自分が幸せの時、仲間が傷つけられていたら…
「たまたま逃げた先に畑があって…ツルを使って全力疾走だったから、だけど食べ物もろくになくって…ここの畑に佇んでいたのです。」
私達…と言うより雄花の主食は魔物である。王都に魔物がホイホイいるわけがない。違う意味で大惨事である。ただ、まあ私達アルビトラウネはそもそもが植物の魔物。光合成で生きていける。この雄花は畑で休み、翌日に日が出たら体力回復して逃げようと考えていたらしい。
(ただ、まあ…管理人に見つかったと言うわけね。)
この畑の持ち主がこの家の家主…今さっき腰を痛めていたお爺さんである。畑仕事しているならまあ見に行くだろう。そして女の子が佇んでいたら…しかも上半身疑似ブラジャーを除き半裸だったら、ビックリ仰天だろう。
「いや、声をかけるまでは納得出来るが…見かけが女の子だからな…声かけて襲われなかったのか?取り分け盗賊に売買されそうになっていたのにだが。」
「いや…怯える様子はあったがのぉ。」
「僕、人が怖すぎて…攻撃する勇気すらでなかったの。」
今は知らないが、どうやら当時は声をかけられたとき反撃ではなく逃げの対応を取ったらしい。おそらくそれが正しかったのだろう。攻撃していたらこのお爺さんは間違えなく死亡。お婆さんが死体を見つけ…或いはツルの残骸を見かけ、お爺さんが行方不明とか…誰がやったかから始まり、まあいずれ私達ことアルビトラウネと言う魔物がやったとバレるだろう。そうすれば、誘拐された云々関係なく駆除が始まる。人間が喧嘩を吹っ掛けたのに人間の都合で私達が駆除され全面戦争であろう。私は前世から「考えすぎ」と言われて悩んできたが…どう言った流れだろうが魔物が人間に手を出せば殺し合いなのである。
「初めは警戒されてしまってどうしようか迷ったが…誘拐されて逃げてきて身元もよく分からないみたいじゃったからのぉ。お婆さんと相談して保護することに決めたのじゃ。息子や娘たちは既に家を出てしまっておるしのぉ。」
この雄花…誘拐されて人間に対する警戒心がさらに上がっていたと思うのだが…どうやらこのお爺さんが上手く丸め込んだようである。どうやったのかは謎であるが…私は前世から今に至るまで怒り狂った相手をなだめることは出来なかった…むしろ理不尽の怒りに振り回されて自傷していたことだけは覚えておる。
「それで今に至ると言うわけか。」
リールさんは腕を組む。しばし沈黙が続く。
「ねえねえお姉ちゃん?」
「うん?僕?僕は雄花だからこれでも男の子なんだよ。まあ、お爺ちゃんやお婆ちゃんも納得してくれないんだけど。」
「お姉ちゃんって…今幸せ?それともここがヤダ?」
「え?」
シュウ君が突拍子もないことを聞いた。私は驚きながらもシュウ君を見る。
「僕もね。昔売られちゃったの。それで馬車が魔物に襲われて…なんとか逃げて逃げて…で、お姉ちゃんに助けられたの。僕もう帰る場所無いけど、お姉ちゃんと一緒に生きれて幸せなんだよ。お姉ちゃんは連れ去られたって言ってたけど今はどうなのかなって。」
シュウ君の過去は私も多少は知っているがエグいものである。シュウ君は昔の記憶とこの雄花の現状を照らし合わせているのかもしれない。
「僕は…幸せかどうかは分からない。ただ、人間が全員悪じゃないことは分かったかな。…でも…」
少し間が空いた。
「僕より酷い目に遭ってる弟たちがこの王都にいると言うことは分かってるから…僕は助けに行きたい!だけど、僕は逃げるだけで精一杯だった!今でも植物から時たま話が飛んでくる!だけど…助けたくても…」
雄花は泣き始めてしまった。お爺さんやお婆さんが彼女の肩を叩く。頭を触らない限り扱い方も触れ合いながら学んだのだろう。私は指を顎に当てリールさんを見る。
「どうします?個人的、ムカつく人間全員ぶっ殺すもありですよ?私魔物だし。人間のルールなんて知りませーん。」
「マイ。やめろ。お前の場合本気でやりそうだからな。シュウ、マイが暴走しそうになったら早めに連絡してくれ。暴走してからでは遅い。」
「う、うん。お姉ちゃん、雄花さんは皆で助けよう?だから一人で抱えないで?」
「ムー、シュウ君がそう言うならそうする。」
甚だ人間を殺す予定など私には無いが…と言うより出来ないが…冗談はさておき、雄花の様子的に早く動いた方が良さげである。
「まあ、俺らも誘拐された魔物を調査しているからな。依頼者はこいつだが。」
リールさんは私の肩を叩いた。
「え、雌花さん。他の子達も…」
「まあ気分よ気分。で、シュウ君も言ってたけど貴方はどうしたい?見た限りその2人をとっちめなければいけないと言うわけでもないし…むしろ、他の情報が知りたい。」
「えっと…」
雄花は老夫婦を見た。
「僕にも雌花ちゃんを守ると言う使命はあるし…だけど、2人とも優しく接してくれたし…だけど、弟たちを助けに生きたい!」
話を聞く限り誘拐された3匹のうち最年長が彼らしい。
「わがままだな。まあ安心しろ。俺はそう言うの好きだからな。シュウ、お前が彼だったらどうする?」
「あ、えーと…」
少し考えた後…
「僕なら助けに行く!だってリールさんだってお姉ちゃんだっているもん!皆強い!で、助け終わったらそのときまた考える。」
「よし良い答えだ。だからまずは残りを助けるためにお前が知ってることを教えてくれ。行く行かないはお前が決めろ。」
「…分かった!」
雄花は希望が見えたのか大分表情が明るくなった。暫し作戦会議が続く。老夫婦も横で聞いていた。気付いたらお昼になっており、御馳走まで頂いてしまった。
「よし。やはり先にウィリーが行った方からだな。話を総まとめにすると、地下に閉じ込められてるのか?」
「多分としか言えない。室内には植物がないと情報が入ってこないし…」
植物の声…厳密には声ではないが…は、意外に広範囲まで届く。具体的な距離は言い辛いのであるが…だから、地下に植物があって…或いは室内に植物があればそこ経由で外に情報が渡ることがあり得る。ただ、何もなければ情報は流石に来ない。閉じ込められていると言う話も植物が見たと言うより、罪人やその周辺が話しているのを植物が盗み聞きしたが正しいようである。なお、もう一匹は外に留置されているようだが…今は保留となった。原因はそのときにまた言及しようと思う。単刀直入に言えばそっちの方が危険だったのである。
「そうだな。ウィリーも昼になったしギルドに戻ってるだろう。ベイルやメリーもな。寧ろ俺らが一番遅れちまっているが…直接接触しているのは俺らだけだから、多少遅れてもまあ仕方ないで済むだろ。」
「心配すると思いますけどねぇ。」
結局、雄花については私と違って変装手段が無いと言うこともあり残ることになった。多分あの雄花は何だかんだであの老夫婦を気に入っているんだろう。おじいちゃん木から生まれ命令を背いているわけだが…そんなこと言ったら完全フリーな私はよく分からないし、束縛されない方が幸せなのかもしれない。そう思いながらギルドに戻った。
たまには平和も良いと思います。ここからが本番。




