落(堕)ちた令嬢
「うっしゃ。後は盗賊供をどうするかだな。」
「あ、その件なんですが…ちょっと良いですか?」
「マイさん。どうかしましたか。」
ベイルさんが発言し、ウィリーさんが私に聞く。私はここにいるメンバー、リールさんと魔物と妖精以外…に言う。
「既にすぐそこまで雄花の援軍が来ています。大人の雄花3人ぐらいかな。「良い加減、仲間を襲った奴ら全員殺させろ!」と煩いんですけどどうします?」
「そうね…襲わないと言う条件で盗賊をどうするか、話し合いましょうか?」
「…どうなっても知りませんよ?」
夫人の答えに私は植物経由で雄花達に連絡する。少しして、雄花が3匹出てきた。全員私が知らない雄花である。私は既に帽子を被り直していた。
「で、どいつだ?殺して良い人間は?」
「あー、お兄ちゃん達だ!怖かったよー!」
子供の雄花達4人が3人の大人の雄花達に駆け寄る。いや、走ったらずっこけるので歩いてだが。
「全く、お前らも油断しすぎた。ここいらに雌花がいるわけねえのに声が聞こえただけで確認しに行くんじゃねぇ。お前らを守ろうとして死んじまった奴もいるんだぞ!」
「ううう…ごめんなさい…」
「私達も謝罪します。ご迷惑をおかけしました。」
「私からもだな。デレナール領代表として謝罪する。」
貴族2名が魔物達に謝罪するという異例事項である。ただ、私目線としては「これで一件落着は程遠いだろうなぁ…」であった。直感だが、今ここに私がいなかったら人間は全員皆殺しかもしれない。カラスが人間の罠にかかった時、そこ一帯に他のカラスが群がるが如く。罠にかかったカラスの側に行ったら…厳密には助けようとしたら…自身が仕掛けたわけではなくても成敗としてカラスに集中砲火されるが如く。
「謝罪はどうでもいい。俺らはこんな人間の通り道に長居したくねえんだ。とっとと、俺らを誘拐した奴らの成敗方法を決めやがれ。出来れば食い物不足だから俺らの食料にして欲しいんだがな。」
大人の雄花達は…とは言っても全員16歳から20歳上ぐらいである。年齢換算だと1千歳から2千歳ぐらいだろうか。マイよりはるかに年上ではある。
「まあ、俺らも早く決めねえとな。ここでチンタラやってるのは良くねえ。」
ベイルさんが呟く。街道は惨状であった。人通りは今は少ないとは言え、もしかしたら巻き添いもあったかもしれない。まあ、目の前で爆発音が聞こえたり乱闘が起きていたら普通関わらず逃げると思うが…。
「あら…この少女…何処かで見たような…」
リグルト伯爵もムサビーネ伯爵夫人も惨状を見に来ていた。最終決定権は貴族である。兵士は危険と言っていたが、盗賊の特徴とかを理解しておきたいと兵士を連れて見に来ていた。辺鄙過ぎるところに住んでいるがゆえ、一般の貴族とは色々考えや行動が違う様である。とりわけムサビーネ夫人は。そして、私ことマイが怒り任せに殺した少女を夫人はじっと見つめる。
「ちょっとアリアを呼んできてくれないかしら。」
「お嬢様をですか?」
「ええ…ちょっと気になるの。」
「かしこまりました。」
少しして、アリア伯爵令嬢がやってくる。
「お母様。いかが致しましたでしょうか?」
「ええ。アリア。この子…」
「…え?マリアお姉様!!」
「何?!」
なんだかとんでもない声が聞こえたと思った。
「おい、主人?どう言うことだ?」
シロがムサビーネ夫人に問う。
「えーっと…マリアは私の姉の娘よ。半年前も姉の家族がこっちに来てお茶会を開いたんだけど…」
「マリアお姉様!しっかりしてください!マリアお姉様!!!」
既にマリアと呼ばれた貴族令嬢は息絶えている。誰が殺したのか…。
「うう…マリアお姉様…」
アリア令嬢は涙を流した。シュウ君は何故か死んだ少女と私を交互に見ている。
『姫様。少々大丈夫ですか?』
「何?魔物?盗賊?」
『いえ、あの少女についてです。』
「あら、調べてくれたの?」
『姫様が不思議そうな顔をしていましたので…まあ、詳しいことを話すと姫様を傷つけそうなのでお話は致しかねますが…誘拐され、人身売買され…色々あって盗賊の仲間になった…いえ、ならされた様です。おそらく彼女を脱がせば詳しい経緯は分かるかと。』
「十分詳し過ぎるわよ。…やってしまったわね…。」
私はブチギレたとき何をしてしまったかあまり覚えていないのであるが…どうやらここで死んでる少女を殺めてしまったらしい。しかもかなり残虐的に。前世なら自己防衛とはいえ…自己防衛になるのか怪しいが…まあ、警察及び裁判沙汰だろう。私は頭が痛くなった。
「そうね…雰囲気的にマリアは盗賊と共に行動していたのでしょう。…参ったわね。まさか裏切り者が身内にいたなんて…。」
「お母様!マリアお姉様はそんな盗賊に加担する様なことはしません!」
「アリア。しかし、この状況ではどう見ても…」
「シュウ君。ご夫妻に言ってくれないかしら。彼女にも事情があるらしい。まずは家族の元に連れて行って何か家族間で問題が起きていなかったか聞いた方が良いって。あー、折角ならジェスさんじゃないけど解剖してみるとか。」
「マイ。全部聞こえているわよ。ワザとやっているわね?」
「え、私はシュウ君に依頼したのですけど。」
「だが、聞いて見た方が良いとは思うな。前皆んなで茶会を開いた時にはマリアは特に異常はなかったと思うが。」
「半年前ね…アリア。マリアの善悪は王都に着いてから決めるわ。マリアが悪さをしていないととりあえず願っていなさい。」
「は、はい…お母様。」
ムサビーネ夫人って、娘にも容赦ないのか…とこの夫人やっぱり危険人物だわと再認識した私であった。マリア令嬢の亡骸は貴族が乗っている馬車ではなくその後ろの荷馬車に置かれることになった。まあ、彼女は頭が陥没しており血も滲み出している。仕方がない対応であった。




