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一輪の花による「花」生日記  作者: Mizuha
誘拐された花と堕ちた令嬢
219/365

理性を失った雌花

「ねえ。」

「僕?」

「植物達。」

『どうかいたしましたか?』


 雄花の誰かが私に声をかけたが私は上の空だった。


「この鍵にトラップ仕掛けた奴…誰?」

『少々お待ちください。』


 少しして、植物から連絡が来る。


『彼処に倒れている少女とのことです。』

「ヘー。」


 盗賊達は至るところで地面に倒れ、ツルで地面に束縛されている。


「コイツ?」

『はい。』


 ターゲットっぽい少女の横からツルを吐き出す。少女は17歳前後だろうか。可愛げな少女である。そこら辺の男性なら殴るのを躊躇するだろうレベル。腐った男なら知らないが…で、私は前世一応男性の人間だったはずなのだが…今のマイは魔物だった。


「あははははははははははハハハハハハハハハハハハハハ」


 マイの笑い声が回りに木霊する。ほぼ同時期に少女の後ろから太さ50cmぐらいのツルが生えてきた。そのツルから5cmぐらいのツルが伸び、少女の首に巻き付く。そして5cmぐらいのツルは以降伸びることもなにもなく50cm級の太いツルだけがどんどん高く高く伸びていった。口元に巻いてあったツルはマイの無意識で解かれていた。敢えて断末魔を響かせるためだろうか?


「あ………が……………」


 少女が声にならない雄叫びをあげる。簡単に言えば首をロープで絞められそのまま空中数十メートル上に全体重が首にかかった状態で持ち上げられた感じである。


「シュウ!マイを止めろ!」


 リールさんがあまりの出来事に全員が硬直している中、シュウに命令する。シュウも我にかえり…治療中であったが…マイのそばに駆け寄り背中から抱きついた。


「お姉ちゃん!ダメ!ストップ!ストップ!死んじゃう!」

「………」


 マイは無言であった。


「お姉ちゃん?」

「シュウ…」


 マイは抱きつかれて右側の肩にあるシュウの顔を見る。シュウは逆に悟った。今のマイはいつものギルドで伸びているお姉ちゃんじゃないと。時に冗談を言い、時にボーッとしているお姉ちゃんじゃないと。なんだかんだで自分に優しく接してくれるマイじゃないと。


「知ッテル、シュウ?」

「お、お姉…ちゃん…?」

「ワタシ…マ・モ・ノ…ダヨ?オ望ミ通リ…止メテアゲル。ハハハハハハハハハ」


 マイはツルを全部解除した。首を絞めているツルから、地面から生えているツル全て。支えがなくなった少女は空中数十メートルからそのまま転落する。既に失神していたのか分からないが、声はなかった。人間は頭がかなり重い。上空から落ちれば嫌でも頭から落ちる。地面は街道。コンクリートではないが普通に硬い。まあ、誰がどう見ても分かる事だが…転落した少女は即死した。


「お、お姉ちゃん…」

「………」


 マイはツルを再度生やし、鍵に触れる。もう燃えることはない。術者が死ねば効果は解除される。


「鍵ハ何処?」

「え?」

『先ほどの少女の左ポケットに入っているらしいです。』


 私は歩き始めようとし抱きついてきたシュウ君を振り解いた。シュウは…今度は私の左手を掴んだ。


「お…お姉ちゃん…どうしちゃったの?」


 シュウにとって自分の指示をマイが全部無視したのはこれが初だった。提案とか反論とかならあるが、今回はガン無視であった。まるでシュウなどここにいないかの様に。マイは無言で右手をシュウに見せつけた。


「お…お姉ちゃん?!ど、どうしたの?!」


 マイの手のひらは鍵に触れた部分全てが真っ黒の灰になっていた。一応補足だが…触れただけ部分が灰になっただけである。手が貫通したり右手全部灰で砕け落ちたわけではない。シュウはあまりの驚きに掴んでいた手が緩む。マイはシュウを振り解き、歩き始める。シュウはマイの変貌とマイの大怪我で思考停止して動けなくなってしまっていた。


(コレ…か。)


 少女のポケットを探り鍵を入手する。マイはそのまま檻に向かい、鍵を解放した。雄花が4匹出てくる。


「あ、ありがとう!!!」

「雌花さん!この恩絶対忘れない!!だから結婚して!!」

「お姉ちゃん大丈夫?僕、手が燃えちゃって…。」

「うわー。雌花さんに怪我させちゃったよー。おじいちゃんに怒られる!!」


 その時私の理性が生き返った。私は深呼吸する。右手を見るとやはり灰になっている。ただ、右手の指とかは普通に動いた。


(深さ数ミリかしら。感覚鈍ってる感じがするけど…まさか私死んだりしてないわよね。)


 結論から言えば死んでいない。手の一部が燃えただけである。人間で言うと大火傷状態…熱い鉄板を触れてズキズキする様な痛み。ただ、マイは魔物である。その程度であれば数日足らずで治るが…マイはそのことをまだ知らない。

 マモノッテツヨイデスネー

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