決死の逃走
(これは一体どうなっているの?)
私は雲梯で移動しながら逃げまとう。何せ、どう見ても私を追って来ている知らない人間が何人もいるのである。言わば地上に降りたらゲームオーバー。違和感に気づいた私は極力人通りが少ない場所で且つ雲梯出来る場所で逃げているが…それでも明らかに追われている。追っているものの大半が一般市民のため、撃ち落とされることはないが…物や魔法が飛んでくることもなきにしもあらず。植物達の声かけのもと事前に予告が来るようなものの為、シューティングゲームのベリーイージーモードをリアルでやっている感じにはなるのであるが…ゲームではないのでミスったら死亡である。と言うより、体力がどんどん減っていくため…軽症は既に負ってしまっている。出来るだけ上を雲梯で動いていたり、長年培ってきた雲梯の技術で今はなんとかなっているが…長期戦はヤバい。既に外は大分暗くなって来ているのである。私は人間よりは目が優れているので夜にも強いが、多勢に無勢はキツすぎる。
(早急に…避難場所を…)
移動しながら無意識の内に、後植物達の案内のもと…敵を上手く撒きながら…気付いたら夫人の姉が住む公爵家の屋敷に向かっていた。公爵家であれば警備が厳重。用もない一般人が入っては来れず、洗脳魔法に汚染されているであろう人もいないとのことであった。植物達が何で判断しているかわからないが…厳密には今操られている人間は全員マイを探したりしているため植物にもわかるらしい…そこへ向かっているのであった。
『姫様。門番は無視して木々の上からお入りください。門番で立ち往生するのはリスクが伴います。』
「はぁ…はぁ…う…うん…」
私は既に体力が限界。体も時折かすったりするダメージで痛みを発している部分もある。花に当たらなかったのが幸いか…いや、当たりそうな時はマイはツルを駆使し体で受けていた…帽子も被っている…もう不法侵入とか冷静に考えれる余裕は私にはないのであった。当たり前だが、公爵家の家にそんな侵入しやすいような木々などない。ただ、マイは魔物である。障壁にツルを絡めゴリ押しで乗り越える。大分暗いため目と言うより植物の案内で最適ルートを通っていった。
(そう言えば…アリア様なら…何かしてくれるかも。)
厳密にはアリア様の背景にいる魔女である。私と同じく日本人転生者。植物達に声をかけ、彼女の部屋…厳密にはアリア様の従姉の部屋…へ外から向かう。ガラスはまだ割れたままであった。昨日の今日なのでまだ対応しきれていないのだろう。ただ、子供部屋かつ女の子の部屋はここしか無いらしくアリア様はここで生活を余儀なくされている。どんなに妻が姉妹とはいえ公爵と伯爵では扱いの差などどうしても発生してしまうのだった。
(何とか…入れ…)
ツルで引っ掻けそうな場所を植物の指示のもとゴリ押しで探し、勢いをつけてアリア様がいる部屋に飛び込んだ。着地は失敗したが、転がり込む。
「え、何々?!」
アリア様は部屋で食事をしていたようである。アリア様は若干引きこもり気質がある。両親から子供としてではなく貴族として接しられてきた。それも吟味し、家族で団欒と言うことは少ないらしい。と言うより、マリア様やアリア様誘拐事件、並びにアルビトラウネ襲撃事件が原因で両親ともに娘そっちのけであった。
「あ…アリア…様……魔女、呼べる?」
私は体力の限界であった。床に倒れ込んだまま、息切れをしながら、体のあちこちが痛いが…それだけは伝えた。
「え、ま、魔女さんって…アユミさん…と言うより、その怪我どうしたの?!今誰か…」
「ダメ。私、逃げてきた。…今、私の居場所…知られると、殺される…匿った、貴女も…。」
「え、え?」
「あらーまた侵入者?全く、懲りないわねぇ。」
急に聞き慣れた声がしたかと思うと、2人の横に魔女のアユミさんが立っていた。服装も、ザ魔女である。
「…うん?これはどういうことかしら?」
魔女の彼女である。探知魔法などお手のものだろう。この部屋には2人しかいない。更に、先日知り合ったマイがいるが…恐らく侵入アラートがなった原因だろうが、本人はボロボロ。仕舞いには護衛しているアリア様が救護…は出来ていないがあたふたしている状況である。
「マイちゃん、アリアちゃん?これはどういうこと?あ、私がいる間は外部犯誰も来れないように防音魔法と部屋ロックは宜しく!」
とか言いながら、部屋が勝手に施錠する音が聞こえた辺り自分でやってしまったようである。
「えっと、魔女様。マイさんが。」
「ちょっと見せて?」
仰向けで倒れている私に対し、アユミさんが近寄る。
「うん。命に別状は無さそうね。フーッ、折角良い被検体が出来たのに翌日いなくなるのは困るから良かったわ。」
言い方は最悪だが、魔女だからしょうがない。実際のところ、本人自身も魔女のためそのような発言になってしまうらしい。
「勝手に…実験体に…しないでほしい…」
「良いじゃない。使えない被検体は破棄すると言う人もいるんだから。まあ、私癒す系の魔法は使えないからゆっくり休んでねー。」
「…とはいっていられない。貴女の力が必要…。」
私はある程度被ダメを受けているが大半が一般人からの攻撃。たまに一般人じゃなさそうな怖いのもあったけど。植物達のお陰でダメージ量も少なく、急所の花は無傷。まあ帽子は被っていたが、あくまで匂い防止のため…矢なんて飛んできたら貫通してしまうだろうし。今から考えてみると、ツルを使って移動していたのが原因で魔物とバレていたので歩けばバレない可能性…いや、無理か。とにかく、吹っ飛ばしてきたことによる疲労の方が多い。私は起き上がろうとしたが、アリア様に止められてしまった。




