伯爵家とテイマー
「先日殺されていた侯爵の牢にはアルビトラウネが捕まっていたとあるが…侯爵もそれが原因なのか?」
「そのようです。マイが調べた限りでは、某侯爵様は別にアルビトラウネを闇取引で購入していたとのこと。そのアルビトラウネが逃げ出して昨日のような悲惨な出来事が起きてしまっております。捕まっていたアルビトラウネも別の罪人が同様に購入したとのことです。どういう経緯で侯爵様に行ったかは分かりかねますが、某貴族は罪人が入手したアルビトラウネにも手を掛けたことには変わりありません。」
一同は黙る。上手く手に入れれても制御出来なければ、自分はおろか回りまで致命的な被害をもたらすのがアルビトラウネなのである。見た目は今のマイ見たく…今は色々衣装なりなんなりでデコレートされてしまっている可愛げな女の子だが…秘めた力は魔物なのであった。
「その魔物が調べたと言っていたが…今回の事件についてそのような女の子が調べるのは難しいのではないのか?」
「アルビトラウネは植物と会話が出来ると分かっています。いわば、植物が彼女の目となり耳となっているのです。何かアルビトラウネに刺激した場合、苔が1つあるだけでも情報が流れてしまいます。アルビトラウネが誘拐されていると言う情報も彼女がいなければデレナール領の我々にも情報は来なかったでしょう。この場に我々がいることもなく、気付いたらデレナール領も王都も襲撃されていたかもしれません。」
一同に沈黙が走った。少しして国王が立ち上がる。
「時間が大分押してきておるの。わしとしては折角来て貰ったのじゃ。確かマイと名付けられておるのかの。彼女と直々話したい者はおるかの。あるいはマイの方からこちら側でこういう風にして貰いたいとかじゃな。昨日のような事象は避けたいし、攻めいるとなればどちらもメリットはないじゃろうしの。」
前世人間換算で戦争である。結局殺し合いになればどちらも疲弊してしまうのである。取り分け大国が小国を叩けばすぐだろうが…人間とアルビトラウネでは数は人間が勝るが、攻撃手段的にアルビトラウネが優位すぎる。言わば植物全体に喧嘩を売ってる状態。見えないところからのツルによる襲撃に対応出来る人間がいるわけがない。千歩譲って対応しても、本体まで到達出来ず何れジリ貧で人間側が全滅する未来しかないのである。それこそ現世の地球みたく核爆弾とかがあれば別なのかもしれないが…。
「そうですね…私は自分で言うのもあれですけど、人間不信があり、かつ人間に甘い魔物です。これが、もっと過激な仲間ならこの話し合いの中でも暴れている輩がいると言うことだけは予め警告しておきます。」
皆が私を見ている。前世の私ならとてもじゃないがまともに喋れないだろう。しかし、今の私は既に150歳以上。どう頑張ってもここにいる人間の倍以上生きている。他にも森のなかで150年はサバイバルで生きて来たと言う自信もあった。これがマイの心の支えになっていた。後で精神的に疲弊して崩壊するのがいつものマイなのであるが…。
「既にリグルト伯爵様が何度も仰られていますが…私達にむやみやたらに絡むのは止めて頂きたいです。どんなに人間に近い容姿でも、どんなに可愛くても魔物は魔物なのです。殆どの仲間は人間を警戒しています。そこは忘れないで欲しいです。また、人間が子供の女の子や少女、女性に手を出したら重罪ですよね。アルビトラウネにも流石に魔物だから全部を人間に合わせろとは言いませんが…それでも、人間でのあからさまな犯罪行為はアルビトラウネにも実施しないで欲しいとだけは言っておきます。」
私が静かになるとささやき声が聞こえる。賛否両論ありそうだが一番多かったのは「本当にあれは魔物なのか?」であった。まあ、今の発言もシュウ君等普通の子供では無理である。大人だって大人しいタイプなら言えないだろう。私だって前世なら…周りが全員上司とか強面だらけなら…言えなかっただろう。そう言った空気が場を走っていた。
「あ、陛下。最後に宜しいでしょうか?」
「なんじゃ、伯爵夫人よ。」
「マイが魔物であることを証明して終わらそうと思いまして。子供の発言として結局我々の話を全部無かったことのようにする方がいらっしゃると困りますので。」
夫人はある数名の貴族を見ながら言っていた。あくまで貴族は全員人間である。魔物に対し敵対心を抱くのは一般でも、他人事では困ると言うのが夫人の考えだろう。
「構わぬがどうするのじゃ?」
「そうですね。シュウ。マイにあれを壊すように命じてくれないかしら。」
デレナール夫人が指定したのは、ある貴族の前にあったコップであった。
「え…えーっと。」
空気が貼り付める。予めだが…相手にアルビトラウネの恐ろしさを見せつけるのと、ここら辺にあるものを破壊して良いと言う理論は結び付かない。
「う…うーん…」
シュウ君はうつ向いた。私は後で夫人を始末しようと考えていた。
「あ、じゃあお姉ちゃん!花飾り作って?」
「花飾り?」
「うん。えっと、昔作ってくれた奴。お花がなかったバージョン。」
そう言えば昔、ケリンさん達がデレナール領で森の開拓云々で揉めた時…その打ち合わせには私は参加していないが…非常に疲れていたので…今も滅茶疲れているが…私はシュウ君にツルで作った花がない花冠ならぬツル冠を作ったことがある。よくよく考えると今の事象も当時とあんまり変わらないなぁと思いながら同じものを作った。ドレスは長袖だったので、ちょっとめくってツルを出しやすくしてである。
「これで良いの?」
「うん!」
そしてシュウ君はその冠をアリア様の頭にに乗っけた。
「え…あ、これはすごいです。」
アリア様はその冠を外し、暫し眺めた後…全体に見せるように高く掲げた。
「ムサビーネ。流石に魔物の能力を確認するとは言え物を壊すのは良くないぞ。陛下、見て分かる通り…アルビトラウネのマイはツルを使い様々なことが出来るのです。上手く利用すれば…シュウがテイマーとして命令しましたが…このようなことも出来ますが、悪く利用すれば先日の通りとなります。」
第三者目線で言えば、このデレナール家の行動は非常に良いコンビネーションになっていた。アルビトラウネのマイは主人の命令に忠実であり…実際は違うが…シュウは善悪を正しく判断しアルビトラウネを制御出来ていると言う主張にもなる。更にリグルト伯爵のフォローも柔軟であり、アリア伯爵令嬢も冠を提示することによって…今の状況を瞬時に見抜いて行動出来ると言う柔軟性を主張出来たわけであった。夫人は知らないが、これを狙っているなら優秀な伯爵様の妻であろう。最も、私はムサビーネ夫人の株が落ちるだけなのだが…。
私の夫人設定としては「正論だけどやり方間違ってるよね?」と言うキャラにしています。ぶっちゃけ、組織の上司ってそう言う方ばっかりなので、物語のキャラ設定としては非常に作りやすいんですよねぇ。残念ながら。。。




