食糧不足
「それで、シュウ君。シュウ君はどうしてこの森の中にいるの?ここは魔物の住みかだよ。今生きているだけでも奇跡なんだけど…。」
シュウ君は少し黙った。まあ、私も気になっただけであって聞いたところで何か出来るとも思えない。それに植物に経緯を調べてもらっている。話す話さない以前にそのうち私は分かる。
「僕は…売られたの。」
「売られた?人身売買?」
私の常識では人身売買は法律違反である。ただそれは前世での話。こっちは合法の可能性もある。
「それで…荷馬車で運ばれてたら…魔物に襲われて…」
人間の街道に魔物が降りてくる。まあこれは多分日常茶飯事だろう。魔物にしてみれば食事の時間である。私みたいに人間イコール危険とかちゃんと理解していればそんなことはしないだろうが、魔物がドラゴンみたいに強力だったり本能だけで行動したりすれば襲撃してもおかしくはない。まあ、ドラゴンはいるかどうか知らないけど、いたとしても人間なんて腹の足しにもならないだろう。人間がアリを襲うようなものだろうし。
(要は襲われて商売人や護衛とかが戦ってる間に逃げてきたか、あるいは荷馬車自体が襲撃され命からがら森に入ったかまあそんな感じかな。)
どっちでも良いが、結局のところ逃げて森に入って食べ物が足りず力尽きて倒れていたが正しいだろう。5歳児なのにとんでもない仕打ちである。
「うーん…」
助けてしまったは良いがこの後どうすれば良いか全く分からない。厄介なのは食事である。
「お姉ちゃん…?」
「うん?」
「お姉ちゃんも逃げてきたの?」
「あー、うんうん。私はここに住んでるの。」
「住んでる?!お姉ちゃん1人で?」
「まあ…辛うじてかな。」
『姫様?そんな辛いのですか?』
「いやいや全然?むしろ余計な縛りがないから問題ないけど。」
「お姉ちゃん?どうしたの?」
「え…あ、えーっと…」
植物から変な突っ込みが入ったのでややこしくなってしまった。私は残念ながら嘘とかを突き通すのが苦手なのである。
「お父さんが言ってた!森は魔物がいっぱいって。入っちゃ行けないって!」
「ここ森の中だけど。」
「だ、だって…逃げるのに必死で…」
まあ、命かかっていっればそうなるのも無理ないか。植物の中には既に『姫様に向かって人間ごときが無礼だ!』と言う言葉さえ聞こえている。私自身は未だになぜ植物達に姫と言われるのかが分からなかった。
「うーん、どうしたら良いかなぁ。」
『姫様?本当のことを言えばよろしいのでは?それで逃げるなら放っておけばよろしいですし、襲ってきたとしてもその子供では姫様を傷つけることも出来ないでしょうし。』
「うーん。」
後者はないとして前者は考えられるしそれで走って逃げられれば追い付けない。ツルを使えば手を出したことになってしまうし、放っておけばそのうち食い殺されるであろう。どっちも最善手ではないのである。その時グーとお腹がなった。
「あ。」
「お腹空いたの?」
「…うん。何も食べてない。」
「食べ物なら多少取ってきたけど、食べる?」
昨日彼の面倒を見ながら採取した小さい果実である。ラズベリーっぽいけど。毒物か否かはそこら辺の植物より本人(本植物?)に聞けば早いので安全である。
「これ…食べれるの?」
「うん。一緒に食べる?」
「うん。」
生まれて初めて私は食事をした。甘酸っぱさが口の中に広がる。美味しかった。
「どう?」
「酸っぱい!」
「うーん、ごめんね。この辺りあまり食べるものがないの。」
「え…?」
私は効率の良い光合成の場所や腐葉土、寝床があるで選んでいる。人間と生活する前提で場所なんて選んでいない。とか言ってるうちに取ってきたものは殆どなくなってしまった。私は1個だけしか食べていない。別にシュウ君が欲張ったわけでなく私が譲ってあげたのである。第一私は食べなくても生きていけるのだから。彼はまたお腹を擦っていた。
(まあこれだけでお腹満たすのは無理よね…。どうしたものか…。)
このペースなら間違いなくこの子は餓死確定である。ただ手段がない…いや、一つだけ方法がある。
「いい匂いがする。」
「うん?」
「お姉ちゃんの頭のお花。」
「あー。」
私の命の源であり、この匂いが魔物を呼び寄せていると言ういわば厄介者であった。
「飲み物なら作れるけど、飲む?」
「飲み物?」
「本当はやりたくないんだけど…シュウ君が生きるにはもうこれしかないから…」
「ごめんなさい。」
「どうして謝るの?」
「だ、だって…お姉ちゃんが嫌だって…」
「あー、気にしないで。こっちも好きでやってるだけだから。」
連日のように魔物狩りしているので、補食しようと思えばいくらでも出来る。一番近い魔物を選んでツルでぐるぐる巻きにしていく。
「良い?私が頭を左に傾けるから、花から垂れてくる花の蜜を飲んでみて。あれ、手で受け止めてから飲んでほしいかな。くれぐれも私の花だけは触らないように。」
「う、うん?」
顔が理解出来ないと言っているので取り敢えず実演するものとする。魔物を溶かせば溶かすほど、両腕から地面に突き刺しているツナから養分を吸い取っていく。頭がどんどん重くなっていく。