強フェンリル。追々聞いたが、ハンターレベルでフェンリルはSランクの魔物とのこと。もはや人間では対処不能の天災らしい。その情報有無問わず私は怯えてあまり情報収集が出来なかった。しかし、怖いもの知らずの魔物オタク…ムサビーネ夫人は容赦無かった。他の護衛、ハンター、守衛ともども「ちょっちょ‥」と言うような質問までどんどん聞いていったのである。多分、ここにいる人間達…いや、魔物や妖精含めて総勢心臓バクバクであった。私は心臓そのものはなさそうだが…植物だし。
(うーん、フェンリルがここへ来た理由は分かったけど…とは言ってもなぁ…植物待ちよね…。)
フェンリルが聖女を探していることは分かっている。そして、フェンリル自体もそもそも論、聖女が誕生すると彼女の護衛として彼女の側へ行くという任務が神から与えられているようである。いや、この世界に神様がいるかは不明だし…任務というか天命というか運命というか使命というか…そんな感じらしい。で、フェンリルが彼曰くの神から「聖女が誕生した」と言う声だけを聞き数ヶ月色々探していたとのこと。ただ、当てが全く分からず…その中で人間と魔物が共存している街が存在していると言う情報を盗み聞きか何かしたらしく、その場所を聞き出し…本人の意図は不明だが、相手の人間は脅されたと思っているのではなかろうか…ここへ一直線に来たとのことであった。
「前回聖女が誕生してから遥々300年以上…我は次の聖女が誕生するまで森の奥深くにいた。1人は退屈だったな。」
「暇だよねー!」
知らないうちにアースも警戒を解いているようである。なお、妖精にとって魔物は天敵である。と言うのも、妖精はいわば魔力の塊、魔物にとってみればご馳走なのである。それ故、私にも初めは警戒していた。側にいるシロも同様である。…いや、シロに至っては未だに敵対心は抱いているみたいだが…殺し合うと言う意味では無さそうである。なお、主観だが…白銀狼のシロと妖精のアース、どっちが強いかはよく分からない。同じぐらいと勝手に考えている。…そして、どっちも私の力では倒せないとも思っている。最近は私よりも強力な生命体が頻発しており私が一番困る。怖くて眠れない。…寝ているけど。
(それにしても…あのババア、シロは護衛として連れてきたみたいね。白銀狼とフェンリルって大きさ以外あまり変わらない気がしたから…体毛は白銀狼がシロに近くて、フェンリルは銀に近いけどそれだけ…関連種とか突然変異とか思ったんだけど…。)
ムサビーネ夫人とシロが到着した際、シロは早々「フェンリル様…この度はここ、デレナール領にお越しくださりありがとうございます。」とか言っていたのである。そのため、やっぱり関係があるのか?と思ったが…フェンリルをムサビーネ夫人が尋問している時にコソッと聞いたら全くの別物とのことであった。ただ、魔物のルールとしてもフェンリルに対しては頭を下げると言うルールがあるらしい。逆に言えば、私はそんなこと知らない。
「さて…そろそろ、聖女の情報は集まったりしたのか?或いはこの中に入れるための準備はしたのか?」
フェンリルは話すことは話したと言わんばかりに私達をじっと見つめた。アースは再度私の影に隠れる。私よりアースの方が強いはずなのにこれである。見かけが私が10歳、アースが4歳だからって騙されてはいけない。寧ろ…年齢でさえ、私は155歳ぐらい、アースは2800歳を超えるのである。私が盾になる理由が分からない。
「シロ?どう思う?フェンリル…様をデレナール領へ入れ…お招きは可能だと思う?」
ムサビーネ夫人がいつも通りの口調で喋ろうとする度に誰かが首を振ったりしていた。ムサビーネ夫人はデレナール領で伯爵当主の次に偉い。どうやら敬語とかを使うことが出来ないと言うより慣れていないようである。いや、流石に国王とかなら別なのかもだが…魔物の下につくのは気に入らないのだろう。
「我自身が領地探索は愚か、歩いただけで注目の的だ。フェンリル様を招いて何かしらあると不味いな。」
「そう、マイみたいな容姿なら楽なのにね。」
ムサビーネ夫人が私を見ながら言ってきた。内心私はうるさいババアであった。マイの一度憎んだら永遠と恨む癖は相変わらずである。
「お姉ちゃんお姉ちゃん。聖女様について何か分かったりしたの?」
「うーん…どうだろう。まだ情報は来ていないわね。いや、もしかしたらもう掴んでいるかもだけど…正確性がわかるまで植物達は教えてくれないし。」
植物にとって私は『姫様』なのである。何故そこまで特別扱いされるかは分からないが…最善案を出そうとしてくれるのが植物である。要は今回の「聖女を探せ!」についての依頼も何処かで引っ掛かったらはい終了ではなく、プラスアルファの情報や、1件見つかっても他にもいたりしないかと情報を探しまくっていると思っている。植物達が納得するまでは私に伝達は来ないだろう。何処ぞのパワハラ上司みたいに急かすつもりもないし。
「左様。であるならば、我はまた後日来る。その時に何か分かったら言っておくれ。人間共も聖女が見つかっているなら早急に連れて来い。隠しても良いことはない。」
フェンリルはデレナール領に背を向けその場を立ち去っていった。途中、人々が驚く姿も見えたが…フェンリル自体の移動速度が意味が分からない。「なんだなんだ?」と思った時には通り過ぎているだろう。




