妖精の機転
「どうかしたのー?」
またここで面倒くさい奴がやってくる。
「アース?一応だけど…この女の子は令嬢様だからね。そこら辺の一般人と同じように面白半分で悪戯したら大惨事になるからね?」
「えー、まだ悪戯してないよー。勝手に悪戯する前提にしないでよー!」
と言いながら、手には泥団子が乗っておりボールを投げる直前が如く右手でポンポンボールを上に投げてはキャッチしている当たり全く信用できないのであるが…。
「はぁ…この子のこと考えてても、らち明かないから…とりあえず、アースをシバきましょうかねぇ。」
「えー、お姉ちゃん。この距離だったらボクが無双だよー!」
「お、お姉ちゃん!アースちゃん!け、喧嘩はダメだよ!」
見かけ10歳と4歳の女の子が互いに睨めつけているのを見てシュウ君が止めにかかる。アリア様はその様子をボーッと見ていた。その時、アースがアリア様の顔の真ん前に飛んでいく。
「え?!」
驚いたアリア様は後退りした。
「こら、アース!」
私はアースにクレームを言うが…アースの一言が空気を変えた。
「ねえねえー、お姉ちゃんー?一緒に遊ばないのー?」
「え?」
「お姉ちゃん、寂しそうだよ?遊ぼうよーボク達とー。」
「あ…えっと…」
「ほらー!」
アースは泥団子をそこら辺にポイして…何故かベイルさんの足元に着弾した…泥だらけの手でアリア様の手を掴み引っ張る。
「おら!やっぱりてめえか!何しやがる!」
ベイルさんが怒ってこっちへ来た。
「わー、またおっさんが怒ったー!逃げろー!」
「待ちやがれ!お前が妖精だかなんだか知らねえが、礼儀ってもんを教えてやる!」
「たかが40ぐらいのおっさんが、2千年以上生きているボクに教えることなんでないよー!」
「ウッセェガキ!」
アースはそのまま飛び去った。ベイルさんも追いかけていく。しばらくしてどう巻いたかは知らないがまたアースがやってきた。
「お姉ちゃんも逃げようよー。あのおっちゃん怖いんだよー。あ、マイお姉ちゃん!シュウお兄ちゃんー一緒に逃げるー!」
「え、ええ?!」
「あのねぇ。どう見ても喧嘩吹っ掛けたの貴女じゃない。第一私は走れないしアリア様だってある程度の服着てるんだからハイそうですかって走れないからね。てか、そんな泥だらけの手で触ってるんじゃないわよ。あのババアにバレたら…」
「騒がしいわね…何やってるのかしら?」
「ワー、怖い叔母さんがキター!」
ムサビーネ夫人が眉間に相当な皺を寄せたので「あ、これ死んだわ。」と私は思った。この後、ここにいた4人…もはやシュウ君はただの被害者である…が脈略もなく夫人に怒られるのだった。未だに何故怒られたのか私は分からなかった。理不尽である。
「アリア。なんでそんなに手を汚しているの。まさか、泥で遊んでいたりはしないわよね。私や夫の娘なんだから立ち振舞いは気を付けなさい。」
「叔母さん!勝手に固定概念と娘だからってお姉ちゃんを縛るなー!」
ムサビーネ夫人はそのまま立ち去ってしまった。夫と何か話し途中だったらしい。
「ムー!あいつーこの子が寂しそうにしているの分かってないなー!本当に親かー?」
いや、それは親でも分からないだろう。テレパシーなんて無いんだから。ただ、両親が放ったらかしにして、身近な兄も少しずつ離れている最中に信頼していた姉のような存在がこんな形で絶命したらブッ刺さってしまうのも無理はないと思う。貴族の娘だろうがなんだろうが所詮はシュウ君と同じ10歳の女の子なのだから。私みたいに前世があって今世で150年以上生きててもそう思うんだから辛いだろう。
「よし、決めたー。あの叔母さんしばらく悪戯するー。何がいいかなー。」
「アース。それは止めなさい。アースは人間じゃないし、私もそうだけど…人間社会って面倒臭いの。最悪シュウ君に被害が被るから。」
「え、なんでシュウお兄ちゃんが仕返しされるのー?ボクじゃないのー。」
「そういうものなの。」
「ムー、変なのー。」
アースは腕を組みながら私達の頭の上を飛んでいた。まあ、シュウ君に被害と言うのは…仮にシュウ君がアースのテイマーになってしまったとして…いや、なっていなかったとしても大体種族が違えば一番近い人間に責任取れ言ってくるのが帝石だろうと私が勝手に考えているからなのだが。




