地獄はまだ始まったばかり
「抜いたぞ。」
「シュウ君。申し訳ないんだけど、ポージョンをジェスさんの頭にかけれる?」
「うーん…」
シュウ君はダメージを受けているが…それ以前に身長的にシュウ君はまだジェスさんに比べ小さいのである。10歳の男の子が18歳の少女?雄花だから少年か?見た目は少女だが…の頭を覗き込めますか?という問題があった。
「届くかなぁ…」
「あー」
「全く…シュウ、それを貸せ。俺がかける。」
ケリンさんはシュウ君からポージョンを奪い、ジェスさんの花にかけた。暫し、沈黙が続く。
「ジェスさん大丈夫でしょうか?」
「お姉さん大丈夫なの…なんだか可愛そう…」
シュウ君目線で、ジェスさんは両手首固定、体固定、耳、目、口は全てツルで巻きつかれていた。どう見ても拷問である。まあ、ジェスさんに攻撃されているし、助けたい半分怖い半分なのだろう。一度裏切られたら早々元には戻らない。
「とりあえず、首より上は解放するか。」
ケリンさんはツルを解除した。その瞬間声がする。
「ぼ、僕を殺す気ですか?!」
「なんだ。殺されたかったか?」
「じょ、冗談じゃない!こんなところで殺されるぐらいなら、お前も道連れにする!」
どうやら、ジェスさんは冷静さを取り戻したらしい。
「ジェスさん?取り乱していたの覚えてます?シュウ君が致命傷なんですけど…。」
「え…あ、そうだ。僕の花…。」
「お前の花は治療しておいた。マイ、こいつを解放してやれ。大丈夫そうだ。」
私はジェスさんを固定していたツルを撤去する。ジェスさんは花の辺りを触り、氷柱がないことを確認した。
「あ…ああ…た、助かったよ…あ、えっと…申し訳ないです。」
「シュウ君。だそうだけど、どうする?殺せと言ったら殺すよ?」
「え?ええ?」
「何を驚いている。シュウはマイのテイマーだぞ。マイの基準はよく分からんが、マイにとってシュウは重要人物らしいし、シュウの命令は絶対だ。取り分け、命に関わったことだとな。」
「お、お姉ちゃん。僕は大丈夫だから、許してあげて。」
「だそうよ。」
「あ…ありがとうございます。」
ジェスは改めて、シュウと言う人間は他の人間と違い雌花争奪戦において重要人物になっていることを再認識するのであった。まあ、そのことについてシュウは全く理解していないのであるが。マイとシュウともにポンコツであった。そして非情であるが…まだ誰もこの事件が地獄の始まりであることを理解していないのであった。と言うのも、カリンが腕を貫かれたとき彼は物凄い痛みを発している。ケリンが胸を貫かれたときも、彼はそれ相当苦しかったはずである。に対し、ジェスはそれらより明らかに酷い目を受けているのに…花の件で取り乱していたが…そこまで辛い思いはしていないのである。人間は死んだら勿論痛みも何も感じない。ポージョンは勿論死者を蘇らすことは出来ない。この二つを組み合わせると最悪の結末が見える。
『ジェス様の雄花はもう生きていないですね…。』
「うん?何か言った?」
『い、いえ。あまりここで立ち話をしているのは良くないのではないかと思いまして。』
「そうね…ケリンさん。ジェスさん。シュウ君。道草を食い過ぎたわ。シュウ君の食糧が尽きる前には街へ戻りたいから、休憩を挟みながら先へ進みましょう。」
「わかった。」
「了解。」
「はーい。」
かくして、4人で森を駆け抜けて…いや、3人がツルで雲梯をして1人は雌花におぶってもらって…森を突き抜けていくのであった。そうして数日が過ぎ…シュウ君の食糧もギリギリだったのだが…無事森を抜け街道に到着するのであった。
「じゃああれかしら。私達は…うーん、そうね…シュウ君。ギルドと孤児院どっち先行きたい?」
「うーん、ギルドかなぁ。」
「そう…じゃあ、ギルドに行くけど…どうします?ここで解散でも私は良いけど。」
「僕は着いていくよ。」
「お前は早くマイから離れろ。本来であれば途中で引き返す予定だったのだが…お前が付いていくのが原因で俺も付いていく羽目になっているんだ。」
「僕は無理強いなんてしてないよ。シュウが持っている荷物を代わりに運んだだけだよ。帰りたければ帰れば良いんじゃない?既にケリンさんの荷物は空でしょ。そっちの食料は尽きてるはずだし。」
「お前の屁理屈は一品級だな。本音は何だ。どうせどさくさに紛れマイをお前らの手の内にしようとしているだけだろう。」
「他人の雄花にいうことじゃないかなぁ。」
「お姉さん達?喧嘩はダメだよ!」
「………」
「………」
シュウ君が割って入ったので、二人とも無言になる。私はもう面倒臭くなってしまっていた。
「はぁ…もう勝手にしてください。シュウ君。その2人はどうでも良いから私達はギルドに行きましょう。シュウ君も疲れてるだろうから、少なくとも早めにギルドなり何なりと休める空間が必要だし。」
そう言いながら、私はシュウ君の右腕をツルで繋ぎ歩き始めてしまった。
「あ、お姉ちゃん!待って待って!!」
シュウ君は腕を引っ張られてしまったのでそのまま私の後ろに付いていく。
「なあ。」
「何だ。」
「何で僕たちより、あの雌花あの人間を優先にするんだろう。」
「それは俺も分からん。ほら、行くぞ。」
「え?」
「お前、シュウの荷物を持ったまま帰る気か?」
「あ、そうだった。」
かくして二人もシュウに続いて行くのであった。
結末は分かると思います。ただ、そこまでの流れはかなり過酷です。ご了承ください。