命の取捨選択
「うーん。」
『姫様。さっきから同じことを言ってばっかりです。』
「いや、詰んでるのよ。ここは私にとって最適な場所だけど、この子にとってみたら地獄よ。食糧なんてちょっと果実があるだけだし、さっき花の蜜は大量に作ったとはいえ…あんなもの永遠と作ってたら私の方が死んでしまうわ。」
『ですから人間など拾うなと…』
「うるさい!」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「シュウ君。私は植物の魔物よ。だから植物と会話出来るの。でね、一応現状報告だけしておくと…私はまだしも、他の魔物は貴方を見つけ次第間違いなく襲うわ。まあ、私も襲われる身だけど。後、ここには人間が食べる食糧なんて殆ど無いの。水はさっき作ったアレがあるけど、アレを作るのには私がもう持たない。このペースで行くとシュウ君生きれても後1週間かしらね。」
「………」
5歳の人間にどこまで分かるか不明であるが、残り1週間生きるのが精一杯ということだけは伝わったらしい。恐怖に怯えた顔をしている。
「お姉ちゃん。」
「うん?」
「僕…まだ死にたくない!」
彼の必死な目が私の目に突き刺さる。とは言われてもなぁ。方法は一つしかないが、私の命が持つかどうか。
「皆んなはどう思う?シュウ君と私がこれからどうすれば良いか?」
『まあ、普通に考えたらそのガキどっかにある人間が住むところに返せば良くね?』
『どうやってそこに行くのよ?場所なら聞いてみるけど、こんな人間の子供そこに辿り着く前に死んでしまうわ。』
『無難に考えれば姫様が護衛かしら。』
『おいおい、姫様人里に下ろすというのか?敵地に姫様向かわせるってどういうことよ?』
植物達が議論しているが結論はそれだけなのである。私が生き延びるためにシュウ君を犠牲にするか、シュウ君を生き伸ばすために私が犠牲になるか。どっちかである。
「皆んなありがとう。暫く考えさせて。」
そして私は数日考えた。途中魔物が襲ってくることもあったがストレスによる腹いせに捕捉だけでなく締め殺すという追加作業が加わってしまっていた。魔物にしてみればいい迷惑である。まあ、捕捉されたまま餓死するまで待つが今までだったので結局死ぬことには変わらないのだが。
「分かった。決めた。」
数日考えた上、結論を出した。
「お姉ちゃん?何を決めたの?」
シュウ君はここ数日、側に生えているラズベリーと私がプライドをかけて作った花の蜜しか食べていない。よくこれだけで数日生きれたものである。
『姫様。どのような決断でも全力サポートをお約束します。』
「ありがとう。とりあえず、ここら辺一帯で人間の集落か何かを探してくれないかしら。見つけ次第、そこへ向かう。」
『姫様!敵地へ向かうのですか?!』
「シュウ君を生かすにはそれしか方法がないし、後対策も立てる。」
『対策とは?』
私が試行錯誤している時に人里に詳しい植物とも会話した。どうやら人里の中には魔物を飼っている人間もいるとのこと。何でも地域によって異なるらしいが、魔物使いとかテイマーとか呼ばれているらしい。それを演じれば攻撃されないのではないのだろうか?
『うーむ、確かにそれなら襲われる心配も減るかも知れぬが…確か魔物使いの場合は事前登録が必要じゃったと思うの。魔物使いでも何でもないその子が自分の魔物ですと言っても説得力があるかどうか…子供ということもあるしのぉ。』
『おいおい待て待て。ということは、姫様そのガキのペットになるってか?姫様がだぞ?ふざけんな!』
考えている間にも、時間は過ぎていく。ここら辺に生えているラズベリーはそろそろ底をつく。花の蜜も後数日か?雨を凌ぐため、ツルで屋根は作ったとはいえ…植物の私ならまだしも、シュウ君には限界が近いと思う。
「とりあえず、早急に近い人里を探して頂戴。出来れば、魔物を飼っていそうな人がいる町の方が良いけど。前例がないと面倒臭そうだし。残りは見つけてから考えるわ。」
『了解致しました。』
ということで、単調会議は終了したのであった。
「お姉ちゃん…寒い…」
季節は秋から冬に差し掛かっている。私は植物だからか、あまり気温の変化に対し暑い寒いを感じることはなかった。まあ火をつけられれば流石に熱いだろうし、雪が積もってしまうと土から養分が上手く吸い取れなくなることがあったりするので異常気象は困るのではあるが。
「ごめんね…今皆んな必死になってシュウ君を助けようとしているからもうちょっと我慢して。」
『そのガキのためじゃない。姫様がそう願ってるから皆んな協力しているだけだ。』
「そうだとしても、だったら私のためにみんな頑張っているんだから感謝しなくちゃ。」
『………』
植物の中にも色々な性格の子がいる。全員と仲良くするなんて私には到底無理だが、出来る限りでもしっかり感謝は伝える。そういうことにしている。というより、植物達が私を見切ったら私は生きていけない。一種恐怖でもあった。そして翌日、私はいつもの寝床、シュウ君は雨よけをつけた普段私が日光浴をしている場所で寝ている。寝ている際は私は無防備。流石にシュウ君といえど一緒には寝れない。