魔女の意図
「シュウさん、マイさん。これからどうすれば良いのでしょうか?」
「お姉ちゃん、ごめんなさい。」
「…敵は全員押さえてるし、救出かなぁ。」
シュウ君の苦しみも相当なものである。洗脳魔法の悪いところはやってしまったことの記憶が消えないこと。アユミさんが悪戯でアリア様を弄ったとは質が違う。私はこれが終わったらまたリカバリー手段を考える必要があるかぁと何かに怒りをぶつけたい衝動に駆られていた。なお、お腹に受けた傷は大分痛みが治まってきている。刃物が短いとはいえ、人間であれば脇腹に刺さったとなるとはいそうですかとは治るわけもないが…魔物となるとかなり違うらしい。昔、ケリンさんが胸に大穴を開けていたが…そのレベルでも治癒まで数日である。死にすらしない。子供の力による刺し傷程度では結局私に致命傷など与えられず、ある程度の時間さえかければ治ってしまうのであった。
「で、植物の情報によると…こっちなのよね。」
移動中、ツルに捕獲されている騎士や使用人も見かけた。ただ、真夜中なのでそこまで互いに認知されなかっただろう。されたところでなにも出来ない。明かりは魔法具や、アリア様もどうやら明かりを灯すぐらいの魔法はムサビーネ夫人同様出来るらしい。まだ、マイとかは知らないが、10歳でここまで魔法が出来るだけでもかなりのエリートコース。流石、貴族の娘と言ったところか。
「お姉ちゃん、あれ!」
シュウ君が指を指すとそこには私と同種の魔物がツルに捕獲されていた。
「うん。…うん?どうすれば良いのだろう。」
そう言えばそうだが…この10歳ぐらい…私とほぼ同年代か?…の魔物は魔法で操られている。下手に動かして抵抗されると全員危ない。
「ご主人様?何故私を縛るのでしょうか?本日は既に私の蜜を提供したと思いますが。」
暗闇だからか、相手はまだ私たちの顔が見えていないらしい。
「えーっと、私達は貴女を…助けに来たんだけど。」
「…助けとは…?あ、今日から私の蜜を回収する方が変わったのですか?」
私は唇を噛む。
「これ見てなにか思わない?」
私は帽子を脱いで頭にある花を見せた。
「あ、私と同じです。と言うことは貴女もご主人様に蜜を提供するために雇われたのですね。ここでの生活を…」
駄目だ。会話にならない。私は帽子を被り直す。
「ねえ、2人とも。何とかして彼女の目を…覚まさせたいんだけど、何か方法はない?」
「うーん。」
「どうしましょう。」
敵はこの植物の魔物含め全員監視中のため、襲ってくることはないがあまりここで立ち往生も危険である。しばし考えていたとき、アリア様がポケットから何かを出した。
「魔女様はここでこれを使えと言いたいのでしょうか?」
さっき、アユミさんがアリア様に渡した小型爆弾。この雄花は両手首にツルを使わせないように固定具がついている。
(確かあの魔女は、このリストバンドのみを壊せるとか言っていたわね。)
狙いはそれであっていそうである。ただ、腑に落ちない。
(壊したら治るのかしら?)
洗脳魔法がそれで治るならさっきシュウ君が操られていたときそれこそ使えば良かったのではないか。そっちの方が早いだろう。
「シュウ君はどう思う?…それ使えば良いと思う?」
「うーん、それ以外僕も思いつかないなぁ。」
全員がお手上げ状態。やるしかなさそうである。
「じゃあ、私、やってみます。確か魔力を込めるのでしたよね。」
「出来そう?危なくないの?誤爆とか。」
「た、多分ですけど…魔女様ですし。」
「大丈夫かなぁ。」
あの性格である。アリア様がアユミさんの魔法で怪我なんてしたら自分の不甲斐なさに切れそうである。多分、あの魔女があれだけ余裕そうなのは心から余裕があるからであろう。
「えーっと、ちょっと失礼します。」
「あ、はい。大丈夫です。時折今までも花の蜜を採取されるとき体を押さえられることには慣れています。」
(慣れちゃいけないものなんだよなぁ。)
鎖にアリア様は爆薬を仕掛ける。
「皆さん。念のため離れて下さい。」
「うん、お姉ちゃん。下がろう。」
「そうね。」
アリア様も魔力を入れれたのか後ろに下がってくる。
「アリア様、魔力ってどうやって入れるの?」
「え、うーん…入れようと思うって言うか、かなぁ。」
彼女曰く、魔力の制御や魔力移動は貴族として両親や家庭教師に指導されているらしい。実際に魔法具の作成に体験として携わったこともあるとか。経験豊富な伯爵令嬢である。
「お母様曰く、学校でも学科によっては習うそうなのですが、早めに覚えとけと指導されておりました。」
私的にはうーんである。まあ、貴族である。領のリーダー的存在を求められるので教育が厳しくなるのは分からなくはない。とは言え、10歳ぐらいまででやらせるには重すぎないか?生まれながらにある程度運命が決まっているのは何だか寂しい気持ちがした。まあ、決まっていなくても振り回され過ぎて壊れた前世の私が言うのもおかしいが。
「うわ!」
その時ボンと軽い爆発と言うか…何かが砕けて落ちる音がした。威力控えめとか言っていたし、まあこんなものなのだろう。寧ろ、威力控えめで大爆発だったら速攻クレームだわ。
「ビックリした!」
「え…ま、まあ…とりあえず見に行きますか。」
シュウ君は相当驚いたようである。私も驚いたが…私も本来ならばかなり音には敏感なのだが…魔女を警戒し大爆発を構えていたためそこまで心に響かなかったようである。不思議なものである。




