あ、手が滑った
「とりあえず、作戦を説明するわね。シュウ君にも頑張って貰うわよー。」
悪徳市民についてはウィリーさんが調査済みである。現場へ直行中であった。
(待って、どうやって処理するの?)
私は初っ端フリーズした。敵は悪徳市民1人。だが、恐らく囚われたアルビトラウネは家の奥…地下が有力。で、民家は普通に住宅街にある。敵が素人云々問わず乗り込めば目立つ。
「お姉ちゃん。買い物したい。」
「え、まあ…ウィリーさん。シュウ君が買い物したいみたいです。」
「ええ、大丈夫よ。情報は私とマイちゃんからだけだけど…良い方法無いか私も考えてる。何か閃いたら教えてね。全く、リーダーも無茶振りするんだから。私はアーチャーなのに。」
ここのメンバーは遠距離のみである。乗り込む方法もよく分からない。
「うーん、とりあえずこれ。」
シュウ君は植物が生えた植木鉢を2つ買ってきた。子供でも片手で持てるぐらいの小ささである。
(何に使うのかしら。まあ、私に取ってみれば仲間が増えた感じだけど。)
狙いは分からないが、植物と会話出来る私の能力を吟味して買ってきたんだろう。流石私のテイマー。私の扱いには慣れている。
「侵入経路は正面しかないわ。窓から入るのは簡単だけど、こんな真っ昼間じゃ目立ってしまう。」
「じゃあ夜とかは?」
「リーダーの意図的に早急に助けて欲しいみたいなのよ。多分、ベイルやメリーのことを考えてだと思うけど…無茶振り。第一私はアサシンじゃないし。」
「うーん、じゃあとりあえず玄関から声掛けしてみますか。」
手段が思い付かないのでとりあえず声掛けから始めることになった。私は2人の影に隠れて行動する。リスクが初めから高いのでちょっとでもリスクを押さえたい。
「すいません。どなたかいらっしゃいますか?」
ウィリーさんが扉を叩く。シュウ君は横にいる。私は後ろで、植物達と打ち合わせをしていた。極論、私を攻撃してきそうなやつがいたら即刻報告である。
「誰だ?」
扉が開くと、ポッチャリ系のおじさんが立っていた。
「えっと、しがないのハンターです。単刀直入にですけど、密入された魔物がここの家にいると言う情報を聞き調べに来ました。」
「あん?知らねえなぁ。他を当たってくれ。」
男性は扉を閉めようとする。この段階で黒確定なのだが…無罪なら中に入れてくれるだろう。門前払いはありえない。
「そんなこと無いもん!皆がそう言っているって言ってるもん!」
シュウ君が叫び持っていた植木鉢を持ち上げた。
「植物さん達がここの家に魔物が捕まっているって言ってるもん!」
「は?」
おじさんは何言っているんだこいつと言う目線で見ている。なお、当植物達は
『あ、言ってねえぞ?』
『良いじゃない。本当の事みたいだし合わせても。』
『姫様のお仲間じゃからな。きっと考えがあるんじゃろうな。』
とかとか、植物内でも意見が割れている。かなり前に植物と会話が出来ると嘘をついて私を誘拐しようとした輩がいたが、嘘も方便と言う感じらしい。私は嘘つくのが苦手なのだが…。ウィリーさんも便乗した。個人的に適応能力は栄光内ウィリーさん最強だと思う。
「そう言えば密入された魔物って植物の魔物みたいよ。だから植物と会話が出来るらしい。この植木鉢の植物は聞こえているのかもしれないわね。」
「だからなんだ。お前達ハンターだって魔物殺したりしてるだろうが。寧ろ魔物は悪なんだから見かけたら何しようが関係ないだろ。」
私は思った。話が噛み合っていないと。
「あのねぇ。それは人に害をなしたりしたら殺すけどさ…用もないのに手を出すハンターはいないわよ。今回の報告は取り分け街に来られたりすると人間でも手に追えなくなる可能性がある魔物なの。だから、貴族達が手を出してはいけないと言いふらしているはずよ。そしてここにその魔物が捕まっていると報告が来たわけ。別に何もなければ情報が間違っていたでおしまいなんだから調べさせてくれないかしら?」
「しつけえな!帰れって言ってんだろ!」
男性は扉を閉めようと取手を取ろうとしたが、もう手遅れだった。彼の後ろの床からツルが伸びて来ており彼の首を絞め始めていた。
「アガガガガ!!」
「お姉ちゃん?!ストップ!」
私はツルを操作し、彼を束縛した上で家の片隅に連れて行っていた。玄関は土だったのでツルが刺さったし、植物の生命力を舐めてはいけない。前世コンクリートでさえ数十年も経てば植物は突き破って生えてくるのである。それが魔物となった1人がマイである。家の床をツルで破壊するなど簡単だった。
「あ、シュウ君。ごめんね。ちょっと手が滑った。」
「手が滑ったって…まあ良いわ。騒ぎになっていないわよね。」
「丁度人通りが少ない時を狙ってみた。手が滑っちゃったんだけど。」
「ああ、もう良いわよ。じゃあ、これからどうしましょうか。中を調査よね。」
「あ、それでね。この植物達を使えると思ったの!」
蛇足であるが、貴族がある魔物を襲うなと言ったとしてもそれが民間に通達されているとは考えづらい。ハンター達ならわかる。シュバレルさんみたいに魔物の研究者とかだったら生態系調査等をしていれば自ずと情報は入るかもしれない。しかし、ここは前世のインターネットやメディア等が発展している世界ではない。前世ならば人間に酷似した生き物が地球上で発見されたら一瞬で情報は流れるだろうが、この世界では発信することも受信することも出来ないので関係者以外は全く知らないだろう。午前中の老夫婦ごとく「人間の女の子」として初めは処理されるはずである。雄花が話して初めて人間ではないとわかるだろう。会話の流れ的に今縛り付けられてしまった男性は間違えなく捕捉している女の子が魔物と理解している。それだけでも既にグレーゾーンであったのだが、その違和感に気づいた人はマイも含めていなかった。




