母と子
「こ、ここは何処でしょうか?」
アリア様が訪ねる。
「夢だったのかなぁ。あ、だけどアリア様もいるし…。」
シュウ君は何故か現実回避していた。
「シュウさん。様って言うのはやめてって言ってるじゃん!マイさんもそうなんだから!友達に上下関係はなし!」
「ええ…」
アリア様は急に我に返ったらしい。
「まあ、これは何処へ行けば良いかなぁ。うーん、とりあえずあの館かな。アリア様の無事報告しないと。」
メリーさんが路地裏から出て行くので全員がそれに従う。アリア様は服装が一般人のそれではない。一目を引くが…恐らく伯爵令嬢が誘拐されたと言う情報も流れている可能性もあるが…昨日の今日だし、外の貴族のため回りから声をかけられたりはしなかった。
「よし、到着!えーっと、あ、すいません。昨日のハンターです。」
公爵家の門に着き、門番に声をかける。
「ああ、栄光の…お仲間は揃いましたか?数時間前に他の方が来まして、アリア様を探しに出かけ…」
「あ、そうなんだ。アリア様を保護したから連れてきたんだけど。」
「え?」
その瞬間、別の守衛が驚いた。
「はい。お蔭様で私はこの通り無事です。お父様とお母様に…」
「おお!さあさあ、どうぞ。デレナール伯爵様も相当心配されているようです。」
難なく門を突破し、屋敷のなかに入る。何処へ行けば良いか分からなかったが…流石伯爵令嬢。人の使い方は分かっているらしく、メイドやらを捕まえて両親のもとへ向かっていった。
「失礼します。お父様、お母様、ただ今戻りました。」
アリア様は大きめの扉をコンコンノックした。その途端、室内から誰かが走る音がする。扉が開き、そこにはムサビーネ夫人が立っていた。
「ああ…アリア…良かった…無事で…うう…」
夫人は娘に抱きつきすすり泣く。私はこの夫人怖いしシュウ君泣かしたことあるし嫌いなのだが…このときばかりは、ああ…やっぱり母親なのか…と考えていた。この後、部屋に全員入り…予想通り全員尋問された。
「成る程、ガラスを割られ侵入されたと。」
「はい。気付いたら何かを鼻と口に当てられてしまい気を失ってしまって…」
「全く、もっと強化なガラスはないの?」
いや、前世じゃないんだからそんな強化ガラスないだろ。
「犯人は捕まえたの?」
「あ、それが…」
アリア様が私達を見る。…アリア様は気を失っていたので良く分からないだろう。
「メリーさん知ってます?」
「えっと…あー、聞きそびれたなぁ。」
「聞きそびれたとは?」
仕方ないので、私がフォローすることにする。
「植物達の話では犯人は殺されたみたいです。殺した人がアリア様を助けたみたいですけど…死体は植物達も何処へ行ったか分からないと言っていました。」
「それってどう言うことよ。植物なんてそこら辺に生えてるじゃない?」
「そう言われても困るのですが…植物が分からないと言ったら私も分からないです。」
夫人は無言になる。私も分からないんだからどうしようもない。
「犯人が再度アリアを襲う可能性はあるのか?」
「先程も言いましたが死んだことは間違いないとのことです。」
「マイちゃんに補足だけど…仲間はいるみたいです。王都を全部洗い出すとかになっちゃうけど…。」
メリーさんの補足にアリア様の両親は共に黙る。危険は隣り合わせだが、今日の明日で返るわけには行かない。少なくとも陛下との会見が終わるまでは。
「犯人を殺した奴は?貴方達の誰か?」
「えっと…知らない方でした。」
「知らない人?貴方達じゃないの?」
アリア伯爵令嬢が応答するが、ムサビーネ夫人はまあこう言う性格である。嘘を突き通すのは難しい。
(娘ぐらい信じてあげれば良いのに。)
私はそのような考えを持っていたが…夫人は貴族として娘を見ているようであった。暫し尋問が続く。本音を言う。マジで辛い。
「ムサビーネ。アリア達が困っているじゃないか。そこまで追求しなくてもな。」
流石に伯爵様も愛想を尽かせたらしい。
「貴方。ダメよ。偶然帰ってきたじゃ困るんだから。」
まあ言わんことも分からなくはない。マリア様のこともある。母親として警戒しているのだろう。それに貴族と言う概念を組み込みすぎている感じもするけど。
「メリーさんどうします?これだと全員帰れませんよ?」
私は小声でメリーさんに声をかける。シュウ君に至っては涙目である。これだからこの夫人は嫌いである。
「えっと…アリア様を助けて下さったのは私の師匠なんです。ただ、人目を避ける性格でして…保護したアリア様をどうすれば良いか分からなかったようで私に相談に来たので…」
「ふーん。誘拐犯とは言え容赦無く殺すのが貴女の師匠なのね。」
「あ…はい…。」
メリーさんも怯えてしまったようである。或いは師匠について指摘されたので気になったのかも知れない。私が知る限りだが、この夫人を言葉でボコせるのはミサさんぐらいであった。
「その師匠に会うことは可能?」
「えーっと…師匠たまたま王都にいたみたいで…既にアリア様を私達が受け取った後にまた旅立ってしまいました。」
「そうなの。ふーん、まあ良いわ。貴方、アリアの護衛についてなんだけど。姉様の護衛が全く信用出来ないから…」
伯爵と夫人が会話をし始める。私達は蚊帳の外になってしまった。
「あ、すまない。お前達は退出して大丈夫だぞ?」
漸く私達3人は解放された。シュウ君のお腹がぐーとなる。数時間捕まってしまっていた。
「お姉ちゃん…お腹…すいた…。」
お腹すいたと言っているシュウ君は涙目であった。
「あー、すいません。メリーさん。シュウ君は私がなんとかしますのでしばらく栄光の他のメンバーには席を外すと伝えてもらえませんか?」
「あ、うん。いいよ。うーん、リーダー達はどこ探してるのかなぁ。多分宿かギルドに行けば会えるかなぁ。」
栄光の他のメンバーはアリア様を探しているはずである。ただ、本人はもう伯爵に渡してしまっているので探しようがない。アリア様を狙っている輩がまだいたら厄介だが…同じ誘拐事件は起きなかった。と言うのも、私が王都にいる間植物達に館周りに不審者がいたら報告という事象を貼っていたのと、某魔女が誰にも気づかれないように大量にトラップを貼りつけたようであったのもあるが…。こうして、伯爵令嬢誘拐事件は幕を閉じるのであった。
(あー、死ぬかと思った…)
蛇足であるが、シュウ君を再起させるためメリーさんと別れた後…私達は王都を出て、適当に私は魔物を狩りシュウ君に花の蜜を与えているのであった。しつこいようだが、私が魔物を吸収すると花の蜜が頭の花から漏れる。ただ、これは体感人間換算でおねしょとかおむらし感覚なのである。シュウ君を再起させるため、シュウ君のお腹がある程度満たすまで蜜を大量生産し大量にこぼしていたので私の精神がぶっ壊れてしまったのであった。少し蜜を与えて後は王都で昼食にすれば良いものを…シュウのお腹を蜜漬けにしたマイの心情はよく分からない。
文章を分割するか悩んだのですが、面倒臭いのと分けてもあまり意味ないのでやめました。




