雌花の後悔と心配事
(うーん…)
その日の夕方、伯爵御一行は夕食を食べている。私は今日起きたことについて頭を巡らせていた。
(結局捕虜にした盗賊についての判断基準が良く分からないわね…。)
道中、何故あの二人なのかをリールさんに聞いてみた。私は色々喋りそうな…口が軽い奴らを連れていくと思っていたのだが…
「大体ここでベラベラ喋る奴はロクな情報を持っていない。そう言う輩は大体端くれだからな。むしろここで情報を得られれば、それで用済みだ。」
「マイちゃん。補足だけど、用済みって言っても本来であれば全員連れて帰ると犯罪奴隷として売り飛ばすことが出来るんだよ。だから今日の盗賊は全員連れて帰ればそれはそれで大儲け出来るんだよねー。」
「メリー。売られそうになった奴がいるんだ。その話は控えておけ。で…寧ろ、無口なアサシンとかロクに喋らなかった魔術師とかが何かしら持っていると思ってな。本格的な拷問は俺らでは無理だ。だから、証人として連れて帰ることにしたわけだ。」
「連れていけなかった連中の情報は私がメモしているからそのまま提出すれば良いしね。」
最後の発言はリールさんとは別に情報収集に回っていたウィリーさんであった。利き手じゃない方の腕を負傷とはいえ、色々メモしてきたらしい。
(そんなものなのかしらね…私はよく分からないわ…)
私は捕虜として連れてきた2人を見る。今は夕食中で捕虜も何かしら食べさせないといけない。口のみ解放させているが…アサシンの方は何も喋らず何も食べない。魔術師の方も何も喋らず何も食べず…時折「ペッペ」と土を吐き出していた。魔術師の方はアースの呪いで喋れなかっただけじゃないか…と私は疑問に思った。アサシンの方はこのまま餓死しようとしているのではと私の考えである。私も前世仕事で酷い目を見た時に絶食に走ったことがある。そのまま死ねば良いと。そんな感じがしていた。私は太陽の方を見る。まあ既に日は沈んでおり、若干夕焼けに染まっている空を見ているだけである。
「お姉ちゃん。何か悩んでるの?」
側でシュウ君が夕食を食べていた。私は光合成で十分なので…連日やり合っているので、もうちょっと光合成したいのではあるが…シュウ君の横にいるだけである。
「ちょっと何か食べる?お姉ちゃん、食べると怪我早く治るってさっき聞いたし。」
シュウ君は私の焦げた手が気になるらしい。
「うーん、ちょっとだけ貰ってもいい?」
「うん!」
シュウ君の夕食を大量に奪う訳にはいかない。人間は食事以外で体に栄養はつけれない。私は食べる以外にも手段がある。シュウ君のパンの端切れだけ貰った。私は満腹という概念がない。その為食べようと思えば無限に食べれる。しかし、食べれば食べるほど頭の花に蜜が溜まっていき…入りきらないと溢れてしまう…人間換算でおむらししてしまう。溢れない範囲で食べるとなると、大人の女性が一回の食事で食べる量の半分も食べることが出来ない。相対的に、パンの端キレだけでもかなり回復出来たりする。…流石に人間が物を食べれば怪我が治るわけではないのと同じように、私の焼けた手もすぐに治るわけではないが。
「ありがとう。」
「えへへー。」
シュウ君はなんだか嬉しそうである。私は前世から今に至るまであまり笑ったことがない。いや、笑ったことは普通にあるだろうが、辛いことが多すぎて笑うという概念を忘れているが正しいか。シュウ君が嬉しそうな表情をする度に何がそんなに彼を幸せにしているのか…理解出来ない私がいた。そして私は1つ悩みを解放する。
「シュウ君。あのね。」
「うん。」
私の悩みは…簡潔に言えば、マリア令嬢を殺してしまったことである。いや、あの状況である。殺すはまだしも攻撃するのは仕方がないと言うよりかは当たり前である。しかし、話し的にどうやらアリア伯爵令嬢とは血縁関係がある人間みたいだし…見た感じだと信頼しているお姉さんっぽかったし…予想が正しければ、来年度シュウ君と令嬢は同じ学校に行く。私もどこぞのババアが原因で同じ学校に行かされる可能性もある。今の状況で学校へ行ってしまった場合、気まずいというか…恨まれてシュウ君や私の学校生活が終わってしまう可能性さえあった。相手は貴族なのである。そこは例え同年代でも忘れてはいけない。
「簡単に言うと…親戚とは言え姉を殺されたことで、あの令嬢が私達を恨んでいないか気になるというか…」
私は向こうで食事しているアリア令嬢を見ながら言う。私は口下手な為、思ったことを全てシュウ君に伝えれたわけではないが…しかもシュウ君もまだ10歳で理解が追いついているとは到底思えないが…シュウ君は私の話を聞いた後、直ぐに行動した。
「うん!じゃあ、アリア伯爵令嬢様に話しに行く!」
「…え、あ、ちょ…ちょっと?!あ!」
シュウ君が夕食を置いて立ち上がり、私の手を掴んで引っ張った。私は重心が不安定な魔物。おまけで走れない。バランスを崩し顔から地面に突っ込んだ。
「イタタタ…」
「あ、お姉ちゃん。ごめん…。」
「ま、まあ…うん。」
そして、2人でアリア令嬢様のところに行く。アリア令嬢は両親とは若干離れ、何かしら考えながらだろうか食事をしていた。




