壊れゆく雄花
「シュウ君。周りの視線は全部無視で。危険があったら伝えるから。植物さん達は万一魔物が…まあ、ここいらだとテイマーの魔物だけど…とか、私達の命を狙ってるとか…とりあえず、危険っぽいことがあったら全部教えて。」
「はーい!」
『畏まりました。』
『おう、デート応援しているぜ!』
「違う!」
「え、どうしたのお姉ちゃん?」
「あ…えーっと、シュウ君関係無いから大丈夫。あ、シュウ君。あそこの草踏んでおいて。」
「え…うん。」
『ギャー!!』
最近だとマイ弄りが流行っているのだろうか。とりあえず、私達は出発した。行動としては、ジェスさんが行きたい方向を示し…シュウ君がそっちへ案内し、私が護衛である。まあ、敵はいないから問題はないはずであるが…逆にいなさすぎて不安になった。
「うーん…変ね。」
「どうしたの、お姉ちゃん?」
ジェスさんが色んな家や道を指差す中で…まあ、個人宅は入れないが、店なら入れる。ジェスさんははしゃぐことはしなかった…出来ない方が正しいが、それでも楽しんでいる…興味を示している様子…私が呟くとシュウ君が返答する。
「この街はテイマーが多い街よ。まあ、密集しているわけじゃないから魔物まみれという訳じゃないけど…大体これだけ歩けば誰かしらが気付くとかの報告があっても良いはずなんだけど。」
私は今こそ防臭帽子を被っているから良いとして、この帽子が無かった頃は襲われないにしろ誰かの魔物には勘付かれていた。その度に植物が警告し、私は迂回したり街灯とかを使って上に逃げたりしていたものである。今、私は帽子を被っているとはいえ…ジェスさんの花は健在している。…大分乾燥していることは歪めないが…。その為、気付かれても…というより気付かれない方がおかしい。
『ああ、それについては俺も思ったが…確かその雄花死んでるって話だろ。だから、花としてもう機能していないんじゃないか?香りとかもさ。』
「あー、残酷だけど…有り得るわね。花さえなければ私もこの街もっと自由に動けたのかしら。」
『姫様はその帽子のおかげで好きに動けていると思うぞぇ?むしろ、その発言はこちらとしてあまり聞きたくないし…言われたくない話だから、考えないで欲しいんじゃぇ。』
「…マイ…ダメ…だ…お前…僕…同じ…苦しむ…ダメ…」
「………」
私の今の発言はタブーらしい。
「はいはい。冗談よ冗談。植物にタブー言われて、ジェスさんにタブー言われたからなんか嫌な気分ね…シュウ君。私を何でも良いから癒して。」
「え?…う、うーん…」
「…植物も…忠告…した…?」
「ええ…聞こえなかった?」
「…すまん…何も…」
「そう…。植物達に伝えたいことがあったらケリンさんじゃないけど、伝えておいてあげて。返答なくてもちゃんと植物達は聞いてるはずだから。」
「…気遣い…ありが…とう…」
どうやら、植物と会話する機能も壊れてしまっているようである。人間は死んだら一気に終わりである。まあそこまでに苦しむかもしれないが…。私達は逆に花が死んだらどんどん体が壊れていく感じなのか。ある意味残酷過ぎるのではないか…。私は心の中で私自身を…私の雌花を恨んでいるのであった。
「あ、ジェスお姉さん。ごめんなさい。」
ちょっとした段差があった。台車が揺れる。揺れた衝撃で、ジェスさんの擬似スカートから葉っぱが数枚こぼれ落ちた。本来なら有り得ない。第一、神経通っているし、葉っぱを引っ張られたら痛みを発することもある。「こともある」というのは部位によって重要度が違うらしく…手前すぎる葉っぱはそこまで致命傷な痛みは発しないからであるが…。
「…あ…ああ…気に…しないで…さ…」
「ジェスさん。喋るの辛いようなら手を動かすだけでも大丈夫ですよ。今日はジェスさんが主役なんですし、辛くない範囲で行きたいところ行きましょう。」
「………」
ジェスさんの顔から涙が流れた。私としてもシュウ君としてもやるせ無さに襲われるのであった。移動したり、昼食を取ったりとしていると…たまに野次馬が来る時がある。まあ、姿がボロボロになった少女が台車で運ばれながら移動しているのである。気にならない方がおかしい。基本無視だが、来てしまったらしょうがない。シュウ君や私が適宜対応していた。
(あー、この人達は結構前に声かけられた夫婦かしら…。)
私達は実を言うと顔が広い。と言うのも、シュウ君が孤児院で生活している時…時折私が孤児院へ行くと、午後シュウ君と二人で街を散策することが多かった。孤児院で一日いても良いのであるが、それではシュウ君と他の子供とで私の差別化が出来ない。その為、二人でお散歩するのである。ネタが切れるとギルドで文字の勉強もあったりしたが…その散策もあったため、私達について名前は知らなくても見たことはある…が多いのである。しかもどっちも子供…シュウ君に至っては6歳ぐらいから今の10歳ぐらいまで成長もしている。時折、「子供達二人で何しているの?」的な声もかけられることもあった。それ故の台車運びである。野次馬が集まってもしょうがない。
「そうなの…お大事にね。」
「まあ、病気なんて気迫で治すもんだろ!」
「お姉ちゃん!葉っぱ落ちたよ!付けてあげる!」
「また元気になると良いわねぇ…。」
説明をすると、ジェスさんへの励ましの声さえ届いていた。ジェスさんの心境はどうなのだろうか…不治の病と言うことは流石にジェスさんも受け入れてしまっていると思うのであるが…。ジェスさんは特に喋らず、時折涙を流しながら頷いてた。




