伯爵夫人からの呼び出し
「あ、シュウさん。手紙ですよ?」
「手紙?」
何時ものごとくギルドで私がテーブルに突っ伏していると、ミサさんがシュウ君に何かを渡していた。シュウ君も別に毎日ギルドの仕事をやっているわけではない。寧ろ、時には休めと私が忠告している。とは言え、栄光達も依頼の有無問わずギルドに確認しに行くので私達も右に倣えが多い。栄光メンバーは殆どがBランク。メリーさんはCランクだが、魔女に魔法を育成されていることや、才能だけはハイレベルなので他のメンバーに付いていってしまうことが多い。しかし、シュウ君はまだEランク。栄光の方針で、シュウ君は暫し自分でランクをあげるよう命じられている。時たま一緒に連れていってくれる時もあるが、よっぽど安全が確保されていたりとか時間に余裕があるときでなければ別行動になることが多いのであった。
(誰からかしら。)
シュウ君はミサさんから貰った手紙を開ける。
「あ、講習だって。」
「えー、またぁ。」
呼び方は未だに定まっていないが、魔物育成講座と言っておけば正しいか?デレナール領は地域性上かムサビーネ夫人が過度の魔物オタクなのが原因かは知らないが…テイマーが他の街より多い。厳密には他の街よりであって、それでも街中に沢山いるわけではないが。そして、魔物同士のいざこざを避けるため…テイマーは定期的に魔物の育成における講座を受けることが義務付けられている。もう何年も受け続けているので内容は大体重なってしまっているのだが…反芻は必要らしい。
(マジで行きたくない。)
私自身、もう飽きた…と言うのもあるが、その講師がまさかのムサビーネ伯爵夫人なのである。まあ、適任かどうかと言えば適任なのだろうが…趣味で何匹も魔物を飼ってるらしい…ムサビーネ夫人は結論厳しすぎるのである。講座に参加する度に誰かをバッシングするなどとはしないが、怒るとマジで怖い。で、私やシュウ君はこの講習だけでなく色んな所でケチを言われ怒られている。良い印象など最早0であった。私は夫人をババアって呼んでるし、シュウ君も裏では鬼とか呼んでしまっている始末である。
「ミサさん。講習面倒くさいのでキャンセル出来ないんですか?と言うよりミサさん出てください。」
「また無茶苦茶言いますねぇ…今までは孤児院から送られていたはずですが、そっちが使えないからわざわざ私経由になったと言うのに…不満ですねぇ。」
「そっちの都合じゃないですか。」
とかグチグチ言う割にはちゃんと数週間後の講座には共に参加するシュウとマイであった。と言うよりすっぽかしたら後が怖いので、出ないわけには行かないのであった。
「さてと、で、聞きたいんだけど。」
私達が講習に出たくない理由は他にもある。出た際に放課後居残り率が高いのである。いや、毎回毎回居残りはないし…こちらも授業妨害とか成績が悪いとかそう言うことはしていない。基本話を聞いて場合によっては講習内で実践だけだからテスト云々もない。ただ、ムサビーネ夫人の個人的伝達事項とかで呼び出されてばっかりである。これがまた面倒臭い物を持ってくる。おまけでその処理をやらされるのは最終的に私のことが多い…全部ではないが…。テイマーでないと出来ないなら別だが、テイマーは基本魔物に命令するのである。シュウ君は私を目下とは思ってはいないが…流れ的に…と言うよりシュウ君が幼いと言うのもあるので…最終判断が私になってしまうのである。それも私は嫌だった。
「は、はい。」
シュウ君に至ってはムサビーネ夫人が貴族である点、並びに怖い存在と言う点もありビクビクな事が多い。私はこのやり取りも嫌いである。
「そろそろ、リグルト学校における入学手続きが始まると思うんだけど…いつ行くとか決めていたりするのかしら?」
「え、えーっと…」
私的には心配性なので手続きが始まったら速攻で行ってしまおうと思っていた。第一私自身記憶力に自信がない。後でやろうとかなると100%忘れてしまう。前世では忘れないようにメモを多用していた。まあ、私の場合はそのメモ自体がパッと見で分からない資料になってしまっておりパンクしたと言う過去を持っているのであるが。今世ではそこまでマルチタスクになることもないし…第一そこら辺はシュウ君の仕事。紙も私は持っていないし、現状は適当であった。
「ま、まだ…いつ行くかとかは…」
シュウ君は私を見た。目がヘルプミーと言っている。多分怒られると思っているんだろう。と言うより私も怒ってきそうと思っていた。どうせ何時もの事である。「テイマーとして予定を予め決めておけ。」云々言いそうである。私がフォローを出しても「魔物が決めるな。シュウの意見は?」とか言いそうであった。私もどうすれば良いか分からず無言になると…予想外の発言が聞こえた。




