家出
「ねえねえ、誰か話せる?」
『姫様、どうかなされましたか?』
「草原の植物の量、減っていない?」
50年前までは様々な雑草が多い茂っていた。しかし、20年ぐらい前を境に喋っている植物の量が減っている感じがしていた。私は普通に移動できる。だから喋ってくれる植物が減っても、森の方に移動し普通に会話していた。そして直近、雑草の量が減ってきており、何も生えていない言わば土そのものが見えている場所が増えてきているのである。更にもう一個問題が生じていた。
「うーん、なんだろう。ここら辺にいるとお腹が若干空く様なイメージがある。」
私は植物の魔物である。光合成出来る為、お腹は減ることはない。これもまた私は動けるため、森の方に行って日光を浴びればなんともないが、私の拠点一帯にいると空腹感を感じることが出てきているのである。
『姫様。おそらく、ここいら一帯の土が枯れてきてしまっているのだと思われます。』
「枯れる?」
『要は土の中に含まれる養分が減ってきているのです。姫様のおばあさまが生きていた頃は魔物を捕食した養分でこの土も潤っておりました。しかし、現状ここの土に養分を含ませる事象が何もありません。』
その途端、私の顔が青くなったと思う。要はおばあちゃんはここの土の管理までしっかり行っていたのである。私がこの土地を引き継いだのに対し、それを私はしてこなかった。というよりそんなことなど私自身知らない。どっちにせよ、全部私の落ち度である。
「わ…私が、悪いの…?」
『姫様?!落ち着いてください!』
急に私が泣き出したものだからか、植物の方が動揺し始めた。
『姫様は何も悪くございません!』
「だ、だって…おばあちゃんが、ここの土地を管理していたときは問題なかったのに私になったから…そしたら…」
『姫様。それはおばあさまが異常なだけです。おばあさまはここいら一帯に根を張っておりました。ですから、その根を使って養分を分配することが出来たのです。姫様はその様なことは不可能です。こうなるのはどの植物もわかっていたことです。誰も姫様を責めておりません。』
土を潤すためには生き物の死骸が最も効率が良いと勝手に思っている。だから、死んだ魔物をここいらに埋めておけば理論上は土を干からびさせることはなかったのかもしれない。だが、魔物は大きい。遠くで狩りをしてここに連れてくるのは私の体力がいくらあっても足りないし、魔物を誘き寄せてでは私の命がいくらあっても足りない。冷静に考えてみても既に詰んでいるのであった。
「どうすれば元に戻るの?」
なんとなく答えが分かっていたが聞いてみることにした。
『姫様がここに滞在する限り、ここには魔物は来ません。小型の動物はおりますが、死ぬときは大抵森の奥です。ここの土地を肥やすためには姫様がここを立ち去るしかないかと。。。』
私がここにいるから死骸がここいら一帯に何もない。要は土に養分が付加されず、枯れてしまったのである。要は全責任が私なのである。
「わかった。」
『姫様?!どちらに?』
「もう私の場所はここにはないんでしょ。だったら出ていく。それだけのこと。」
『ですが姫様!』
「今私が決めた!それにもうこれ以上みんなに迷惑かけれない!私は出ていく!皆、今までありがとう!」
そうして私は、拠点を追い出されたのか自ら進んでなのかは分からないが立ち去ることになってしまった。おばあちゃんの意図でとりあえず、新しい植物とは会話しておけというのがある。私は人見知りとはいえ、挨拶ぐらいは出来る。それに、私という存在自体が物珍しかったのか、それとも拠点の植物達が機転をきかせてくれたのかはわからないけど植物の方から色々会話をしてくれた。一人旅ではあったが、1人ではなかったことが私の心を支えていた。
(とは言ってもなぁ。歩き続けるのもアレだし、新しい拠点は欲しいかな。)
食べる必要性はないが、木々が多いところだと日光が遮られてしまう。光合成ができない。ツルを使って木の上に行くのもありだが、空中にも魔物が飛んでいることを忘れてはいけない。はっきり言って、地上の魔物より空中の方が厄介。私のツルは不意打ちするなら絶対に地面に突き刺す必要がある。直接狙ってまず当てれたことはない。要はタイムラグが空中の方が圧倒的に大きいのである。すなわち、木の上で光合成を行うのは最終手段。基本的には木漏れ日が限界ではあるが、森の中だとそう言った場所は少ないのである。
(安定して日光が当たる場所かつ、寝床が作れそうな場所が近くにあればそこを拠点にしようかな。)
今までのおばあちゃんがいたところでは、おばあちゃん周辺は草原だったし、おばあちゃんの根元が寝床になっていた。ぶっちゃけそれ以外は必要ない。魔物なんて、おばあちゃんが死んでから定期的に昼夜問わず襲ってきたし、今も一緒。まあ襲われる前に近くに来ただけで全員地面固定ではあるが。そして、歩いて歩いて1ヶ月程度。今までに比べると遥かに小さいが、理想の場所を見つけることが出来た。まあ、植物達に理想を問い合わせをしてそこに向かって行ったということでもあるが。
(まあ、及第点かな。歩き疲れたし、しばらくはここにいよう。)
恐らく数十年ここにい続ければまた元の拠点のように土が腐るかもしれない。ただ、それは数十年先の話。定期的に移動するということを念頭に入れておけば問題ないであろう。新しい拠点の側に生えている植物たちにも挨拶し、魔物が来たら連絡するようにお願いしておいた。これで問題ないだろう。そうしてそこで数ヶ月生活し…事件が起きた。