捕虜の雄花
「お、マイ…ナイスだ。」
「ナイスじゃありませんよ。シュウ君が私を庇って左腕切り傷で軽傷です。外の様子は落ち着きましたか?」
「あー、こっちは平気だが…向こうは…」
「リーダー!ウィリーお姉さんが!ナイフで肩刺されてるの!」
「なんだと?!」
ツルが原因で中の様子が見えないが…ウィリーさんが倒れているのを見かけ一気に寄り添っていくリールさんである。
「メリー、治療は任せられるか…あ、その前に探知魔法で警戒しておけ。」
「わ、分かったわ。」
「おい、リーダー。あっちは片付いた。お、メリー、丁度言い。探知魔法で他になにか来ていないか警戒してくれねえか。負傷者の手当てだろ。」
「ああ、ベイルか。丁度その話をしていたんだ。そっちもお疲れ様だな。」
「ふん、手こずらせやがって。」
どうやら収集は付いたようである。私はツルの障壁を解除する。明るくなったからこそシュウ君の怪我の様子も見えてきた。右手で手首を押さえているようだが…指の隙間から若干色が変わった血が見えている。
「えーっと、シュウ君のも見てくれませんか?ちょっと怪我深そうです。」
「お、お姉ちゃん。僕大丈夫だよ?」
「まあ念のため念のため。」
かくして怪我人の治療に入る。ウィリーさんのナイフもシュウ君のナイフも毒は塗っていなかったらしい。あくまで捕獲目的だから殺す予定はなかったのか。ただ、毒が塗ってあったら更にやばかった。私としても反省せざるを得ない。
「マイちゃん。他敵いる?」
「盗賊は森の中にまだいるみたいです。ただ、ここからかなり距離があるみたいで…狙っても良いですけどきりがありません。」
「探知魔法には引っ掛かってないわね。うーん、これ以上は被害的に無理かなぁ。」
「でしょうね。残りはケリンさんたちに任せるかぁ。」
私は植物経由で雄花の拠点に駆除について連絡をいれておくように伝えた。返答は来なかったが…まあ、拠点からは離れてるからなぁ…なにも動かないことはないだろう。
「マイ。すまんが来てくれないか?」
「あ、はい。」
リールさんに呼ばれた。
「すまない。捕虜にされた連中を助けて欲しいんだ。兵士が行こうとすると檻から警戒されらしくてな。マイなら適任じゃないかと思って。」
「あー、まあ…しょうがないかなぁ。」
檻の側には私が拘束した人間が散らばっている。兵士は逃げないように警戒しながらどうするか話し合っていた。数が多すぎるのである。連行するのが一般だが、馬車や荷馬車に罪人を大量に突っ込んでおくことは不可能であった。
(まあ、帽子だけ取れば仲間と思ってくれるかな。)
私は帽子をリールさんに渡し…シュウ君に渡しといて、である…檻の側まで行った。7-8歳の雄花が4匹ほど震えてる。
「大丈夫?」
私が声をかける。私の花を見た雄花たちが急に喋り始めた!
「雌花さんだ!」
「助けて!」
「いや、僕が先で求婚する!」
「先ずは助けて!人間がお姉ちゃんを襲っていて…」
「えーっと、入り口は…」
「あっち!」
指差された方向には扉があり、鍵がかかっていた。
「鍵ねぇ。どうやって開けようかしら。」
そう思いながら鍵に手を触れようとした瞬間、
「お姉ちゃん!それさわっちゃダメ!!!!」
「え?」
子供の雄花の警告が来たときには、既に私は右手で鍵を触れていた。その時「バチン」と大きな音がなった。
(イッタ!!)
静電気か?私は右手を見る。右手から煙が出ており、鍵に触れた手のひらは炭化していた。触ってみると…感覚が感じ取れない、ヒリヒリはするのであるが…焦げた部分がパンの焦げを削ったときのようにしたにこぼれ落ちた。よくよく後で聞くと、この雄花達も鍵を何とかしようとして触れて一部黒ずんでいる輩もいるらしい。
「………」
私は実感した。理性が死んだと。私は前世人間である。それがあるゆえ私は人間を攻撃しても殺すことはしない。半殺しはあったが…その、前世人間と言う理性が…やりすぎ禁止と言う理性が…完全に崩壊した。そして、本能が…野生の魔物としての本能が…私自身を支配していく…。
…うん?不穏な雰囲気が…




