未知の死体と人間達の探究心
「え?」
シュバレルさんは硬直した。顔は見たことがあるに決まっているが…花は枯れ、体の葉っぱも枯れ腐りボロボロになったジェスさんを見たら同様はおろか、同一人物と認定するのも難しいだろう。
「…何があったんだい?」
シュバレルさんが私に聞いてきた。
「…別れた後、魔物に襲われまして…その結果です。」
「他は無事なのか?!」
「ええ…ケリンさんも大怪我しましたが、殆ど自然治癒しましたし問題ないかと。私は見ての通りです。シュウ君も大丈夫です。」
「そうか、無事でなにより…ではないか。」
しばし沈黙が続く。
「えっと、ジェスさんは…その…これは大丈夫なのか?」
「…触ってみてください。」
私はそれしか言えなかった。彼がジェスの葉っぱで出来たスカートを触ると触った部分が崩れた。中は暗くてよく見えない。腕を触ると、腕に巻かれているツルが切れてしまった。
「…生きてるのか?」
「呼んでみたら良いじゃないですか?!」
私の声が何故か強くでた。シュバレルさんは黙り込む。おそらく察したのだろう。しばし時間が経つ。
「ケリンさんって確か一番身長が高かったアルビトラウネだったよな。彼も重症と言ったが、彼は自然治癒出来たんだよな。ジェスさんは何故?」
「カリンさんか誰かが言っていませんでしたか?私達は花が敏感だって。」
「花か…。襲われて花が枯れたのか?」
「枯れたと言うより、刺さったです。魔物の攻撃が直撃。」
「そうなのか?うーむ…」
シュバレルさんはジェスさんの花を触ろうとして止まった。
「触っても良いのか?」
「死人に口無しですが…個人的には止めて欲しいです。」
「…だが、確認しないことにはなんともじゃないの…」
私はツルを出し、シュバレルさんの伸ばした右手首を掴んだ。
「どいつもこいつもいい加減にしてくれませんか?!私はモルモットじゃないんです!ジェスさんもケリンさんもカリンさんも皆んなそう!死んだからって勝手に研究材料にするな!え?!」
気づいたら私は涙が出ていた。気づいたら私は目を瞑って叫んでいた。既にマイの精神は崩壊寸前であった。
「なんだなんだどうした?!」
治癒医が声に驚きやってくる。現場を見て若干困惑した様だが…治癒医はシュバレルに問う。
「手首は大丈夫か?」
「あ、ああ…掴まれているだけだから。」
「何か言ったのか?俺もあんまり詳しくは知らねぇが…マイとジェスは同じ種族だ。仲間が死んだんだ。あまり刺激するのは良くねぇ。」
私ことマイは地面にしゃがみ込み、ツルを元に戻した後両手で目を押さえ込み暫く泣き続けた。二人の男性は何も言うことが出来なかった。マイが回復するまで15分程かかってしまった。私は立ち上がり側にあった椅子に座る。
「マイさん。話しかけても大丈夫か?」
私はシュバレルさんの声を聞き頷く。
「確かに僕は研究者だ。それは認めるし、君らアルビトラウネの生態系にも興味がある。逆にマイさんの気持ちも分からなくはないが…このままジェスさんを放置と言う訳にもいかないだろう?取り分け、彼の死因を突き止めることは今後君の命を救うことになるかも知れないしさ。」
私が再起不能の間、シュバレルさんと治癒医は話し込んでいた。シュバレルさんは研究員として、治癒医は医療として結局のところジェスを解剖…解体なのか?…すべきだと共に考えていた。
「…シュバレルさんは仲の良かった友達が急死したとして、死因を調べるために友達がバラバラにされても良いと?」
シュバレルは黙る。少しして話し出した。
「調査が終わったら…まあ、全部は無理だが…極力元に戻すと誓う。」
私は考えこむ。実際のところ、まあおばあちゃんの木やケリンさんが言う死因についてはあくまで言ったことである。或いは想像程度。百聞は一見に如かずだし、私自身自分の体に興味はある。前世人間の内臓構造とかも鮮明に分かっているのは誰かの死体が解剖されたからである。それだけは言い逃れは出来ない。
「1日だけ下さい。考えます。」
「…分かった。」
「…あ、そう言えば…」
私は治癒医を見ながら声をかけた。
「なんだ?」
「そこの観葉植物がジェスさんの遺言を預かっています。まあ…色々とあるみたいで、既に情報を流している様ですが…貴方宛てとして…えーっと…「数日間世話になった。僕は人間とはもっと横暴で危険なものと考えていたが…認識違いだと実感した。」…あ、後半お願い…「最期まで治療に専念してくれてありがとう。僕は死ぬかも知れないが、恩は必ず返す。」とのことです。…って、どう恩を返すんですか?私に何かしろとかじゃないですよね?」
『特にそこまで言ってはおりませんでしたが…自分が死んだ場所が人間の拠点なので、誤解が生じないように仲間に自分の死を伝えるとかそう言う事ではないですかね?』
「………」
確かに人里で死んだと言う情報は嫌でも植物経由で流れるだろう。人間を敵視している魔物であるなら危険認識として尚更である。誤解が生じれば…最悪、ここの領土がジェスさんの仲間に襲撃される可能性もある。そう言う意味ではある意味「恩を返す」なのかも知れない。私は「恩を返すの意味はそれだけなのか?」と考え込んでいた。逆に治癒医の彼は…表情こそそれほど変えなかったものの、内心「医師をしていて良かった」と思っているのであった。…そして、翌日である。私は一回拠点に帰り色々考えた。色々とは色々である。実を言うと私宛ての遺言もあったりしたのだが、私は聞かなかったことにしている。なのでこの事は考慮に入れていないが…まあ、結論は出た。ジェスさんが寝ている部屋に向かう。
「お、で…結論は出たか?」
「はい。」
私は息を吸う。
「あくまで死因と言う限りと、私の興味の範囲と言う条件で許可します。但し、死体から何かしら採取するのは厳禁で。死体は引き取ります。」
「分かった。…じゃあ、その方針で手続きを進める。最後に聞くが、それで良いのだな?」
「はい。」
とのことで、ジェスこと雄花の解体作業が決定した。死体は長く置いておくと腐る。まあ、既に枯れ葉となっているためこれ以上があるかは分からないが…早急にとのことになった。予定は明日となる。今日は雄花を解体現場へ運ぶ作業となった。ハンター達やらなんやらが、雄花を台車…前使ったものとは違う…で運んだ。今日は解体部屋の隅っこに置いておくとなった。ジェスさんが寝ていたベッドは枯れ葉で汚れてしまったので、綺麗に掃除である。全部は無理ではあったが、私も手伝える範囲で手伝った。自分が影響しているものは最後まで処理するのが私の方針である。
まあ、今のご時世…病院等で死なない限り原因究明のため解剖されますけどね。