花VS蜂
「あら、魔物という言葉が聞こえましたが…何かありましたか?」
その時、馬車から女性が顔を出した。かなり着飾っている。まあ、この馬車見る限りでも想像できたが、多分貴族かそこいらだと思う。人間の街に来て早々面倒臭いのにエンカウントしてしまっていた。
「奥様。特に問題ありません。そこの子供が魔物を連れていたので少々事情聴取をしていただけです。」
「魔物?はて、どこかしら。」
某女性は私達の方を見ているが、私は魔物と認知されていないようである。
「そこの少女です。あの少女は魔物です。まあ敵意はないようですので問題ないでしょう。」
「え?本当に魔物なの?可愛らしいじゃない!ねえ、私の家に住んでみない?私、魔物育てるの趣味なの!」
直球に言う。変人がここにいる。魔物育てるってどう言うこと?アホなの?
「ムサビーネ。これ以上魔物は飼えないぞ。領民からの領税を魔物に大量に投資しては領民から反感を食らう。」
「でも貴方、見てみてよ?あの子魔物なんですって、可愛くない?」
馬車から男性が覗き込んだ。
「あの子って?子供しかいないじゃないか。」
「女の子の方よ!みたことない魔物じゃない!」
想定外のことが続いているので思考が追いつかない。
「あ、あの…」
シュウ君が口を開いた。
「お姉ちゃんは僕の魔物です。だから…その…」
「あら、既にテイムされているの?それは残念ね。だったら貴方も一緒に来ない?」
「ムサビーネ。」
「えっと…魔物の私から言うのもアレですが、そのお方?そんなに魔物が好きなのですか?」
そばにいた騎士に聞いてみた。
「ええ。可愛らしい魔物をペットの様に飼っております。奥様は本来の魔物についてあまりご存じでは御座いません。…可愛らしいのかは私も分かりませんが。」
「ふーん。」
私の人間の印象がまた変わった。人間イコール魔物処理のイメージだったが、例外もいるらしい。可愛らしいの補足の言葉に至っては小声だった。
「魔物についてはちゃんと知っておいた方がいいですよ。シュウ君も同じだけど。」
「え、僕?それは確かに狼っぽい魔物に襲われた時は命掛けて逃げたけど…お姉ちゃんは優しかったし。」
「はぁ。私が優しいねぇ。。。」
一応言っておく。私はこの50年でかなりの量の生き物を殺してきている。私が捕食されないように。シュウ君は私の本質を知らないのである。
(うーん。このままでいいのかどうか。)
『姫様!緊急です!』
「うん?どうしたの?」
『2kmほど先から蜂型の大型魔物がこっちに接近しているとのことです。』
「蜂?私の花の蜜でも吸いにきたの?」
『おそらく。ただ、体長が2m弱あります。姫様の花はその様な魔物に襲われては損傷は免れません。今すぐ戦闘の準備を!』
「了解。ありがとう。」
はぁ。タイミングが悪すぎるんだよなぁ。ここ街道だよ?木もろくに生えていない。しかも蜂ときた。ようは敵は空中。空中の敵は捕獲しにくいのである。私のツルは直接出すにしろ間接にしろ地面経由。空中となるとタイムラグが多すぎて不意打ち仕掛けても捕まえきれないのである。さらに木々がそんなに生えていないと言うことはカモフラージュも出来ない。既に絶体絶命のピンチである。
「お前、独り言か?」
「お姉ちゃん?どうしたの?顔色が悪いよ?」
「うーん、説明は省くけど…どうやら人間に有害の魔物が空から突っ込んでくるみたい。ターゲットはここ。」
「え?」
「本当か?」
「私が処理する。シュウ君も目に焼き付けておいて。私がどれだけ危険な魔物かと言うことを。」
「え?」
私は街道に自分のツルを突き刺した。街道が例え歩きやすいように固められていようが知ったことではない。グサッと刺さる。そして、門前で待っている人たちを覆うようにツルが地面から生えてきた。地面から生えて、街の障壁の上の方でツルを縛り付ける。
「なんだなんだ?!?!」
周りの人間が動揺しているが無視。大それたことをやってはいるが、見かけ上は地面から勝手にツルが伸びてくるのである。私がやっていると理解している人は少ないと思う。縦方向は障壁の上と地面で、更にそれを補充するかのように横方向にもツルが伸びて網目状に、門前を守るようにツルが張り巡らされた。
「一体何が起きてるの?」
馬車の女性も動揺を隠せない。
「おい!何か来るぞ!」
既に空中には黒い大きな影が見えてきていた。猛スピードである。あっという間に大きくなり、1匹が私が仕掛けたツルに突っ込んだ。
(お疲れ様ー)
ツルに触れたら最後。触れた場所から更にツルが伸びてきて魔物をぐるぐる巻にしていく。魔物は暴れるがもう手遅れである。
『姫様。もう一匹おります。』
「了解。」
もう一匹は前の蜂の魔物が捕獲されたのを見てブレーキをかけていた。だがそれが命取り。後ろから既にツルが伸びており、縛り始めていた。抵抗虚しく地面に落ちて束縛されていく。
「もういない?」
『大丈夫です。姫様お見事です。』
「ありがとう。」
網目状に貼っていたツルが地面に戻っていく。捉えられた魔物2匹は地面に固定。一件落着である。ツルが生えた場所には穴が空いていたが。
「シュウ君。君のお姉さんの魔物はこうやって狩りしているだよ。理解してた?」
シュウ君の顔を見ていると、恐れ半分賞賛半分というなんとも言えない顔をしていた。他の人間は唖然としている感じである。魔物として150年生きて、修行をし続けた魔物を舐めてはいけない。私に逆らったらお前らもこうなるぞ?一種の脅しであった。
「シュウ君…怪我してない?」
「お、お姉ちゃん…凄い。」
「怖くなかった?」
「全然!」
シュウ君の怖くなかったは魔物に対して、私は私に対してであったのだが…認識齟齬については互いに気付くことが出来なかった。さらに私は違和感を感じていた。単刀直入に言う。地面が固い。まあ、人が通る道だし踏み固められているためでもあるが…それゆえ、ツルを地面に刺すとき良く刺さったなーと思ったぐらいである。多分魔物補正であろう。また、今後気付くことにはなるが…踏み固められた土や人が住む町の地面や舗装された地面から養分を吸い取ることは困難と感じることになる。これが今後私を苦しめることになる。
予め、主人公にチート能力はありません。その為、無双物のストーリーではないです。ご了承ください。