幾ら心が人間でも「貴女」は「魔物」です
「復讐って…じゃあアレですか?人間に散々な目に遭ったのが原因で、王都の人間全員を襲ってるってことですか?」
「そういうことー。察しが良いじゃない。」
「って、じゃあ尚更流暢に会話している余裕ないじゃないですか?!止めに行かないと王都が崩壊…」
「しちゃいけない理由は?」
「え?」
「アリアちゃんは王都の貴族じゃない。貴女もシュウも王都の民じゃない。」
「で、でも…ほら、栄光という私達の仲間が…」
「私にとって被験体が生きていればどうでも良いし…たかが魔物一匹が暴れたぐらいで王都が崩壊するわけがない。死人は出るかもだけどさ。その運が悪かった人間達に貴女達を巻き込む気もないし、第一貴女達が向かって行って何が出来るのかしら?と言うより、貴女の立場は?人間と共闘したら貴女は同族から迫害されるでしょう。じゃあ逆に貴女も暴れている仲間と一緒に人間と戦うの?…貴女に戦闘に参戦する資格はあるのかしら?」
私は黙認せざるを得なかった。この魔女の言う通りである。私は結局のところ、冷静さに欠けているのであった。私はあくまで植物の魔物である。人間とは相反する存在。それを私はテイマーという名前を借りてシュウ君と共に…人間と一緒に生活している。全く関係ない魔物ならまだしも、同じ種族の仲間とやり合うことは結局難しく…人間と共闘なんてしたら、どんなに私が雄花に求婚相手として狙われている雌花としても黙ってはいないだろう。今まではあくまで、人間と共存していると言うことで目を瞑られていると言うこともある。既に反発している雄花もいるが。それを、共存という枠を超え雄花とやり合ってはいけないのである。私の宿命であった。なお、蛇足であるが…洗脳された魔物をそのまま救出すれば異常状態吟味で暴れることは目に見えている。それを敢えて、自由になるようにアリア様に魔法具を渡したりした辺り…この魔女が主犯なのであるが、それについては誰も触れることはなかった。
「分かったわよ。…今回は目を瞑るわ。」
「そうそう。それで良いそれで良い。明日、王都が滅茶苦茶になっている様子を楽しみにしながら寝ると良いわね。」
「楽しみには出来ないわね…。貴女、本当に前世日本人なの?マジで疑うんだけど。」
「あら、日本人よ?ただ、魔女になっただけ。貴女こそ、まだ魔物に成りきれていないんじゃないの?前世なんて無視して、今の自分としてやるべきことをやった方が良いと私は思うけど。」
「なんか、直近…どこかの木にも同じこと言われたような気がするわね…。」
どこかの木とはケリンさん達の生みの親のおじいさん木である。『人間を殺せ』『雌花として自覚せよ』である。私はこの2つはどちらも出来ていない。前世鬱で苦しんだ人間ということを未だに引っ張っている。人間という枠組みすら私は卒業出来ていないのであった。そういう意味ではアユミさんは優秀なのかもしれない。
(本当にアユミさんは日本人という枠組みを捨て魔女になったのかしら。じゃあ、私も同じ様に魔物として生きなければならないのかしら。)
私が葛藤する中、世界に色がついた。時間が動き始めたらしい。
「さて、じゃあ皆寝ましょうか。あー、ここら辺には小さな温泉があるけど、皆んなで入る?」
「おい魔女!性別考えろ!」
「とは言われてもねぇ…。ここら辺野生生物が多いからさ。温泉の入る時間帯も決めてるのよ。順番に待っていたら危険な魔物も来ちゃうかもだし…別に魔女と被験体3なんだから良くない?」
「おい!」
「え?」
「は、恥ずかしいです!」
魔女がニヤニヤしながら言っているので完全におちょくっているているというのだけは分かった。魔女の温泉やら時間帯やらが本当のことを言っているのか嘘八百なのかは不明であったが、全員そのまま布団に潜り込むのであった。なお、私は人間ではない。魔物である。布団に入るだけで違和感がしたので…厳密には事故や仕方なしで布団の中で寝たことはいくらかあるが…私は小屋は出ないが…というより出れなかった。魔女が「被験体は閉じ込めておくわ。逃げたら容赦しないわよー。」とか言っていたし、小屋の扉も開かなかった。魔女無双である。その為、窓際に座って寄りかかりながら眠るのであった。私は植物と共生している魔物である。植物に出来るだけ近づいて寝た方が安心感がある。小屋の中には植物など生えているわけないが、窓の外には生えているため本能だろう。
「あら、そんな寝方しちゃって…やっぱり、私信頼されてないのかしらねぇ。」
翌日、私が目を開けると魔女は既に起きていた。子供2人はまだ寝ている。私が起きたことに気付いたのか魔女から声がかかった。
「散々、被験体やら実験材料言われて信じますかね。」
「何なら私が前世日本人ということを証明しましょうか?ここの世界に無い食べ物や地名を言えば信じてくれる?」
彼女は適当に何か喋り始めた。時折、私の知っている日本とは少々違う言葉も入っていたが…知っている言葉もあった…恐らく、彼女と私とでは生きていた年代が違うのであろう。ただ、日本語は理解出来た為比較的世代は近いとは思う。
「わかりました。わかりましたよ。日本人云々じゃなくて…私は、そもそも相手を信じるのが苦手なだけです。放っておいてください。」
「そう。寂しいわね…。」
「それより、良い匂いがしますが…食材は何処から持ってくるんですか?」
「そんなのそこら辺から買ってくるに決まってるじゃない。」
「魔女がそこら辺から物を買ってくるんですか?お金とかは?」
「人間に紛れて働けば稼げるでしょ?魔女は貴女よりも人間に近い外見だからね。」
「それはそうですが…アユミさんの性格的に力ずくで盗んでるなんですよね。」
「あら、残念ね。私、そんな極悪人なスタイルじゃ無いと思うんだけど。もう少し、可愛げな少女を目指そうかしら。」
「少女じゃなくて女性では?」
「じゃあ、アリアちゃんみたいな貴族とか?」
「アリア様の口調を観察してくださいよ。貴族っぽさがアユミさんにはありません。」
「冷たい魔物ねぇ…。」
私は理解していた。多分この魔女、力ずくをしていると。否定してこなかったからね。下手に刺激をしたら私も含め全員魔法で灰にされる可能性はある。私はこれ以上は追求しないのであった。
「じゃあ、全員食事も終えたし…3人は王都に転送するわね。私は人間と関わりたく無いから後はまあ…行きたいところにでも行けば良いんじゃ無いかしら。あ、あれよ。シュウ君。」
「あ、はい。」
「ハーレム生活頑張って。」
「え?」
「じゃあねー!」
私が何か言う前に、令嬢が何かを言う前に全員は裏路地に転移されていた。ちゃんと、人はいなかった。
「シュウ君。」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「あの魔女殺せと言えば私は従うけど、どうする?」
「え?!」
シュウ君には何故マイが不機嫌なのか理解出来ないのであった。もっぱら、魔女をマイが倒すには無理があるが…。




