下半身の構造
「…これは、一体なんだ?」
解体員の後、一番初めに中を見たシュバレルさんが声を上げた。私も中を見る。足のような形…人間の足とは全然違う、大根?いや、それとも違う…の根が2つ、腰とスカートの付け根を通り越した部分から生えていた。更に床に付くであろう2つの足元部分は人間のように平たくはなっている。しかし、太い根2つからは幾度も細い根が生えており、やはり地面に付くような構造になっていた。私の感覚からして、太い根は私が操作でき…曲げたりも出来るものだろう。細いのは感覚から制御不能で…意識したことない…地面から養分を吸うためだけに生えているのではないか?そんな感じがした。
「…私、考え取りやめます。マイさんのスカートの中は覗きたくないですね…悍ましすぎます。」
「うーん、私もこんなのなら見たくなかったわ。」
「これが、お姉ちゃんのスカートの中?」
「みたいね。私のここの中みたい?」
「…やめておく。」
シュウ君にまで引かれてしまった。半ばショックである。
「ほう。ちゃんと関節のように曲がる部分もあるのか。よく出来てるなぁ。」
シュバレルさんは関心していた。まあ、その言葉を使うなら「人間」もよく出来た形な様な気もするが。
「どうする?細いのは無理だが、太いのは切って中見てみるか?」
「マイ。大丈夫か?」
「ご自由に。何か言われたら全部人間の仕業にしときますけど。」
ただ、ここからが厄介だった。上半身と違い、足を構成する根っこは硬いのであった。ある程度切れ込みを入れ、中を見ると言うより割る雰囲気だったが…水なのか液体も出てきた。硬い理由はまあ、そこら辺の植物と同じだろう。私は植物の魔物だが、前世一般人であり、植物にそこまで詳しいわけでもない。
「この水も蜜かもしれないねぇ。重力的に頭のあるはずのものが、穴が開いたのが原因で体に流れ込み、根っこにまで侵食してたのか。」
「根の方が渇きが鈍いですね。その可能性は高いです。」
治癒医とシュバレルさんが会話していた。まあ、私もそんな感じかと思っていた。花の穴を塞げれば回復したのだろうか?それとももうどちらにしても手遅れだったのか…ケリンさんを見ていると胸元の穴は自動修復であった。ならジェスさんも花の穴を自己修復出来ていれば治癒医要らないで治せたはずなのである。自動修復は花に対して例外なのだろうか?「花の死」の定義は暫く謎のままになりそうである。まあ、第三者目線では…花への直接ダメージは基本死と思っていた方が良さそうである。軽い擦り傷や切り傷は別にしても…。
「残りは…顔だな。」
あらかた全部解剖は終えていた。残ったのは顔であるが…何人かが私を見た。
「顔そのものはちょっと…」
顔を解体したら本格的に肉片になってしまう。私自身、色々な本能が抵抗している。
「そういえば、さっきそこの従魔が言っていた件だが…灯りをより奥でつけると、空いた穴の中に隙間はちらほらあったようだぜ。」
解体メンバーの1人が言った。これで推論はほぼ確証だろう。強いての問題は刺さった瞬間花が死んだのか、穴が開き蜜を巡らせることが出来なくなったから死んだかの課題。ここだけは未解決問題になりそうである。メイの事例でもこれは判断できない。
「頭の固さはさっきの根に匹敵しそうだな。砕けなくはねえが…今まで以上にグロテスクは覚悟せにゃならんな。」
シュウ君が目をそらした。ミサさんも目をそらす。これ以上の探究はトラウマものに成りそうである。
「じゃあ、破壊は無しにしよう。ただ、破壊しなくても分かることはあるからな。マイ、ツル出せるか?」
「ま、まあ出来ますが…」
「鼻や口を通して繋がっている場所の確認がしたいんだが…」
「あー、もうこの際全部目を瞑りましょう。」
そうして鼻から吸うであろう空気の流れや口から採取したものの行方とかが調べられた。どっちも大きな管へ繋がっている辺り結局謎になってしまったが、まあこの太い管が酸素なり二酸化炭素なり養分なりを蜜へ排出しているものだとは想定される。耳や目の構造は不明だが…見た目人間のため同じような構造なのだろう。頭に刺さった内部からは脳のようなものは見つかっていない。あれだけの氷柱が深く刺さっていたので頭蓋骨貫通しているはずなのだが…にしてはジェスさん初めの方は普通に生きていたし命令器官はどうなんているんだと突っ込まざるを得なかった。まあ、「魔物だから」とか「脳も花、詳細は魔物だから」で済ませる案件と言うことにした方が良さそうである。まあ、「脳=花」ではメイが花を大きく損傷したときにしばらく平気で動けていたことに矛盾は生じてしまうのであるが…。斯くして解体作業は終了した。
「皆様お疲れ様でした。これにて作業は終了になります。全員解散後、ギルマスから保管について指示がありますので担当の方は残ってください。また…ジェスさんへの労りも込めてある程度は元に戻したあと、黙祷をよろしくお願いします。」
治癒医の指揮もこれにて終了である。
「黙祷?」
シュウ君が聞いてきた。
「うーん、まあ手を合わせて…目をつぶりながらお辞儀をして…ジェスさんへの感謝とか、無事天国へ行けますようにとか願うのかなぁ。」
私は前世、黙祷と言われても形だけで中身は何も考えていなかった。その為、シュウ君に対しても超適当に説明していた。
「うん!」
とのことでジェスさんのそばへ行き黙祷した。私も右にならえである。おそらく彼の死体を今後崇めることもないだろう。大分解体されてしまったが…いわば告別式であった。この後もうちょっと保管された後破棄されて灰になり自然に帰る。世の中寂しいものだなと半ば私は考えていた。
そろそろ、雄花セクションは終了になります。次は何の話だっけなぁ。ここを投稿している時、多分在庫は全く違う内容を書いているはずなので覚えていないんですよねぇ。。