手続き終了とお礼
(無理よ。結局私は魔物。例え前世先から手を出さないと言うルールがあったって今の魔物の私がそれを100出来ると言う保証はないのだから。)
私は前世手を出すなどよっぽどのことがない限り実施したことはない。それは例えば同級生に目を殴られたとかなれば反撃するかもしれないが(実際にあったんだよなぁ)…それでも反撃で済む。しかし、今は花と言う人間換算で心臓そのものが頭にくっついているのである。しかも私は体のツルが武器そのものであり、いつでも相手を絞め殺せる状態なのである。命に関わることをされたら問答無用で相手を殺してしまうだろう…魔物の本能で…と言う考えが私を過っているのであった。
「護衛出来る強さも申し分無いでしょう。但し、あくまでテイマーが子供だし…彼女も万能ではないから護衛困難の部分もある。どっちにしろ、彼らがいるからと言う理由でアリアを放ったらかしにすると言うのは無しよ?」
「それは勿論で御座います。そこについては子息様と同様の処置を施します。」
「学業に影響がない範囲でね。」
「畏まりました。」
私はテレパシーなど持っていないので学長の心情は分からないが、多分「面倒臭えなぁ」みたいな表情はしたと思った。夫人は職権乱用しているなぁと思っている私である。
「後は何かあったかしら。」
「そうですね…あ、話が少々脱線しましたが、マイさんの手続き書類についてですが…」
手続き書類はあくまで人間の子供が入学してくるという前提で作られている。見た目人間中身魔物など想定外だろう。前例があるわけがない。結果として、私は手続き資料が一部空欄になってしまっているのである。暫くは「ではこのように記載しましょう…」とか書類として成立させるような記載にし、なんとか必須欄は全て埋めることが出来た。前世の業務で所謂、期間や機材的に不可能な事象であるが書類に記載しなければいけないときに…如何に言葉のアヤで書類を丸め込むかみたいなことをしたことがある。それと同じ感じ。私はそのようなことは苦手である…口下手だし、嘘はつけないので…いや、上司とかも嘘は書かない…言いくるめるのである…今回の記載も学長と夫人任せになってしまった。
「あ、予めだけど…極力アリアとシュウ、マイは同じクラス或いは近場になるように調整してくれないかしら。魔物単独で置いた場合万一が起きたら誰が責任を取るのということになるし、護衛する側とされる側が離れているのも良くないわ。後、マイが魔物と言うのはその内バレるでしょうけど、アリアの護衛をシュウが実施していると言うことは極力内密にして欲しいわね。」
「了解しましたが…同じクラスに居続けると言うのは難しいかと思います。」
「あら?なんで?」
「まだ能力測定をしておりませんが…デレナール伯爵一家は比較的魔法に優れたお方達です。アリア様もその場合、魔術科に行くと仮定して…シュウさんが魔力をそこまでお持ちでない場合、別の学科となり常に一緒は難しいかと。」
「そうね。予め今日測定とかは?」
「いえ、それは全員入学後に実施すると決まっておりまして…準備等もありますし。後、シュウさんが護衛等は置いておいても…あくまで10歳の子供です。将来護衛任務へ就くのであれば護衛専門の学科は御座いませんが…要は、本人のやりたいことを優先させた方が良いかと思います。あ、すいません。出過ぎた発言をしました。」
学長としてはどうやらシュウ君について「護衛」ではなく「1人の生徒」として接しているようである。この学長の行動が言わば「貴族だから…」とか「孤児だから…」とかを好まないタイプであると言うことは分かった。
「いえ。分かったわ。そこに於いてはそちらにお任せしましょう。まあ、アリアとシュウはそこまで仲が悪いわけじゃないし…そこまで問題も起きないでしょう。他に何かあるかしら。特になければ手続きを依頼して私達は帰るわ。」
「了解しました。特に御座いませんので、残りはこちらで対応します。」
とのことで、私達は離席することになった。私は腕を組みながら…どうなることやら…と考えているのであるが、帰り際にシュウ君が発言した。
「先生。今日は有難う御座いました。」
「あら、お礼を言われる筋合いはないのだけれど?」
「えーっと…色々手続きの手伝いをしてくれて、有難う御座いました。」
「…だったら、ちゃんとアリアを護衛しなさい。」
「はい!」
「あ、お母様。シュウさんと一緒に行動出来るように善処してくださり有難う御座います。学校で側に誰も友達がいないと言うことはどうしても避けたかったので…」
「そんな意図はないわよ?あくまで貴女は最近急に誘拐されたり居なくなったりと警戒しているから護衛をつけようとしただけよ?」
「それでも有難う御座います。」
「………」
ムサビーネ夫人は無言になった。夫人の性格である。恐らくお礼を言われることに慣れていないのだろう。無難にどういたしましてと言えば良いのだが…私もどういたしましてと言うのが苦手であり謙遜してしまうことが多かったので似たようなものなのかもしれない。ムサビーネ夫人は謙遜と言う単語は知らなそうだが。
(お礼ねぇ。確かに今日はムサビーネ夫人に頼りっぱなしだったけど…私は今までの記憶からこのババアにお礼を言う気には成れないわね…。)
私の場合には前世からの性格でやられたら永遠と恨むと言う性格の持ち主である。この性格が前世、今世共に私を苦しめる性格の一つであるのだが…克服などそう簡単に出来ないのであった。かくして取り敢えず、学校入学手続きを終えた私達である。この後、ムサビーネ夫人達と別れ、ギルドに行ったらシュバレルさんに絡まれ少々揉めた…厳密にはマイが断りきれず…マイの悪い癖ではある…内容によるが協力出来るところは協力するとなり…マイはそれ故後悔と、ストレスがまた溜まっていくのであるが…その日は終わった。
今後のストーリー方針ですが、あらすじにも記載がある通りあくまで「人間関係のコミュニケーション」が主題になっております。要は善と悪がいて、物理的にどんちゃん騒ぎをする予定はあまりない旨ご了承ください。




