孤児院の判断
解体作業が終わり、少々日数がたった。マイの心も大分落ち着いた頃…新たな爆弾がマイたちに降り注ぐ。色々あったのが原因で中々先へ進まなかったものが動き始めていた。最悪な方向へ。
(はぁ。今日も孤児院からかぁ。)
基本私は森の中で独り暮らしである。人間と関わるの面倒臭いし、第一魔物だからこっちの方が気楽である。どっかの雄花達がここら辺を監視していることは知っているが、害を与えない限りは植物から情報を遮断して貰っている。いや、むしろ植物の方が機転を利かせて良い意味で嘘をつき極力雄花が精神的にも側にいないように気を遣ってくれていた。例えば…
『姫様。今週は雄花が欠勤みたいです。』
「え、そうなの?代理とかいるんじゃない?」
『途中で魔物に襲われたみたいでして…負傷したので引き返したとのことです。』
「ふーん。大変ねぇ。私の何処が良いんだろう。」
実際はそのような事件はなく、普通に監視が回っていたりする。ただ、ここの間はマイにしてみれば自由時間であった。実際、雄花は監視しかしていない。拠点はおろか側にもアラートがならなければ来ることはない。その為、私にとって雄花がいたとしていなかったとしても生活的には変化0なのである。このような嘘は真偽も分からないのでマイも気づかず受け入れており、解放感に浸ることも多かった。…第三者目線では植物には騙されやすいマイであった。
(孤児院遠いんだよなぁ。まあ、シュウ君いるし…行きますかねぇ。)
孤児院は私の拠点から1時間半以上かかる。と言うよりデレナール領まで大体1時間半だからしょうがない。私の足は魔物のため根っこで強引に作られた様なもの。歩くやしゃがむならまだしも、早歩きすらままならないものなのである。早く歩いて早く着くとかは出来なかった。まあ、何だかんだで守衛も突破し…守衛の扱いがもう私ただの人間の女の子なんだよなぁ…孤児院に着いた。
「すいませーん。マイですー。」
「あ、ああ、いらっしゃい。あ、丁度良かったわ。中に入って。」
丁度良い?今度はなんだ?私はシュウ君に会うためにこの孤児院に来ているだけなのだが…気付いたら子供の面倒を見ると言う一仕事をやらされている。無給で。魔物の扱いもひどいものである。
「シュウ?マイさん?ちょっとこっち来てくれない?」
「あ、うん。分かった。」
シュウ君もやってくる。私達はある程度の個室に連れていかれた。本来は先生方が会議したり、問題児を叱責する場所なのだが…いやな予感しかしない。何か不味いことでもやったか?「ちょっと待ってね」と言われ暫し待っていると、院長先生がやってきた。先生方で一番年配である。主に孤児の面倒よりこの孤児院の方針とかそう言うことを考える人なので表にはあまり出てこないが、希に出てくるので把握はしている。
「さてと…じゃあ、単刀直入だけど…本題に行きましょうかねぇ。」
院長先生がしゃべる。女性の院長である。
「シュウは既に10歳になって2ヶ月以上経っています。本来もうちょっと前に言おうとしていたのだけどドタバタしていたようだから今日にしました。」
私は何が言いたいのか分かり冷や汗が出た。
「例外を作りたくないと言うこともあるので…本日を持ってシュウは孤児院を卒業して貰います。」
「え?」
「ちょ…急すぎませんか?」
言わば出て行けであった。
「いえ、既に彼はハンターとして仕事はこなせています。お金も、稼ぎはまだまだみたいですけど、貯金もあるはずですし…従魔がいれば大丈夫ですよね?」
院長は私をじっと見る。私は逆に後悔した。シュウ君が学校行きたいと言ったのでごり押しで金貨50枚程度…日本円換算で500万円を数日で稼いでしまったのである。まあ、色々幸運があったと言うのがあるので、同じことは2度と出来ないが…それだけの実力がある魔物を従魔にしていることがバレてしまっている。本気を出せば問題ないよね?と見積もられてしまっているのであった。
「とは言っても…前回はあまりにも幸運でしたし、私だって限界が…」
「どちらにしても、今すぐに問題になると言うわけではありませんし…孤児院の経費的にもこれ以上置いておくわけにもいかないのです。」
「………」
この孤児院、何度も言っているが物凄くボロい。床の隙間から草が生えているレベルである。抜いたとしてもしばらくしたら生えてきてしまうレベル。それ故もう誰も対応するのをやめてしまっている。それぐらい人件費としても余裕がない孤児院なのであった。
「衣服は孤児院のものです。今日は自分に合った服を買って来てもらいまして服の返却。後は、宿を取ればしばらくは大丈夫でしょう。宿の取り方についてはマイさんはご存知ないかもしれませんが、シュウには既に指導しております。こちらとしても、10歳で孤児院を卒業させるのは毎回毎回重苦しいものはあるのですが…シュウさんのお兄さんもお姉さんも同じ道を通って来ております。ご理解して頂きたいです。」
院長はシュウ君と言うより私に頭を下げて来ていた。まあ、子供だけへの説得だったらここまで丁寧なことはしないだろう。しかし、マイは一種シュウの保護者的ポジションもやって来てる。年齢もこの院長の倍は超えるだろう。
(…まあ、ゴリ押しは通用しなかったという訳ね。仕方ないか…私がシュウ君を今後どうするか考える時間をくれただけでも良しとしますか。)
私としてもこれ以上の無理強いは不可能と判断した。いや、魔物としてゴリ押しても良いが…そんなことをしたらシュウ君が罪人になってしまう。諦めるしかないのであった。
「シュウ君。これから服を買いに行きましょう。服を買って、今の服を孤児院に返したらギルドに行きますかね。」
「うん…分かった。えーっと、院長先生。今までありがとうございました。」
「ええ。こちらこそ楽しい時間をありがとう。マイさんにも職員代表としてありがとうね。」
お礼なら金寄越せと物騒なことを考えている私であったが…まあ、お礼を言われて悪い気持ちはしない。私とシュウ君はとりあえず、私生活出来そうな服を1つ買い…孤児院を後にするのだった。