雌花に貴族のドレスを着させてみた結果
「伯爵様。こちらのお2人でしょうか。」
「ああ、頼む。俺は自分の部屋に行ってるな。終わったらさっきの食堂に戻ってきてくれ。ゆっくりで良い。妻やアリアは色々時間がかかるだろうからな。」
そしてリグルト伯爵は自室へ向かった。会談の時間は刻一刻迫っている。切羽詰まってはいないが、昼食も早めに終わらせ全員準備に忙しかった。
「ではお二人ともこちらへ。マイさんは魔物と言うことですので、お2人で一緒にお着替えしましょう。」
マイが人間の場合男の子と女の子が同じ部屋で着替えるなどあり得ない。ただ、マイは魔物でシュウの従魔。更に今余り時間がない。同時にやってしまおうとメイド達は考えていた。
(おい。本格的な物を着せようとさせてたりしないわよね?)
結論から言えばノーである。早急に調達したものである。準備出来るわけがない。だが、それでも極力陛下に失礼が無いような服装を調達したらしい。シュウ君も安物とは言え…おそらく誰かのお古だろう…貴族の男の子が着ていそうな服を着せられ、私に至ってはドレスである。と言うより、私は葉っぱで出来た疑似スカートを脱ぐことが出来ない。しかし、葉っぱで出来たスカート自体も隠したいらしく…その為古物ではあるが、足元まであるドレスを着させらる羽目になった。足から着ることは不可能なので…私の体の構造上、根っ子で作られた足は上がらない…頭から被る感じである。帽子を被っていたため花への直接ダメージは避けれたが…頭からいれるのも多少は苦戦した。
「ちょっと苦しいかもですが、我慢してくださいね。」
私は貴族の知識がないので良く分からないが…体のスタイルを良くするため体を固定具…コルセット?…で縛ったりするらしい。植物の魔物であるが私の皮膚は人間に近い。メイドが満足するようなスタイルには出来たようではある。
(キッツ。私魔物だし、平民だし、なんでこうなるの?!)
私は頭の中で何時ものごとく不機嫌だった。
「うーん、やはり帽子は合いませんね。一度取って貰っても宜しいですか?」
「え…良いですが、私の花を触ったり飾ったりしてはダメです。」
嫌な予感がしたので防波堤を張りながら帽子を取ると…
「おお!うん。この花をモチーフに髪も弄りますか?」
「えっと?花を触るなと言いませんでしたっけ?」
「ええ、花を触らずに残りを調整します。」
メイドの方が上手だったらしい。頭の左上についている大きめの花には一切触らず、髪を留め具で固定しデコレートされてしまった。
(メイド…恐るべし…)
鏡を見ながら私は感嘆していた。元々自身を水辺で見たとき可愛い女の子と言う印象であった。見たのは数十年前なのでそれよりはちょっと成長しているが…可愛いと美しいの間を取った様な感じに仕上がっていた。
「お、お姉ちゃん!キレイ!」
シュウ君の感想はもはやそれ以外なにも言えないレベルだった模様。かく言うシュウ君もかっこ良くできている。
「シュウ君もカッコいいよ?」
「おー、お姉ちゃん、ありがとう!」
かくして食事を取った部屋に向かう。私は疑似スカートの上に更にドレスのスカートで飛んでもなく歩きにくかった。私はどうやらお人形のごとく立ち止まっていた方が良いのではないのだろうか?
「お、準備できたか?」
リグルト伯爵は既に服装と整えていた。蛇足だが、食事の後に準備しているのは食事中に何か溢したら一貫の終わりであるからである。
「他の2人はまだですか?」
「女性の衣装は色々面倒臭いらしいからな。マイは簡易的だし、頭もそこまで弄られてなさそうだしな。」
「これでも結構警戒したのですが…。」
何度も言うが、マイの花はマイの命そのものである。私は花はおろか頭すら触られるのでも警戒するのである。私自身頭を弄られているときはそれこそ警戒度が物凄くそれだけで疲弊してしまった。
「それにしても結構2人とも決まっているな。まあ、近くから見てしまうと底辺貴族感が歪めないが…少なくとも陛下に服装で失礼になるまでは至らないだろう。説明さえすれば納得してくれるだろうしな。」
途中からは自身に言い聞かせている感じだった。やはり、誰を連れていくにしろ…貴族としてのプライドは維持したいらしい。私自身は未だに納得出来ないが…物事の第一印象は物凄く重要であると理解している。どんなに中身が貴族でなくても着飾ると言うのは重要みたいである。
「お待たせしました。」
「お待たせし…シュウさんかっこい…ごめんなさい。」
アリア様が本音を溢そうとしたところ、ムサビーネ夫人の目による威圧が入った。貴族って面倒臭いなと思った私である。
「では、行きましょうか。あら、マイ。」
「はい。」
「服と花は似合っているけど、王都の中に入るまでは帽子を被りなさい。極力魔物であると言うことは隠しておきたいから。」
私はまた理不尽に機嫌を損ねた。髪の毛をこれだけ弄ったのである。帽子を被ったら崩れる可能性もある。だが、帽子を被って崩れたらまたピーチクパーチクであろう。私は返事をせずゆっくり帽子を被った。花に帽子が当たると違和感がある。プラスで髪を崩してはいけない。散々だが、なんとかなった。
「貴方、陛下に合う前に服装の最終チェックをする必要があるからメイドを2人ぐらい連れていきましょう。会談する前に少々時間があると思うわ。」
「分かった。」
私の頭はもう勝手にしてくださいであった。誰がデレナール領で一番偉いのか分からないわ。
『ひ、姫様!お美しいです!』
『めっちゃ可愛いわ。』
『そうよねー私も着飾りたい!』
『誰か絵に残せよ。』
『どうやるのよ!』
一応だが、この世界にカメラやビデオはない。どちらにしても植物には手がないので記録に残すことは出来なかった。今は馬車に乗り移動中である。さっきの話は馬車に乗る前に外を歩いたときである。
「お、お姉ちゃん…き、緊張する…。」
「わ、私も…陛下様には始めてお会いします。」
「陛下で良いわよ。二重敬語はマナー違反よ。」
アリア様の発言に対し、母親が訂正する。そう言えばシュウ君もリールさんのことをリーダーさんとか言っていた。まあ、私はどうでも良いし、リールさんが気にしないならそれで良いとは思うが。




