伯爵令嬢の決断
「成程…死んでしまったのね…誰が殺したかは…」
魔女がこっちを見た。私は警戒する。多分こいつ心読む魔法使える。メリーさんも弟子ということで悟ったらしい。
「師匠!マイさんは悪くありません!盗賊にマリア様は加担していたのです。マイさんは抵抗してそれで…」
「盗賊かぁ…うーん、あの子教えて貰ったことを悪用する子じゃないと思ったんだけどなぁ…統計から大体悪用しそうな人間は省いているんだけど…研究しがいがない。」
「違います!マリアお姉様はそんな悪いことをする人じゃなかったです!きっと何かに騙されて…」
「騙されようが何しようが悪の道に魔法を使ったことには変わりない。」
アユミさんがキッパリ言った。…あまりにも可哀想なので私はフォローに入ることにした。
「根拠は何処にもないですけど、多分今頃アリア様の捜索とは別にマリア様についても貴族は調べていますよ。ムサビーネ夫人にもちょっとは話しましたけど…誘拐された後、人身売買されて盗賊にこき使われていたようです。心が壊れるまで性的暴行とかもあって従わざるを得なかったとか?」
「ふーん…まあ、死んじゃったやつはどうでもいいわ。強くなった人間がそれをどのように扱うかも私の研究内容だし。で、アリアちゃんは私の研究対象になるで良いんだよね?選択肢はないんだけどさー。」
「え…えっと…、魔女さん。強くなったら誰かに誘拐されたりするのでしょうか?」
「知らない。メリーどう?」
「え、うーん…私はないかなぁ。絡んできたやつは全員ぶっ飛ばしてきたし。あー、でもアレかも。ほら、マイちゃん昔連れ去られそうになってたじゃない。強いより珍しいの方が危険かも。」
「あら…ってことはやっぱりこの魔物も私の研究材料が良いのかしら。狙われるということは価値があるんでしょ!ねえ?考え直さない?」
「だって、シュウ君。」
「え?だ、ダメだよ!お姉ちゃんは僕の従魔!」
「だそうです。」
「あー、何で私についてこないのよー。」
一つだけ分かったことがある。この魔女。実力行使だけはしないらしい。するなら、シュウ君は当に死んでる。言葉でゴリ押しているが、態度でアリア様を脅すことも出来そうな魔女だが…そんなことはしていない。
「…私、やってみます!今後、何かあった時に身を守れなくて今日この日頷いておけば…なんて後悔はしたくありません!」
「ウフフフ、貴女。マリアちゃんそっくりね。マリアちゃんが死んじゃったのは私にも責任がある。取り分け貴族の娘ですもの。狙われ易いのに中途半端に育てて私が目を光らしきれていなかったという後悔もあるし…よし、アリアちゃん。メリーちゃんより強くしてあげるからちゃんとついてきてよね!」
「はい!よろしくお願いします!」
とのことだった。これで良いのかは知らない。これバレたら伯爵と夫人なんて言うんだろう?そして、この魔女の教育の意図が私に追ずるものがあった。私も自分の不甲斐なさで妹を2人死なせてしまっている。その後悔が、今シュウ君を守るという矛先に向いていたりする。
(世の中何が起こるか分からないわね…)
そう考えていたマイだったが…もっととんでもないことが起きようとしていた。
「さてとー、じゃあめでたく私の研究に手伝ってもらうことになるんだけど…色々注意があるのよねー。で…簡単に説明すると…」
要約はさっきも言った通り。他言無用であった。魔女と関わっているなんてことがバレたら間違いなく干される。最悪親族も巻き添えにするから親族にさえ言うのは禁止となっている。私やシュウ君も巻き添えになってしまった。
「急に強くなって不審がられたりしても、自分で磨いたとか…最悪師匠という単語は別に良いわ。誰かに教えて貰うなら問題はないでしょうし。ただ、教えている人は人を選んで教えているとか、具体的に誰が教えているとかそう言ったことを言うのは無しね。私が人間に狙われたら全員殺すだけだし、貴女も魔女云々バレたら今後平和には暮らしていけないわよ。」
「わ、わかりましたわ。」
「アリア様。そんなに構えなくても大丈夫。私だって、師匠から色々教えて貰ってもこんな感じて楽しく生きてるしー。」
「たまに研究材料と言われて、バラバラにするのとか、服脱がして色々チェックするのとか、そういう人がいるんだけど…よく分からないのよね。別に私は対象者の魔力に興味があって肉体はどうでも良いんだけど。」
「アユミさん。研究材料なんて言葉を使うのがいけないのでは?弟子で良いじゃないですか?」
「マイちゃん分かっていないわね。魔女にとって人間は研究材料なのよー。魔物も同じ。弟子なんて面倒臭いじゃない。」
「そう言うものなのかなぁ。」
私は魔物だが、人間は基本的に敵視している。魔物は人間を襲うものだし、逆も然り。ただ、私は前世人間だったから人間と戦うことに躊躇したりそうホイホイ殺せないだけである。
「よし。説明終了。じゃあ…軽いテスト。」
「て、テストですか?」
アリア様が構えた。
「あ、別に実力試験とか能力試験とかじゃないわ。この魔術が読めるか確認してほしいのよ。私の研究テーマの一つでね。今のところ読めた人誰もいないんだけど…まあ、だから読めないなら読めないで良いわ。言っておくけど、嘘だけは直ぐにわかるから正直にね。」
そう言うと、アユミさんは机の中から紙を引っ張り出した。その紙を机に乗せる。その瞬間私は唖然としてしまった。




