魔女と転生者
[これが読めたら私を見ながら手を叩け]
と、日本語で書いてある。この世界の言葉の発音は日本語に近い。それ故、私は転生後直ぐマスター出来た。まあ、魔物だったから生まれた瞬間ある程度喋れたと言うのもあるかも知れないが…。喋れる魔物自体が一握りの種類のみらしいし。ただ、文字は全然違う。発音と文字の関係を理解すれば理解し易いのであるが、私は魔物のためそう言った勉強は全て独学。なので、この世界の文字はマスターしきれていない。寧ろ、そこら辺はシュウ君の方が上である。しかし、どっちにしろ日本語の文字はこの世に存在しないはずである。
「うーん、未だに私も読めないのよねー。アリア様。読めますか?」
「い、いえ…私にも読めません。」
「あれ、お姉ちゃん?何しているの?」
私は無言でアユミさんを見ながら手を叩いた。その瞬間、世界が全部灰色になった。今までちゃんと色がついていた。そして、動いていた。しかし、今は世界が灰色になり…止まっている。例外が1人…目の前の魔女。
「…貴女…日本人?」
「え…えーっと…」
「この文字が読める奴はこの世にいるわけないんだけど。だって、この文字は日本語。私の前世の記憶の文字なんだから。」
「あー。」
「良いの良いの。いや、私探していたのよー。同じ境遇の人がこの世に存在していないかさ。私魔女だったから、ほら。よく異世界転生って特別な力を持って生まれ変わるとかあるじゃない。だから、私並みの強力な魔力を持っている人なら日本人かなぁ…と思って。だけど、そんな奴いなかったからちょっと敷居を下げて…この世界の一般人の中でも魔力が高そうな奴を片っ端から調べてるのよ。」
「そうなんですか。」
その途端、アユミさんは笑い出した。私は時間が止まっているのか?と疑問に思いながら笑い始めたアユミさんを不可解な目で見た。
「ウフフフ。あ、あらーごめんなさい。いやー馬鹿らしい。本当に馬鹿らしい。固定概念に囚われすぎてたわ。そうよね。何も強力な魔力を持っていなくても…人間じゃなくても有り得たのにそっちを探さないなんて…私だって人間じゃなくって魔女なのに。あーあ、まあ結果オーライということで。」
彼女は椅子から立ち上がり、私の側までくる。そして私の側でしゃがみ込み、私と目線を合わせた。
「取り敢えずは…同じ転生者の中としてこれからよろしく!」
彼女は私に手を伸ばした。握手しろということだろうか?私も手を取り返す。
「うーん、私はあまり前世のこと気にしてなかったんですけど…まあ実害なければ…。」
「しないしない。私もう200年以上不老不死として生きているのよ。前世の記憶があると寂しいものね。同じ境遇をどうしても探してしまう。で、マイちゃんが…初めての日本人!運命を感じるわー。」
「運命ですか…」
「そうそう!うーん、とは言っても…私、前世日本人ということは分かっていて…色々働いていたことは覚えているんだけど…200年以上も経っちゃったからか、元々なのかあまり覚えていないのよね。そっちはどう?」
「うーん、社畜で鬱になったとかは覚えていますが…と言うより200年以上も生きているんですか?人間ですよね?」
「さっきも言ったじゃない。私は魔女で不老不死なの。前世はさ、不老不死なんて最強とか思っていたけど…実際になってみると苦痛よ。周りはどんどん死んでいくし…。」
「あー、そうなんですね。私は150年以上生きていますけど…元々周りが少なかったですし、ここ最近人里に降りてきたのであまりそう言った経験はしていないですね。」
「150年?!その大きさで?!」
「貴女だって20歳ちょいじゃないですか。私は人間じゃなくて魔物です。最近誰も私のことを魔物と認識してくれなくて悲しいんです。」
「いや、貴女本当に魔物なの?話し方的に元日本人ならそれだけで人間っぽくなりそうだけどさ、見た目もさ。」
「酷いですね。」
私は帽子を脱ぎ、服の腕を捲った。帽子の中には顔の半分もある花があり、腕を捲れば腕に巻き付いているツルもある。
「このツルは自由に出来ますし、この花は生きていて私にくっついています。触られると魔物の本能が発動するので帽子は直ぐに…ほら、触るな!」
魔女が触ろうとしたので右のツルを伸ばして手を縛った。左手で帽子を再装着する。
「言わんこっちゃないですね。全く。」
「いやいや、初見見たら本物か確認したくなるでしょ!」
「やめて下さい。人間だか魔女だか知りませんが、この花は私の急所なんです。貴女自分の急所他人に触らせないでしょ。魔女だろうが、前世人間だとしても!」
「むむむ…ねえねえ。同じ日本人じゃないー。やっぱり貴女も研究させてよー。」
「だから私をモルモットにするな!!!」
しばし色々ぐだったが…まあ、実際日本人のどこの誰なのかは互いに分かるわけもないが…止まった時間の中で一通り思い思いのことで交流出来たのだった。




