初めての捕食
「魔物をここに近寄らなせればいいの?」
『結論から言えばそうです。ご安心ください。姫様の成長は我々も把握しております。姫様であれば我々が場所をある程度指定しさえすれば間違いなく捕獲出来るでしょう。ただ、姫様はおばあさまと違いまだ小さいです。ですので、狙う時にはおばあさまの木にお乗りになり視野を広くし、万一があっても大丈夫にすることをお勧めいたします。』
「ありがとう。」
今後、魔物駆除が始まるのかと思うとなんとも言えない気がする。ただ生きる為にはしょうがない。まあそこまでして生きたいかと言われると微妙ではあるが、おばあちゃんの唯一の子孫ということになるし暫くはおばあちゃんのためとしておくことにする。
「質問!」
『なんでしょう?』
「捕まえた魔物はどうすればいいの?」
『そうですね…捕まえたら逃すとか追い返すとかそういった選択肢はございません。ツルを離せば結局はこちらにやってきてしまうのですから。捕まえたまま放置…いわゆる餓死させるか、先ほどのように締め殺すか…或いはおばあさまのように捕食してしまうということでしょうか?』
話を聞いている限り、今後は私の縄張りになるここ一帯において危険生物が近づいた場合は…要は殺せということみたいである。その場合絞め殺すはやめておこう。今日は緊急だったが、本来であれば縛り付ける場所はここからずっと遠く。どうせ解く事はできないだろうし、そのまま放置が私にとって一番気楽である。実際稀に逃げられてしまい、再度捕捉し直すということはあったのであるがそれは未来の話である。逃げた場合には再犯出来ないように即刻死刑であったが。。。
「おばあちゃんは捕食できたみたいだけど、私は出来たりするの?」
私は見た目が違えどおばあちゃんの娘である。おばあちゃんが出来る事は私も出来るんじゃないか?その疑問が頭に過った。
『姫様のおばあさまからの最後の遺言ですね。結論から言えば捕食出来ます。おばあさまは姫様にはそのことをお伝えしたくなかった様でしたが…姫様は日光と腐葉土で十分生きれますし、姫様の性格上生き物を殺すことに躊躇いがあったことも知っておられた様でしたし。ただ、やはり伝えとかなければならないと思われた様です。』
おばあちゃん私をよく見ているなぁ。私がツルを使って捕獲訓練していた時、私は足ばかりを狙っていた。顔や首なんて狙わない。おばあちゃんに一度、捕まえたうさぎについて『お主…そのうさぎを食べてみるかぇ?』と言われた時には「やだ!」とキッパリ断言した記憶は残っている。
「捕食ってどうやってやるの?」
『私も遺言を頼りにしか分からないのですが、おばあさまと違い姫様はまだ木ではありませんので…捕食方法も異なる様です。』
いま「まだ」という単語が聞こえた。まだ、ということはいつか私もおばあちゃんの様に木になってしまうのだろうか。結論から言えば、条件を満たさない限りノーなのであるが…それを知るのは永遠と先のことである。
『練習として、丁度そこに魔物の死骸があります。これであれば姫様も躊躇いなく練習出来るかと。』
「分かった。」
やり方として、魔物をツルを使ってぐるぐる巻きにしていく。魔物の毛並みが全く見えなくなった状態で養分を吸い取ろうと意識をすれば良いらしい。意識をしてみると、ぐるぐる巻きにした魔物に向かってなんらかの液体がツルから分泌されていることが体感から分かった。
(体液?うーん、人間で言うところの胃液か何かかな。)
魔物の死骸が溶けていき小さくなっていくのが体感で分かる。そしてその養分がツルに吸収され、地面に差している両手のツルから体に入っていくことが分かった。
(おおー…お???)
体に養分が入っていくのかと思ったが、なんとツルから養分が体に入っていくのと同時に頭がどんどん重くなっていった。
(待って待って、多分これは…花の蜜か?)
頭のてっぺんから若干左にある私の大きな花。その中央には花の蜜を蓄えられるが、その蜜が急激に増加している。
(待って待って、溢れる…漏れる!!)
この時、頭で考えていることと体が無意識に動くことに違和感を感じた。体は魔物の養分を全て吸収したがっている。それゆえ、ぐるぐる巻きの魔物は溶かされ続け、地面に突き刺さったツルは抜きたくても抜けない。意識に反して体が動かない経験は初だった。多分魔物の生存本能なのであろう。しかし頭はパニックだった。何せ、花の大きさは大きいとはいえ所詮は顔の半分程度。今のスピードで養分を吸い取り花の蜜を作り続ければ間違いなくオーバーして溢れてしまう。花弁はちゃんと神経が通っている。花の蜜を花弁経由で垂らすときでさえ、体に水が流れたかのようなくすぐったさというか違和感があるのである。多分小さい生き物なら溢れるまではいかないのだろうが、魔物の大きさは2メートル弱。無理である。
(だ、ダメ!!)
頭を右側に傾けなんとか溢れないように努力したが、無駄だった。花の蜜は花の中に入り切らず溢れ始めた。
(あわわわわわ…)
人間の感覚で言えば「おねしょ」とか「お漏らし」状態である。私は多分であるが顔を真っ赤にして手で覆った。手は好きに動かせるのに両手のツルは地面に刺さったままである。よく分からない。
『姫様?!どうなされたのですか!』
「な、なんでもない!ほっといて!!」
『姫様!姫様の花から何か漏れておりますぞ?』
「言わないで!やめて!恥ずかしい!!」
とんだ大惨事であった。二度と大型生物は食べないと誓ったのであった。まあこの誓いもいずれ崩壊するのであるがそれはまた未来の話である。なお、この惨事から数日後…私が大量に漏らした花の蜜の場所は植物がいつも以上に元気そうにしていた。どうやら私の花の蜜にはかなりの栄養分が含まれているらしい。近い将来その花の蜜が役に立つとは思っていなかったが。遺言については以上とのことであった。