花VS爺
「で、この家でいいんだよな。」
「アーハイソウデスネー」
「シュウ、すまない。マイの機嫌を何とかしてくれ。」
「え…うーん、お姉ちゃん…よしよし。」
「うわーん、シュウ君が子供扱いしてくるー。」
シュウ君が私を撫でたら私は焦れた。時折意味が分からないのがマイの特徴である。シュウ君は本当に10歳、マイは見かけ10歳中身150歳を越えている。どっちが大人なのか分からない状況だった。
「全く、じゃれ合いはよそでやってくれ。さてと…すまない。誰かいないか?」
リールさんが畑の横にあるごく一般家のドアを叩く。そして出てきたのが…エプロンだけを来ている…逆に言おう、エプロン以外着ていない…11歳ぐらいの女の子だった。
「な?!」
「え?!」
リールさんと私が同時に声を出す。シュウ君は無言ではあったが、まあ驚いただろう。補足をしておく。エプロン以外着ていないと言ったが、葉っぱで出来たスカートは身にまとっている。頭には顔の半分をこえるピンク色の花が着いていた。
「えっと…どちら様?」
全員が硬直したが…再起が早かったのはリールさんだった。
「あ、すまない。ここの家の主か何かと話がしたいんだが…」
「お爺ちゃんと?別にいいけど…お爺ちゃん!お客様みたいー!」
少しするとゆっくりと奥の方からお爺さんがやってきた。
「お客様かえ?こんな辺鄙なところに誰じゃ?まだ作物の取り立てでは時期が早いと思うのじゃが。」
おいおいだが、王都の端で農家をしている彼らは収穫時期が来ると王都の商店に売りに行くらしい。その際流石に老夫婦だけでは無理なため首都から手伝いを呼ぶとのことであった。
「あ、いや…そう言うわけではなくてだな。」
「じゃあ私から、そこの女の子に…これ見てどう思う?」
私は帽子を取ってシュウ君に被せた。私の花を隠すためかつ消臭するために存在する大きめの帽子である。シュウ君には緩すぎた模様である。
「あわわわわ、お姉ちゃん。なにも見えない!」
シュウ君の反応はさておき…
「え…僕と同じ…違う、雌花さんだ!お爺ちゃん、雌花さんが着てくれたよ!きっと僕とお付き合いしたいんだ。仲間が増えるよ!」
なに言っているのか分からなくなってしまった。
「え、お主?どうかしたのかの?いつもはもっと大人しいじゃろうに。」
「えーっと、お付き合い云々は横に置いておいて…聞きたいことがあるんだけど。」
「なになに?」
私はシュウ君から帽子を回収して頭に着けながら言った。
「貴方、誘拐された…或いはそれに関する情報…」
その瞬間、お爺さんが雄花の前に出てきた。
「お主らか!この子を誘拐して奴隷として売り飛ばそうとした盗賊めらは!わしはこれでも戦えるのじゃぞ!悪党は…」
その時グキッっと音がなった。お爺さんはその場に倒れ込む。
「お、お爺ちゃん!」
「…大丈夫じゃぞえ、こんな幼い子が盗賊にまた渡るのならばわしは立ち向かうぞえ!」
言うことは立派だが、倒れたままでは説得力がない。
「えっと…お爺ちゃん、大丈夫ですか?」
最早シュウ君にまで心配されてしまっていた。
「悪党に心配され…」
「とりあえず俺らは悪党でもなんでもない。しがないのハンターだ。お前が誘拐されたとかと言う話で調査をしている。話を聞かせてくれないか?」
愛想を尽かせたリールさんが主旨をこちらに戻した。
「え…えーっと。」
「私も調べに来たの。本来雌花が雄花を助けるなんておかしいって植物達がブーブー言ってるんだけど、放っておいて関係ないシュウ君に被害が被ると嫌だからね。」
私はシュウ君の肩を叩きながら言った。理由が自己中の酷いのだが、助けてもらえるのであればと雄花は話し始めた。
「お爺ちゃん。この人達は僕を助けに来てくれたみたい。中に案内しても良い?」
「う、うむ…お前がそう言うなら信用するのじゃ…」
「全く…威勢は良いが歳を考えろ、全く。」
倒れたお爺さんはリールさんが担いで部屋の奥に連れていく。雄花は先に奥に行ったかと思ったら、客間だろうかリビングだろうか…お婆ちゃんと一緒に軽い食べ物と飲み物を準備していた。
「あら…旦那が迷惑をかけたようだねぇ。旦那は正義感が強くてねぇ。」
「あ、いや。大丈夫だ。それより、その魔物について話が聞きたい。俺らの情報だとその魔物は闇取引に使われる予定だったはずの魔物だ。また、その魔物…アルビトラウネ族は人間が手を出してはいけない魔物として指定されている。お前達が何故その魔物と共にしているのか教えてくれないか。」
お爺さんを椅子に座らせた後、リールさんが問い合わせる。前世で換算すれば、「なんでお前覚醒剤持っているんだ?」である。使用の有無問わず所持だけで犯罪である。え、シュウ君?そのルールが出来る前だったし、私から近付いたんだから良いんじゃない?
「何故と言われてものぉ。畑の奥で女の子が1人佇んでいたら助けたくなるのが常じゃぞ?」
話を総合的にまとめると…その雄花は上手く逃げ仰せた後、とりあえず逃げようと努力したらしい。ただ、王都は複雑である。逃げたときは夜だった模様。その為、迷子になってしまったらしい。焦っていたことも考慮し、植物の声とか植物に頼るとかが出来なかったとのこと。
(まあ、命辛々なら冷静な判断なんて出来ないわよね…)
例えば予め地震が来ると分かっていれば、地震が来たときに「あ、来たな」と思って危ないところから逃げれる可能性がある。車が横から来ていることが分かっていれば早く行こうとか待とうとか出来る。しかし、緊急時だとそれが出来ない。急に大地震がくればパニックで思考が真っ白になり気付いたらタンスに潰されてるだろう。急に横から車が来たら思考停止して気付いたら撥ね飛ばされるのである。危機的状況では私たち魔物でさえも出来ることが出来なくなるのは当然であった。




