馬車を何故か使わない貴族
「わかった。じゃあ、またギルドで。」
シュバレルさんはその場を後にした。その様子を少し見たあと…
「じゃあ、私たちも行きましょう。マイ、貴方は戦う必要性はないけど危険な輩がいたらすぐ報告しなさい。」
「分かりました。そろそろシュウ君に命令して欲しいんだけどなぁ…。」
と、私は小声で言うのであった。ムサビーネ夫人もシュウ君に判断を強制的に委ねさせることも多々あるのだが…今日はそう言う気分ではないらしい。厄介な性格である。そうしてグルトナ学校へ向かっているとムサビーネ夫人が私に声をかける。
「マイ。貴女って顔に出やすいわよね。」
「何がですか?」
「さっきいた男…貴女あまり好んでいないでしょ。」
「大体人間は信用してませんからね。」
「そう言う意味ではなく、個人的にと言うことよ。邪魔そうな顔付きだったわ。何か言われたのかしら?」
「うーん、彼は魔物の研究家らしいです。で、私達を研究しようとしているみたいですが…流石にケリンさん達の拠点には入れないでしょうし、ここからも遠いですし…そう考えると私が狙われるのは必然なのですが…止めて頂きたいんですよね。彼に限った話ではありませんけど。」
私はムサビーネ夫人を見ながら言った。その目には「お前も同じだ」と書いてあるような目をしてみせた。
「そう。まあ、ここに住む以上最低限は妥協した方が良いのではなくて?一々苛立って何処ぞの王都みたいに暴れられると困るわ。」
「うーん…どうしましょうかね。」
かく言う子供達2人は楽しそうに話している。いや、アリア様がシュウ君に声をかけまくってシュウ君が応答しているが正しいか。
「え、シュウさんここの領土出身じゃないのですか?」
「う、うん…僕は孤児院で育ったんだ。」
私の勝手な想像で相手の過去を聞きたがる女子は相手に好意を持っていると言うことがある。相手をもっと知りたいのである。見かけは10歳同士の微笑ましい会話だが…アリア様は貴族である。そこを履き違えるのだけはアウトである。
「夫人様。」
「何かしら。」
「疑問に思ったことを聞いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
護衛の兵士がムサビーネ夫人に問う。私は植物達と周囲に害を脅かす存在がないか警戒している。と言うより植物が勝手にやってくれるあたり本当に便利であった。植物は至るところに生えているため人材不足みたいなことがない。誰かが気分的にやりたくなくてもやりたい植物が勝手にやってくれるのである。
「わざわざ護衛として彼らを雇わなくても馬車を使いグルトナ学校までお連れすれば良かったのではないでしょうか?」
「あー、それもあったんだけど…ほら、見て分からない?後、貴族だからって馬車移動ばっかりでは体に悪いのよ?」
ムサビーネ夫人はアリア様とシュウ君を見ながら言った。
(このババアやっぱり良く分からないわね。)
そう考えている私がおり、恐らく某兵士も良く分からなかったのではないかと思う。さておき、無事グルトナ学校の校門まで着いた。
(うーん、想像よりちょっと小さい?)
私は前世の記憶を元に小学校や中学校と比較している。この伯爵領…私は前世日本人なので貴族としての規模が良く分からないのだが…伯爵と言う称号の割には辺鄙過ぎる場所にあるのが原因でそこまで大都会と言うわけでもないし、街と言えど規模が大きいわけでもない。相対的に子供の人数も少なく学校も小さくなるのかもしれないと思った。今さら感だが…ここの孤児院、シュウ君は分からなくはないが…両親がいない親はどのように発生するのだろうか。親が捨てたのだろうか。何処かから流れてくるにはこの街が辺鄙すぎて無理な感じがするが…とりあえずは謎のままにしておく。
「グルトナ学校は、義務教育とは言ったわよね。」
「はい。」
「だから、入学に試験とかは無いんだけど…学科を選別するに当たって必要に応じてはテストとか能力試験とかはあるみたいよ。殆ど学校の理念云々は先生方任せだから私達は関与していないけど。」
ムサビーネ夫人は誰に向かって言っているのか不明ではあるが、学校について説明してくれた。まあ、試験が好きな子供は稀だろう。大人も同じ。私も同じである。
(私の場合、まずこの学校に行く意味を知りたいわね…)
私は魔物である。今世でも既に150年は生きている。今更人間の子供が行く学校に突っ込まれても困る。それが本音であった。
「こっちかしら?」
丁度この時期は入学手続き期間。案内板が置いてあり、手続き会場へはスムーズにいけた。見ている限り、伯爵夫人とは言え今の行動はアリア様の母親と言う行動である。話ではアリア様には兄がいるとのこと。手続きは2度目と言うこともあり経験はあるのだろうが…そんな毎日や毎週やることでもないので戸惑いがちらほら見えた。
「本日入学手続きをされるお方はこちらへお並びください。」
どうやら校舎の入口…いや、表口とは違うだろう…生徒の邪魔になるだろうし…、にある程度の列があった。そこに並ぶ…のかと思いきや、夫人は案内人に声をかけにいく。




