死骸の所有権争い
「では、時間になりましたので作業を始めます。えーっと、指揮は私が取ります。よろしくお願いします。」
某治癒医が指揮を取るらしい。
「今回の目的は新種のアルビトラウネ族の死因調査が中心となります。勿論、今後の生態系調査の一環として解剖することも許可はしますが…第一目的は今後同じような怪我が生じた時、私達でも対応出来るか否か判断、或いは出来るのであれば対処方法を検討する場となっております。この作業は今、シュウさんの魔物であるマイさんの許可を貰った上での調査です。雑な対応はご法度ですし、マイさんが拒否をした場合にはその部分における作業は中止とする旨予めご了承下さい。」
「え?良いんですか?」
「ああ…お前とこのジェスの関係はよう俺にはわかんねぇが、下手にバラバラにされたくねぇんだろ?」
「あ、ありがとうございます。」
「後は…ああ、あれだ。マイさんの指摘で、アルビトラウネの解体物を持ち帰ることはお控え下さい。マイさんが引き取るとのことです。よろしくお願いします。」
「え、ダメなのか?」
シュバレルさんが反発し、ムサビーネ夫人も嫌悪の顔を示した。
「私は人間をそこまで信用していません。素材が人間にとって好都合なものの場合、乱獲しようとしませんか?貴方達?実際、ケリンさんから報告が来ていますが…ここの街では事例はないと思っていますが、他のどっかでは私達の花の蜜を狙って殺傷や誘拐事件が起きており、ケリンさん一味がカンカンです。まあ、襲われたいと言うならどうぞですけど。」
「うーん、マイさん。その意見はごもっともですし、私も私用としてどっかへ持って行ったりすることはしませんけど…既に被害が出ている以上、マイさんが引き取って何処かへ隠すよりも…この領地でも調査した上で悪用されそうなものがないかとか、悪用されていた時の判断基準とかを作る際には逆に必要になると思いますよ?」
ミサさんから指摘が来た。私は腕を組む。
「そうだ。マイ。考え直してくれないか?」
「ふむ。わしからも頼もうかの。彼の亡骸についてはわしらが厳重に保管する。その上で、お主やケリン殿が抱えている問題について取り組んでいこうと思うのでな。」
シュバレルさんが声をかけた。ギルマスも発言した。私も考える。拠点にジェスさんの死骸をポイするわけにもいかない。埋めるのが理想と考えていたが…違う考えもあるらしい。
「私としてはジェスさんをバラバラ死体にしたくないと言うのもあるのですが…。感情論ですけど、その言い訳はダメですか?」
少々沈黙が走る。
「俺ら人間もそうだが、死体はいつか腐敗してしまう。実際、俺は魔物研究をしているが…解剖した時も最終的には焼却処理だ。保管と言ってもそう長くは出来ない。マイの前で死体を粉砕しないとは誓うけど、最終的には灰になる。無秩序かも知れないが、それだけは考えて欲しい。」
シュバレルさんが言った。私は腕を組んだまましばらく考える。
「はぁ…わかりましたわかりましたよ。折れれば良いんでしょ折れれば。ジェスさんや他の雄花に呪われても知りませんからね?…どっちにしても、このギルドからの持ち出しは厳禁です。研究報告書でも作りたい場合はスケッチとかそっちにしてください。」
「お、おう…マイ、報告書とかスケッチとかよく知っているな。」
私は眉を顰めたが内心は焦った。私は前世バリバリの理系で生物実験とかも平気でこなしていた。その感覚から出てしまった言葉であった。まあ、明らかに違和感を感じたのはシュバレルさんだけであり、マイの魔物としては異常すぎる行動にミサさんやムサビーネ夫人は慣れすぎているので違和感を全く感じなかった模様。慣れとは恐ろしいものであった。
「じゃあ、あれだな。研究目的で素材を使いたい場合にはこのギルドの担当者…誰がやるかはギルマスが決めるんだろうが…に問い合わせだな。まあ、シュバレルが言う通り長くはもたねぇ。やるなら早めだな。で…あー、他に質問はありますか?」
治癒医は指揮に戻ると口調を丁寧語に戻した。
「無い様でしたら始めますが…もう良いか?俺この口調合わんわ。」
じゃあやらなければ良いじゃんと思う私であった。
「で、マイ。死因を調べるためには目撃者の情報とか、後はジェスの体に詳しそうな奴が一番知っていそうな気がしてな。だから、マイと後はテイマーのシュウ。お前ら二人が何処を調べれば良いか判断してくれや。死因が分かればそこから分析、後はまああそこのメンバー達が適当に指示して行くと思うからな。」
ミサさん達オタク軍団を見ながら治癒医は言った。実際のところ私自身私の体に興味はあるのであるが…まあ、ブレーキをかける役にはなりそうである。
「そうですね…シュウ君。シュウ君はジェスさんがこんな事になっちゃったのってなんでだと思う?」
「うーん…やっぱり、魔物に襲われちゃって…怪我しちゃったから。」
「そうね。あまりあの時のこと思い出したくは無いと思うけど…何処が原因だと思う?頭?腕?腰?足?」
「お花!だって、お姉ちゃんお花大事にしてるし、ジェスさんも気づいた時混乱してた!」
「だそうですよ?既に花はボロボロですが…極力崩さないように、内部を見てみるのが一番かなぁ…。うーん、あまり人の花じーっと見たく無いんだけど…今後のため私も腹を括りますか。」
「うんにゃ。俺もそうだと思う。じゃあ、まずは花を調べてくれ。」
解体メンバーが慎重に花を触りながら中を調べていく。途中、花が崩れ花弁が落ちたり…雄蕊が折れて落ちたりしてしまったが、私はその様子に恐ろしいほど…人間が考える罪悪感の100倍以上…抵抗があったが、「死体だからしょうがない」と言い聞かせていた。




