逃亡した雄花の行方
「あらあら?仲間は見つからなかったの?」
「えっと…」
私達はとりあえず、集合場所に移動していた。ほぼ同時期にアユミさんもやってきており、しょっぱな煽られ私は機嫌が悪い。最初に返答したのはシュウ君である。
「助けたとは思うんだけど…なんだか逃げちゃって。」
「逃げた?うーん、洗脳魔法解けたなら襲うと思ったんだけど。ほら、魔物だし。」
「おい魔女。私達全員さては皆殺しとか考えてなかったでしょうね?」
「まさかー。だって、マイちゃんいるじゃない。仲間なら襲うにしても貴女なら止めれるでしょ?」
「どういう思考回路ですか、それは。」
私はイライラ状態であった。
「魔女様。大分遅くなってしまっています。お父様もお母様も心配していると思います。」
欲を言えば、シュウ君の救出は私の願いでもあるが…アリア様に至ってはなんでここにいるのか分からない。ほぼほぼこの魔女の気まぐれであった。
「うーん、まあこのまま帰ってもどうせ怒られるでしょうし…今日は皆んなで私の家泊まって行かないー?」
「は?」
と、私が言葉を発した時には全員小さな小屋の前にいた。転移魔法でまた飛ばされたようである。魔女の拠点であった。と、その時誰かのお腹が鳴る音がした。
「あ。」
「あら、お腹すいたの?」
「えっと…夕食まだ食べていないかも。」
「あー、私が逃げたのが夕方だったし…シュウ君がそれで連れされたとなると…洗脳魔法って食事も制限するんですか?」
「うーん、食べるなと命令すればね。恐らく、彼の場合…えーっと…捕まっていたとか?」
「捕まっちゃった後、牢屋に入れられて…で、おじさんのところに連れて行かれて…で、気づいたら…」
「良いわ、シュウ君。変な記憶は無かったことにしましょう。」
「現実回避を促す魔物ねぇ。変なの。」
「変で悪かったですね!」
小屋の中に入ると…まあ、相変わらず何も無かったが…魔女の魔法で机に食べ物が出てきた。
「折角の実験体が空腹というのは気に入らないからね。食べて良いわよ。」
「何か入っていたりしませんよね?」
「もう。マイちゃん。そろそろ私を信じてよ。助けてあげたじゃない。」
「それはそれ。これはこれです。」
「はぁ。」
私は魔物として150年以上生きている。前世の記憶も相まって、他者を信じることが苦手であった。とは言え、シュウ君は私の警戒を他所に食事をしていた。
「…美味しそうです。」
「じゃあ、アリアちゃんも大丈夫よ。一緒に食べても良いわよ。」
「え…えっと…」
「あら、貴族にとって平民の食べ物は食べれないのかしら?」
「そ、そんなことはありません。ただ私はもう夕食を済ましていますし…えーっと。」
アリア様はシュウ君と一緒に食べることを躊躇していた。平民とではなくシュウ君と2人で、である。その意味はどこぞの誰かが洗脳魔法で悪戯するのが悪いのであるが…誰も気づいていなかった。
「ま、夜も遅いし…さっきも言ったけど、今日は全員ここで泊まっていきなさい。あー、一応布団はあるわよ?アリアちゃんには満足出来ないかもだけど、諦めて。」
日本人なら誰でも知っている布団が小屋の中に4つ出てきた。
「アユミさん。どっから調達しているんですか?私達が来る想定で準備していたとか?」
まず、この世界の布団ではなく日本風の布団であることに違和感を覚える私であるが…この魔女は一人暮らしである。なぜ4つもあるのか気になる。まあ、どこから出てきたとかは「どうせ魔女だから」で済ますことにした。私だって「どうせ植物の魔物だから」で済ませることがあるからその流れである。
「あー、試作品よ試作品。私、寝るところにはうるさいのよ。」
「試作品でこれですか?やっぱり魔女って何でも出来るのでは?」
「無理無理。第一私、植物となんて会話出来ないし。」
「魔物と魔女を比較しないでください。」
私はやっぱり膨れていた。膨れたほっぺを魔女が刺激したことにより私はまた不機嫌になる。しばらく食事の時間となった。
「じゃあ、シュウ君も食べ終わったみたいだし…早朝、アリアちゃんをお屋敷に返すなら早く寝ましょうかね。」
「返すなら早く返せば良いじゃないですか。私達は…まあ、栄光達に心配されてもアレですけど、アリア様は貴族の娘ですよ?とりわけ先日誘拐されてもうこれです。転移魔法で先ほどアリア様がいた部屋に戻せば…」
その瞬間、世界がまた灰色に包まれた。動いているのは私とアユミさんだけである。
「というわけには行かないのよ。」
「…シュウ君やアリア様には聞かれたくないのですか?」
「うーん、ほら。どっちもまだ子供じゃない。」
「私は?」
「前世日本人の貴女が何言ってるの?」
「はぁ。で?」
「結論から言えば、貴女達3体の被験体は今は王都に返せない。私の実験道具は私の命令無しで死ぬことは許さない。寿命は知らないけどさ。そして今王都は恐らく混乱の真っ只中よ。そこに貴女達を転移したら死んでしまうかもだからね。」
「死んでしまう?」
「そうそう。貴女もあの貴族に捉えられた魔物と同種でしょ。同じことされたらどう思う?」
「うーん、まあブチギレますね。」
「そういうこと。貴女達が魔物を逃したとか言っていたけど、あれは逃げたじゃない。復讐よ。」
「………」
「私は鑑定魔法が使えるって言ったでしょ。貴女達が助けようとしていた魔物って洗脳魔法で操られていたのは知っていたし…探知魔法と併用で異常状態も分かっていたのよ。状態異常名は『制御不能』。ま、後は察してってね。」
魔女は笑みを浮かべた。
この物語って想像の中の話…じゃないと思うんですよね。私の記憶では2回ぐらい日本でも同じようなレベルの事件が起きているはずです。確かに無差別殺人は犯罪です。ですが、その背景に気付けなかった…正しき道に誘導出来ず誤った道に追いやった人や環境はどうなのでしょうか?
後、鬱になったことがあるから分かることですが…暴走した心を外へ吐き出すと事件になりますが…内部へ隠蔽すると牙の矛先は自分自身になります。メンタル系の病気になった方も見てきました。日本は大丈夫ですかねぇ。。。




