話せば死、話さずとも死
「シュウさん。マイさん。きっと、お父様やお母様も協力してくれるはずです。私からも話せる範囲では話したいです。」
移動中。私は愚痴っていた。なんで、人間に売買されて酷い目にあった仲間達が人間の都合で勝手に殺され勝手に捕まるのか。そもそもそんな悪事を人間が働かなければ今日も王都は平和なのである。昨日暴走した子は殺されてしまったが、もう1人…侯爵の洗脳魔法にかかった栄光達に襲われる前に助けたアルビトラウネはまだ生きているはずである。彼女ぐらい助けろとカンカンだった。そして、それをやりたくても不可能な私自身にカンカンだった。力で捩じ伏せるは無理である。実際暴走した子は殺された。不可能を物語っているし…説得など話術もクソもないマイには不可能である。リグルト伯爵が話に入り込む。
「アリア。お前、もしかしてそのことを知って家から飛び出したのか?」
「え、えっと…詳しくは家から出てから知ったと言いますか…」
「だったら何故、自分かムサビーネに言わなかった?」
「………」
いや、厳密にはアユミさんが来るまでアリア様は全く知らなかっただろう。ただ、そう言ってしまうと情報源のアユミさんを出さないと辻褄が合わなくなる。しかし、アユミという名前を使わないにしろ、存在をあらわにするのは得策ではない。第一、勝手に外出がまさか部屋から魔法で転移したなど絶対言えないし、誘拐ではないので破れた窓から飛び降りたなども言えない。ただ、あくまで見つからないように外出しただけ…と言うことにしている。その理由がアルビトラウネ云々ならば隠れて家から出るではなく両親に言うのが普通だろう。しかし、アリア様はアユミさんが来るまで全く知らなかったから言えるわけもない。言わば話の矛盾ループ。アリア様は何も喋れない。言いたくても言えないは前世鬱で苦しんだ私には痛いほど気持ちがわかる。私は諦めることにした。
「とりあえず私が知っていることを話せば良いのですよね?」
「まあそうね。端的にが理想よ。王都で色々あったのが原因で予定が午後に流れ込んでいるとはいえ…早急に情報が欲しいわ。」
仕方なしに私は知っていることを話した。勿論、乗り込んだではなく誰かがやった…植物から聞いた…と言う感じで誤魔化しまくったのではあるが…。私は嘘は苦手である。であるならばと、植物からの情報のみを提供という形にしたかったので…全員外に出て植物が喋ったことを喋ることにした。これなら嘘ではない。また、植物の声など私以外誰も分からないのだから都合の悪い内容は聞かなかったことにすれば良いだけであった。最も、その線引きも私は苦手であるのだが…植物の方が空気を読んでそういうことは言わないことにしてくれたらしい。植物は有能であった。
「要は侯爵家で予め捕まっていたアルビトラウネが暴走。別途、市民が奴隷にしていたアルビトラウネが侯爵家に捉えられていたで良いかしら。」
「はい。」
「暴走していた原因とか市民の奴隷が侯爵家の方に行った原因は分からないと?」
「はい。」
「本当?」
「はい。まあ、捉えられていて怒りを買えば暴れるんじゃないですか?私も魔物ですし。侯爵家の方も植物が見てない場所で仕掛けたとか?」
「植物が見てない場所ねぇ…あるのかしら。」
「さあ。植物に聞いてください。」
『姫様はもう完全に投げやりになってるな。』
『人間も面倒臭いのぉ。姫様をそこまで尋問する必要もなかろうに。』
夫人も腑に落ちないという顔をしているが…伯爵と会話していた。予めだが、シュウやマイを投獄する気などムサビーネ夫人は一ミリも考えていない。そんなことをしては、植物経由で今交流があるアルビトラウネの雄花達に全部情報が行ってしまいデレナール領が崩壊してしまう可能性もあるのである。そこら辺を理解していない貴族な訳がない。
「まあいいわ。どっちにしろ、その雄花を助けたいなら…貴方達2人も午後からの会談に参加しなさい。私達はアリアも含めて出席する予定だし。」
「会談?」
「ええ。色々手続きが遅れた挙句、暴動騒動があったから、午後からになってしまったけど…アルビトラウネが盗賊とかに襲われていてその対策をして欲しいと陛下に報告しに行くのよ。で、実際盗賊をほったらかしにした末路が昨日未明から今日の事件に繋がるんだったら情報共有した方が良いと思ってね。最も、貴女には特に参加して欲しかったから私達の護衛に呼んだってこともあるし。」
(完全に手のひらか。)
「お…国王様?!」
「そう。私達もいるし平気よ。マイを連れて行くからには貴方も参加。テイマーがいない魔物はデレナール領ですら警戒が入るんだから、マイ単独は不可能よ。どんなに知能が優れていてもね。昨日の事件もあるから尚更警戒してるでしょうし。」
この後も少々話は続いたが…シュウ君と私に拒否権はないのであった。そして、午後になるまで多少イザコザはあった。栄光達が色々聞きつけて公爵家の門を叩いたというのもある。叩くとは物理的ではなく訪問という意味だが。ベイルさんやメリーさんは私達に謝罪していた。話によると、ハンター総出で暴走した魔物の処理をしていたようで栄光達もそれに参戦。彼らも負傷したらしくさっきまでギルドにいたらしい。まあ、私のことを知っているメンバーである。それ故早々倒れたり大怪我したりはしなかったようだが、それでも長距離攻撃はきついとのことだった。
「お前達も災難だったな。じゃあ、俺らはギルドに戻ってるから用が済んだらギルドに来てくれ。誰もいなかったら今借りてる宿だな。くれぐれも無理はするなよ?あくまで、伯爵様達の護衛は俺らの仕事だ。シュウだけの仕事じゃない。何かあったら無理して戦うんじゃなくてギルドに来いよ?」
と、リールさんからの伝言であった。先日はイザコザで私達は引き裂かれてしまった。リールさん達も心配したのだろう。今回に至ってはほぼほぼアユミさんの無双であったが…流石にここまで頼るのは良くない。何かあったら栄光に頼る。私は人間不信のため頼れないのであるが、シュウ君に至っては納得したらしい。
「うん!ありがとう!」
シュウ君の返事であった。なお、蛇足ではあるが…栄光達は「魔物が暴れているから駆除せよ」というミッションだけで動いていたようで、何の魔物が暴れているかは初めはわからなかった模様。しかし、ツルの攻撃で察したらしい。出来れば彼らが先に魔物を見つけ、マイだった場合はどうやって止めるか考えながら行動していたらしいが…結局仕留めたのは他のハンター。死体を見た直後はマイではないかと愕然としたらしい。取り分けアルビトラウネは花こそ弱点だが…それ以外は多少攻撃しても止まらない。ケリンは左胸に穴が開いても動いていた。ジェスでさえ、花を攻撃されれば最終的に命を落とすにしても直ぐに動かなくなったわけではない。その為、死体の状態は切り刻まれたり燃やされたりと原型も怪しいレベルだった模様。とはいえ…花の色や形云々の前に殺された魔物は服や帽子はつけておらず、従魔の印もつけていなかった。その為、マイではないと分かり半ば安堵ではあったが…ではマイは?と心配していたとのことだった。
思ったことをそのまま言ってはいけない。人間として生きる以上それは必須…しかし言わないと伝わらず自分の立場が悪くなるだけ…人間って本当に面倒臭い生き物ですよね。




