絶望する雌花
「お姉ちゃん。ジェスさん…良くなるかな。」
「………」
私は無言だった。症状は多少違えど、メイと同様のルートを辿っているジェスさん。私はもう無理じゃないか…諦めが走っていた。
「マイさん。珍しいですね。目の前に机があるのに突っ伏していないなんて。」
「………」
「これは重症ですね…。マイさん。思っていること全部吐き出してください。一人で考えても何も始まりませんよ?」
私達は部屋を後にした後、ギルドの奥の方で椅子に座っている。前には普段なら私が伸びているテーブルがあった。私とシュウ君が戻って暫くして、ミサさんがやってきていた。
「………」
「ダメですね。シュウさん。何があったんですか。ちょっとだけ医師の方とお話ししましたが…あの包帯で受けた傷が原因とのことでした。私もダメですね。ケリンさんやジェスさんが包帯で巻かれていても健康そうだったのでそこまで問い詰めませんでしたが…私にも問題がありそうです。…と言うより、この様子だとケリンさんも大丈夫なのですか?」
「そうだった!お姉ちゃん!ケリンお姉さんは大丈夫なの?!」
私は深呼吸する。…喋った瞬間感情が爆発しそうである。若干ではあるが、目から涙がこぼれ落ちた。
「マイさん?!ま、まさか、ケリンさんも何処かで倒れていたり?そ、それとも植物達から何か連絡が来ましたか?!」
ミサさんが動揺する。それが発火点になったか、私の感情が爆発した。
「…あいつは…無事…だ、…だけど…ジェスは…助からない!!!!いや、助けれない!!なんで、何でいつも私は…私は、こう言う時に限って…無力なのよ!!!!!!」
そのまま私はテーブルに蹲って大泣きしてしまった。右手を握りでテーブルを叩いている。残された二人は顔を見合わせる。いや、どっちもマイが何を言っているのか全くわからないのだからしょうがない。
「お、お姉ちゃん?」
「シュウさん。ちょっと待ちましょう。多分、マイさんは何が起きたか分かっています。ジェスさんは魔物であって人ではありません。私達よりも詳しく知っているかと。」
「う、うん…。」
かの私は、もう自分の世界で暴走していた。突っ伏しながら、爆発した感情が口から漏れていく。
「ジェスは花を…傷つけられた。メイと同じ。メイは花す…ら切断されたけど…ジェスは切断されてい…ない!刺さっただけ!なのになんで同…じ運命なの!この花、どんだけデリ…ケートなの?!ちょっと傷つけ…られただけで私も皆ん…なと同じ様にゲームオーバーで餓…死するの?!自分が死ぬまで…後、数千年…数万年その不安…で生き続けなきゃいけないの…コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ…」
その時、私は誰かに頭を撫でられた様な気がした。横目で見るとシュウ君が撫でてくれる。
「お姉ちゃんはね、僕が不安になった時って…こうやって撫でてくれるの。だからね、僕が今度は撫でるの。」
「あら、マイさん意外に優しいんですね。」
「ウル…サ…ウワアアアアアアアアアア…」
暫くマイは泣き続け、叫び続けていた。ハンターが何事かとこっちを見ることもあったらしいが…ミサさんが宥めていた模様。ミサさんは仕事を投げてこっちに来てくれたらしい。いや、厳密には違うか。ジェスがこのまま悪化したりすると、最悪デレナール領が崩壊する。その打開策をマイなら知っているのではないか。マイは人間不信があるのである程度信頼しないと何も喋らなくなることがある。治療医に聞いたところ、やはりマイはあまり喋っていなかった模様。だからここで聞き出そうと思っていたのだが…災難に巻き込まれているのであった。
「落ち着きましたか?」
私が沈黙して暫くして…ミサさんが私に声をかける。
「…多分。」
「すいません。ジェスさんが助からないって…本当なのですか?」
「…人間で無理なら…無理。」
「何故です?」
「…花を…傷付けられたから…。」
「………」
「私達は…花が命…。多少なら…多分平気。だけど…ジェスさんの状態…妹と同じ。」
「妹とは…確かマイさん妹がいて亡くなったとおっしゃっていましたね。」
「…。餓死直前の…メイと同じ…。もう、持たない…。」
ミサさんは考える。マイが諦めてしまっている。
「傷ついた花は治せないのですか?」
「…わからない。…妹は、花食われた。ジェスさん…花無事だけど…無事じゃない。…だから…わからない。」
「お姉ちゃん。ケリンさんなら何か知っている…かも?」
「………」
「ケリンさんって、あの雄花ですよね。…確かに彼はマイさんより10倍以上生きているみたいですし…。」
「聞いてみる…か。」
植物で会話しようとしたら、向こうから明日直に話すと言われてしまった。盗み聞きされたくないのか。と言うことで、翌日…私の拠点から一番近い街道近くで私とケリンさんは待ち合わせしていた。