一旦護衛依頼は中断となるみたいです
「分かった。今回はこちらで費用を出そう。」
「貴方?!」
伯爵が折れたらしい。
「ムサビーネ。そろそろ目的地に着く。特に今回の事件についてはどうしても盗賊らの情報を聞く必要性もある。デレナール領の未来が掛かっているのであれば、領民も頷いてくれるだろう。少なくとも税金が魔物の生活費に流れていくことよりは反論も少ないはずだ。」
夫人が黙った。完全に痛いところを突かれたらしい。
「分かったわ。では相場を聞きましょう。貴方、だったら尋問した後私達の方からギルドに売り飛ばすのはどうかしら。そうすれば私達はプラマイゼロよ。貴方、相場はどれぐらいなのかしら。あまりにもこちらが不利になるような値を提示した場合は全員首がなくなると思いなさい。」
個人的、伯爵より夫人の方が政治に関わっていて怖いんだよなぁ。旦那が妻の尻に引かれている奴だろうか。そこら辺の家族ならまだしも、政治はそれで良いのだろうか…いや、私は魔物だから私に影響が無い限り無視することにしよう。
「そこら辺は詐欺ったりしねえから平気だが…相場どれぐらいだ?」
「うーん、実を言うと私達あまり護衛業務やらないし…盗賊そこまで突き出したことないから…。」
「逆にポンポン盗賊出てきて貰った方が困るよね。」
「相場としては俺の旧友の話だと小金貨数枚とは聞いたが…すまない。この護衛が終わってからの後払いで良いか。奴隷においては基本額は殆ど同じはずだ。デレナール領のギルマスに聞きたい。」
「ねえ、リーダー。貴族様って盗賊とか売れるのかな。あれもハンターじゃないと無理なんじゃなかったっけ。何か誰か言っていなかったっけ?ハンターギルドの報酬はハンターじゃないと駄目だって。一般市民を良しとしてしまうとハンターギルドからハンターじゃない人にお金が流れてしまってハンターがいなくなってしまうからとかどうとか。」
「あー、そう言えばあったかも知れん。やはり俺らで全部判断するのは不味そうだな。帰ったらギルマスに聞くか。」
「はぁ…これだからハンターは信用置けないのよね…。」
最後はムサビーネ夫人が小声で言っていた。栄光全員が眉を顰めたが…貴族相手に喧嘩を売るのは良くないと思ったのかそれ以上を言うことはなかった。後日談だが、盗賊はデレナール家の親族が拷問したらしい。しかし、結局売ることは出来ず…貴族の牢獄で処理したらしい。また、栄光はデレナール家から依頼料とは別に報酬は貰らえたらしい。情報入手が出来たとは言え夫人の完敗であった。それを植物から聞き内心喜んでいる雌花が一匹いたらしいが誰のことだろうか…。
「到着だ。」
リグルト伯爵が言う。私は馬車のベランダから外を眺めると…これまた大層な豪邸が立っていた。
「相変わらず貴族って凄いわねぇ。」
「う、うん…」
私とシュウ君は馬車を降り、豪邸の門を見ながら呟いていた。
『姫様。デレナール領や雄花達の拠点の植物達からお伺いしております。この度は王都まで足を運んでくださりありがとうございます。』
「え…あ、はい。」
私は動揺する。いや、植物達が私を『姫様』と言うのはもう慣れっこであるが…ここまで畏まられたことはない。
(あれかな。ここら辺の植物は良く貴族の言葉を聞いているのかな。)
前世は知らないが、今世において植物達は人間の声を聴いている。勿論しゃべれないが…私の種は植物の声を例外で聞ける…言わばそう言った待遇が普通なのかもしれない。
『姫様。少々よろしいでしょうか?』
「えーっと、大丈夫だけど。」
植物達から情報が流れる。聞き終える頃には…私はまた頭を抱えているのであった。
(うわー、また地獄だー。泣きたい。助けてシュウ君!)
私が萎れる中、声が聞こえる。
「すまない。これより先は貴族での打ち合わせとなる。栄光達は暫し王都で好きにしていてくれたまえ。」
リグルト伯爵が発言する。既に護衛の兵士と館の守衛が話をして降り、門が開き始めていた。
「あ?別に構わねえが…」
「いつぐらいに終わりそうなんだ?」
ベイルさんとリールさんが続けて言う。
「そうね。今日は打ち合わせの後も色々あるだろうから…とりあえず、明日の昼頃ここの門番に声をかけてくれないかしら。」
「分かった。盗賊とかは任せて大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。我々の護衛もいるし、あちらからも少々出してもらおうと思っている。」
「そうか。じゃあ、栄光メンバーは全員俺についてきてくれ。伯爵様。ここのハンターギルドってここからだとどこ向かえば良いか分かりますか?」
「ああ、ここから少し行ってだな、そこを…」
とのことで、貴族一行は離脱となる。栄光5人プラス1匹は伯爵の案内を頼りに…は出来ず、途中で城下町の人にも聞いていたが…ギルドに到着した。




