小さな護衛
「じゃあ行こうか。」
「うん!」
森を抜けて、街道に降り立った。人目が多い時に森から出てくると絶対目立つので植物達の監視の元、人がいない時を狙って森から抜ける。
「おおー」
シュウ君にしてみれば久しぶりの森の外である。私にしてみれば初めての人間が通る場所。どっちの目線からしても新鮮だった。
「どっちだっけ?」
『右手側を道のりです。姫様、人間の住処です。お気をつけて。』
「分かった。向こうが手を出さないならこっちも何もしないよ。」
といった、完全なフラグが立ってしまうのであった。街道から街までは大体1kmぐらいと聞いている。偶に人間とすれ違うのであるが、目を見開かれたり場合によっては「君達大丈夫??」と声かけられてしまった。第三者の目線から見てみれば一目瞭然である。私は下半身は葉っぱで出来た地面を擦っているスカートもどきがあるとは言え、上半身は葉っぱで出来たブラジャーもどきを除き全裸である。腕には2-3周ツルが巻かれているが…。シュウ君も長期間森の中を過ごしてきたと言うこともあり服はボロボロであった。更に言うと、私は見かけはほぼ人間と同じ形、色なのである。10歳ぐらいの女の子。魔物として見られると言うのはある程度魔物の知識がないと無理なのであった。
「あ、うん。」
「私たちは…えっと…すぐそこなのかな…街を目指していて…」
「そうなの。私は反対方向だからいけないけど、門番の人達は良い人たちだから助けてくれるわ。」
「あ、はい。」
私が想定していた人間のイメージと違い過ぎるが、まあ良しとしよう。襲われなければ何でも構わない。今回のミッションはシュウ君を街に帰すこと。5歳児が1人、街で生活できるとも思えないが…前世の記憶で孤児院かどっかならあるだろう。そこで保護して貰えば良い。そうして、歩いて行き…街の出入り口に到着した。人だかりがなければ良かったのだが…なんか馬車が止まってる。
「あそこ?」
「見たいね。どうかしたのかしら。」
まあ並んでるか何かだろう。周りからは都合よく、私は人間と思われているようだしこの調子ならこの子の姉と行った形で抜けて仕舞えば良い。街の中に入ったら、シュウ君がどうやって生きれば良いか検討する必要性はあるがまずは入らないことにはどうしようもない。私は光合成で回復しているが、シュウ君は私の蜜を与えたとはいえ本調子からは程遠いだろうし。とりあえず、馬車の後ろに並ぶ。
「ああ、すまん。ちょっと時間がかかっていてな。」
後ろに並んだ時、馬車の護衛っぽい騎士?が私達に声をかけてきた。
「あ、大丈夫です。」
私は苦笑いで相手に返答する。しかし、相手は私をじっと見つめた。
「…魔物か?!」
「え?」
うわ!油断したわ!とっさに私はシュウ君の後ろに避難する。とは言ってもシュウ君もまだ5歳程度。避難したところであまり意味がない。
「なんだ?魔物だって?」
すぐ横にいた騎士が反応してしまった。これは不味い。私は不意打ち専門である。正面突破は得意ではない。むしろ超ハイリスクである。私は更に後ろに下がる。本能が言っている。危険だ殺せと。ただ、シュウ君のことがある。ここでやり合ったら全部がパーである。
「シュウ君。お願い。」
小声でシュウ君に声かけした。勿論やり合えと言う意味ではない。子供が騎士に勝てるわけがないし、打ち合わせ通りにである。
「あ…えっと…」
(シュウ君ー!もっと自信を持ってー!)
そんな怯えた声では返って相手を擬人暗鬼にしてしまう。
「お、お姉ちゃんは…お姉ちゃんは…僕を助けてくれたの!だから…だから…やめて!」
駄目だこの子。約束滅茶苦茶である。
「助けた?この魔物がか?」
「うん!お姉ちゃん助けてくれた!」
「魔物だぞ?お前その意味がわかっているのか?」
「はぁ…。」
私が騎士2人を睨みつける。私は前世人と会話することが苦手だったのだが…今は魔物、且つ外見は置いておき中身は私の方が圧倒的年上である。その思い込みが私を喋らせることを可能にしていた。現実世界ではあまり喋れなくてもゲーム内ではペラペラ喋れるのと同じ感覚である。知らないうちに私は前世とは異なる性格を身につけていた。
「シュウ君が言っていることは本当ですし、別に貴方達が手を出さないならどうこうするつもりもありません。私はこの子が手を貸して欲しいと言ったので手を貸すことにしただけです。何か問題ありますか?」
「お前、人間の言葉喋れるのか?」
「どうやら喋れるみたいですね。ですので、人間が何もしないのであればこちらも何もしません。シュウ君が襲えとか言えば話は変わりますが…。」
「と言うことは、その子供は魔物使いということか?」
「う…うん!お姉ちゃんと一緒にいたいから、登録しに来たの!」
お、ようやく台本の方に引っ張っていけそうである。人間とやり合うのはゴメンだからね。口頭で解決できるならその方が良い。
「そうか。だったら早く登録するんだな。登録していない魔物はハンターたちに狙わられる。せっかくテイム出来たのに殺されてしまっては無慈悲だろう?」
「テイムって?」
「お前、知らないで魔物使いになろうとしているのか?」
「シュウ君。簡単に言えば、魔物を仲間にしたという意味だよ。」
「随分魔物の癖に人間について詳しいな。」
「褒め言葉として頂いておきます。」
この騎士2名はまだ疑っているな。まあ、人の魔物を襲うなんてことは御法度である。シュウ君が魔物を登録しに来たと言い張る限り、攻撃は出来ないはずである。
人間との関わりに伴い性格が変わりつつあります。普段頼り甲斐があるのにいざとなると機能停止する子と普段頼りないのにいざとなると本領発揮する子どちらが好きですか?