植物伝達の欠点
「おじいさま!おじいさま!緊急だ。兄に(にぃに)から連絡が来た!」
『なんじゃ?どうしたのじゃ?』
時はほぼ同じく…いや、もう少し前か?…デレナール領からかなりの距離が離れたある森の中。ジェスやケリンと同じような容姿をした魔物が、枯れかけている様に見える大樹に叫んでいた。
「兄にが雌花を発見したみたいなんだ!だけど…」
報告に来た雄花が急に声を落とす。
『うむ?』
「兄に、雌花を守るために魔物と戦って…花にダメージを受けて…もう、ダメみたいなんだ。だから、返答は要らないって…。」
『………』
しばし沈黙が起きた。
『お主にも兄がいっぱいいたと思うが、何番目の子かのぉ。』
「あ、おじいさま。ごめんなさい。えーっと…うーん…」
「数ヶ月前に拠点から遠征しに行った兄ですよ。雌花を見つけてくるって張り切っていた…」
後ろから別の雄花が助言しにきた。
『125番目の子かのぉ。うーむ、あの子なら無理だと分かっても雌花のためなら戦いに行きそうじゃなぁ。』
おじいさまと呼ばれていた大樹は感嘆していた。
『雌花はどうなのじゃ。無事なのかの。』
「はい。兄にが身を捨ててまで守ったって言ってた。だから無傷だって。」
『そうかそうか。それは良かった。』
もしこのおじいさん木に表情があったら笑みをこぼしていたかも知れない。何しろ雌花は恐ろしいぐらい数が少ない。125番目の子は犠牲になってしまったにしろ、情報が入ってくるだけで彼は十五分に仕事をしてくれたのである。なお、蛇足であるが…本来植物達は雌花の位置を雄花に報告することはしない。それがあり得るならば数少ないとはいえ、発見事例はもっと頻繁に起きているはずである。しかし今回の場合、雌花を見つけたと言う雄花の報告である。また、丁度この時…雌花が報告した瀕死の雄花の看病をし続けていたことや、別の雄花とトラブルが起きていたこともあり…伝えた方が良いのではないかと植物達は判断した様であった。
「で、兄にが色々話を持ってきてくれたんだけど…大きく分けると2つの内容かなぁ。」
『2つとは?』
「1つ目なんだけど…どうやらその雌花…見かけは150歳ぐらいで、まだまだ全然未熟みたいなんだけど…既に他の雄花達も目につけてるみたい。実際雌花を守るために魔物と戦った時、兄にと別の雄花と共闘したらしいし。」
「現場を見ていた植物達は魔物の攻撃を受けほぼ枯れちゃったとのこと。だから具体的な内容は分かっていない。ただ、向こうの雄花は無事生還している辺り…何か匂う…って噂にはなっている。」
植物伝達においてデメリットがある。それは植物達の解釈が伝達中に入り込んでしまうことがあると言うことである。人間でいう携帯電話で声を他者に伝える際、電磁波で伝えると言った技術があるわけではない。あくまで植物を媒介にしている。更にここの雄花達は…いや、ここの雄花じゃないにしろ、情報においてあくまで自分達にとって都合の良いように捉えてしまうことがある。それが、真実を若干捻じ曲げてしまうことさえあり得るのである。
『要するに…雌花救助中に向こうの雄花がこっちの雄花を嵌めた可能性があると言うことかの?』
「真実は伝言だけだから…兄にも雌花を守るために戦ったとは言っていたみたいだけど、どう言うふうに共闘したとかは全く言ってなかったし。」
現場を見たものならば、あれは共闘なのか謎であるが…彼の伝言は「共闘」と言う言葉に置き換えられ、悪い意味で認識されてしまっていた。
人間も良く伝言ゲームをやりますが…極力媒介は少ない方が良いです。後、私自身が自覚していますが私結構認識齟齬起こしやすいタイプなので…こう言うタイプが媒介に入ると大体話がおかしな事になりますね。。。