過去に束縛される雌花
「あ、二人とも!お久しぶり!」
「おう、元気だったか?なかなか会う事ないからな俺ら。」
午後ある程度周り、散策しながらギルドの方向へ向かっている時…男女に声をかけられた。各々、魔物を連れている。
(鳩の魔物と、猪の魔物…あいつらか…。)
この二人とは、ムサビーネ伯爵夫人が実施している教育訓練の参加者である。と言うより、この街では魔物を魔物使いとして育てる場合、教育訓練が義務付けられている。魔物が街に多いと言うことでイザコザも起きやすい。それを回避するためにムサビーネ夫人が個人的に無償で実施している…言わば魔物の躾け講座であった。そして、私達が初めてその講座を受けた時に一緒だったのがこの二人…人名は覚えていないが、鳩は「ポー」、猪は「イータン」という名前で呼ばれている魔物だったはず。この2匹に初めての講座で襲われ死にかけたのが私である。…結果として半殺しにしたのも私であるが…。以来、相性が悪いと言うことで教育訓練で一緒になることはなかった。だが、私には記憶が根付いているし…向こうも申し訳なさかは知らないが記憶に根付いているらしい。いや、私が魔物を半殺しにし…魔物使いにも手を出したからしょうがないのか?
「どうしたんですか?」
私は警戒しながら一歩下がる。二匹とも帽子のお陰で花については感知していないらしい。ただ、あの教訓があってからか…二人は魔物をがっちりホールドしていた。
「あーいや…今、台車で病気になっている魔物を運んでいるテイマーがいるって話題が出ていてね。その魔物が頭に花を…とかあったから気になって探していたんだ。」
最後に会ったのは4年前。どっちも大分成長しているが…男性が20半ば、女性が20初めだろうか。
「心配してきてくれたんですか?」
「ええ…ただ、ちょっと想像とは違ったけど…。」
「私はそんな簡単にくたばりませんよ。と言うより、数年前…貴方達が野放しにした魔物が私へ致命傷を与えていた場合、私の末路はこうだったんですからね?反省してますか?」
「うん?どう言うことだ?」
私はイラッとしたが…主にシュウ君に頼んでジェスさんの状態と私が言ったことを説明して貰った。要らない情報も入ったが、この二人ムサビーネ夫人の講習で一緒になることが多く、それのキッカケもあり今では付き合っているらしい。私は前世付き合った経験ないし、今に至っては雄花軍団に看守されている状態。幸せとは疎遠であった。
「…雌花…攻撃…魔物…許さな…殺…クッ…」
「ジェスお姉さん!喋らないで!」
大体何を言いたいか私は分かったが、二人はキョトンとしていた。うーん、私はこいつらには関わらない方が良いだろう。今後一生。幸せという面でも命という面でも憎しみしか生じないと思う。こんなふうに前世敵をどんどん勝手に作っていくから鬱になるのであるが…転生しても逃れられない性格であり、運命であるのだった。
「そう言えば…ヤケに大人しいですね。その魔物達。目の前に襲ったことがある花があるんですけどね。」
「そう言えば…でも気付いていないみたいだな。見てはいるようなのだが…。」
と言うことは魔物にとって私達の花そのものには興味がないと言うことになるのか。花の強烈な匂いが、魔物を誘き寄せ餌として認識される。死んでしまった花はもう養分も何もない枯れ花として関心がないと言うことらしい。
(確か花の蜜だけなら花が枯れても作っていたはずよね…蜜を再分解して体へ流すのが花の役目のはず…。匂い自体は蜜ではなく花由来なのかなぁ…。)
そう考えると、何故花自体が魔物を誘き出すような匂いを排出しているのか物凄く謎であるが…アルラウネは匂いで獲物を誘い捕食していると聞いたことがある。それと同じ原理なのだろうか。自分自身の生態系に謎がまた増えるのであった。
(と言うより、ジェスさんの体が作っている蜜は今どこへ流れているのかしら。メイは頭から蜜が流れ出てたけど…ジェスさんにはそんな様子は見られないし…。)
その答えはいずれ出るのであるが…今の私には謎であった。
「じゃあ、まあ…お大事ね。」
「おう。マイの仲間らしいし、死なれちゃ俺らも後味が悪いからな。ちゃんと治せよ?」
そうして二人は去っていくのであった。謎が増え頭を抱える私と、「なんだったんだろう?」と疑問に思っている顔のシュウ君と瀕死ながらも魔物に殺意を出そうとしているジェスさんを置いて…。探検が終え、ギルドに戻る。
私は時折思うのです。「過去」と言う概念など存在しないと。勝手に想像した空想世界の産物に等しいと。そうしないと、マイちゃんみたいに苦しむので…。