開戦
「シュウ君。これから開戦の合図を私が上げる。間違いなく殺し合いになるから覚悟しておいて。」
「う、うん…どうするの?」
「こうするの。あ、シュウ君見えないわね。うん。見なくて平気よ。騒がしくなるから。」
「え…。」
私はツルを操作し…相手の檻に掛けられているマントの様なものを上から掴み、強引に引っ張り上げた。檻より側の木の方が高いのでツルを高い木の枝に通して引っ張り上げれば完成である。マントと檻の接着は結構ガサツであった様である。一気に捲れ上がり、中が露わになる。私からは見えないが…中には見た目7-8歳ぐらいの少女達…全員雄花だが…が閉じ込められていた。アザや火傷を背負ったものもいるらしい。捕まる際抵抗したのだろうか。雄花達の助け声も側にいる人間には聞こえてきた。どうやらマントには防音魔法がついていたらしい。マイの帽子には防臭魔法がついているが、それの音版の様である。
「な、なんだ?!」
盗賊なのか奴隷商人なのか知らないが…一味は動揺する。
「ほう…まあ、どう見てもアレだな。襲われた原因はお前らが魔物の子供を誘拐したから…で、問題ないよな?」
ベイルさんは既に大きな盾と剣を構えていた。
「その魔物達はデレナール領で同盟を結んでいる魔物達です。人々が手を出すのは許されておりません。道中の看板にも記載があったかと。この違反行為は全員捕縛対象となります。大人しく全員武器を捨てなさい。」
兵士が盗賊一味に警告する。まあ、従う奴などいるわけない。
「全員こいつらを殺せ!奥にある馬車も同様だ!金目になりそうな物や人は生捕りだ!」
と、盗賊も本性を露わにし…本格的な殺し合いになった。
「さてと…意外に人間って小さいから当てるの難しいのよね…。」
ウィリーさんは弓を使って不意打ちを仕掛けている。殺してはいけないし、致命傷与えないと平気で殺しにくるから敵を狙うのが難しい。間違えたら仲間に当たってしまう。
「私はそこらへんよく分からないなぁ…」
メリーさんは敵しかいなさそうなところに魔法を発砲する。容赦ない爆発音である。二人は前衛のリーダーとベイルを見て凄いなぁと思っていた。何しろ各々1対2でも敵を押している。兵士は1対1ずつ処理しているが…挟み撃ちされそうになった時にはシロが魔法で応戦していた。いや、馬車と乱闘の間に立ち塞がり敵が貴族の馬車へ行かない様にしている。
「こっち来ちゃだーめ!」
アースは5m級のゴーレムで敵を襲撃にかかる。更に近距離の敵がこっちへ来そうになると、地面をぬかるみに変え敵を転倒させていた。大地の妖精である。土を駆使した魔法はなんでもありであった。
「おーっとっとー。」
アースは妖精のため空を飛んでいる。簡単に言う。目立つ。死角から飛んでくる矢や敵の魔法がアースに向けて飛んでくる。アースはそこまで戦闘特化ではない。普段は森の中を飛び回って魔物から逃げているだけである。集中砲火は無理らしい。敵の魔法が彼に直撃した。
「ギャー!」
「アースちゃん?!」
メリーさんが叫んだ。
「…なーんて、キャッキャッキャー!」
そんな雑魚ならBランク魔物生息地帯で2800年も生きれるわけがない。魔法障壁…所謂結界を貼っていた。
「くらえー!泥爆弾!」
アースが矢が飛んできた木の根本を狙う。泥爆弾ということはタダの泥団子のはずなのだが…根本が崩れ木が倒れた。盗賊の一人がその木から落ちてくる。
「もらったわ!」
ウィリーが落ちてきたアーチャーを仕留めた。ウィリーのアーチャーとしての実力はBランクとはいえトップクラスである。
「そこね?!」
敵の魔術師だろうか。ウィリーさんのいる場所に魔法を飛ばす。矢が飛んできた方向にアーチャーがいる。その認識は敵味方変わらない。魔法は空中爆発した。
「あんたの相手は私よ!」
メリーさんが敵の魔法を爆破させていた。
「あら、貴女…殺すのがちょっと惜しいわね。大人しく捕まって性奴隷として売られなさい!」
敵の魔術師がメリーさんに魔法を放つ。彼女も対抗した。魔法のぶつかり合いである。
「おねーさんー?手かそうかー?」
アースである。久しぶりの戦闘だったのだろうか。大分余裕が出来てきたらしい。
「いいえ。アースちゃんが妖精だってびっくりするような魔法使うんだから!」
メリーは脳筋魔術師である。言わば火力こそ正義。彼女が呪文を唱えると、自身の足元に魔法陣が展開され…前方には小さめの魔法陣が8つ形成された。自身の前からだけではなく更に8つの魔法陣がら何かしらが飛んでいく。
「な…合成魔法?!…その魔法は、ま…ぐ…ギャー!!!」
敵の魔法をもろともせず、敵ごと吹っ飛ばした。
「イェーイ!」
「おねーさんーすごーい!ボクより強いかもー!」
「えっへん!」
「メリー。調子に乗らない!」
ウィリーさんは再度隠れた敵を炙り出し襲撃する。探知魔法はメリーさんが使っているのであるが…ウィリーさんの場合長年の経験からか、天才気質だからか…メリーさんから報告がなくてもある程度敵の潜伏場所が分かる様である。潜伏している敵がいると前衛が崩壊してしまう。ウィリーさんはやはりCランクのメリーさんとは格が違う様である。
「グググ…調子に乗るなよ?魔女っ子娘!」
吹っ飛ばされた魔術師が魔法を放った。放った先はメリーさん…がターゲットではなく…馬車に直撃する。
「な?!」
「しまった!」
女性ハンター二人が声を漏らした。爆発した煙が減ってくると…土で出来た壁があった。
「ねえねえーおばさーん?知ってるー?」
「え?」
さっきの魔術師の前には羽が生えた4歳ぐらいの女の子がいる。
「人間への悪戯ってーこういうことも出来るんだよー!」
アースはその女性のお腹を本気で殴った。威力はそれこそ4歳の女の子…のはずなのだが、強化魔法と大地の妖精によるぶっ壊れ性能でやばいことになっていた。
「ガハッ!!!」
女性は口から唾…ではなく大量の泥を吐き出した。女性は腹を抱え込み土を吐き出す。
「ハハー!やっぱり人間の悪戯面白いー!避けるの飽きたしーもうちょっと悪戯ー」
「おいバカ妖精。お前の仕事は後衛だ。とっとと帰れ!」
「チェー。これ終わったらお前も血祭りだー。」
シロに怒られメリーのところに戻っていくアースであった。ムサビーネ夫人がかき集めた兵士なり従魔なりハンターは優秀過ぎた。10分足らずで敵はほぼ壊滅しているレベルである。
これだけチートっぽいキャラを並べとけば、主人公は影に埋もれるよね?




