雄花の混乱と暴走
「どうしたんだい…あ、ああ…ここいらの氷かな。うん…大分やられちゃったんだ。えーっと、治療とか出来る?」
「え…っと、色々大丈夫ですか?」
「あ、ま、まあね。すまないが…これって抜くこと可能?」
「あ、ああ…シュウ、ちょっと手伝ってくれ。」
「ムグムグ…」
「あ、シュウ君。ごめん。」
「だ、大丈夫!ポージョン持ってくる…足りるかな…。」
私は花を命以上に大事にしている。…いや、花が命そのものだから当たり前である。シュウ君だって、何年も一緒に私と過ごしているからそのことは理解している。ケリンさんは私と同じ。ジェスさんは重症より危篤状態なのである。
「と、とりあえず抜くぞ。」
「う、うん。」
ジェスさんに刺さった氷を抜き、ポージョンで消毒兼治療していくケリンさんとシュウ君である。私は何をすれば良いのか分からず外野であった。
(暇ね…。)
しかしここでトラブルが起こった。いや、腕やら腰やら足は良い。頭に…花に刺さった氷柱である。二人の手が止まり、共に花を見た。
「ど、どうしたんだい?余り花を見てもらいたくは無いんだけど。」
二人とも顔を見合わせる。私はこの二人も良いコンビになるんじゃないかなと思いつつ…「いや、ケリンさんにシュウ君絶対あげないわ。」とどうでも良いことを考えていた。マイペースすぎる。
『誰も言わないなら俺が単刀直入に…』
『貴方が言うとトゲがありすぎますから私が…』
『お主は冷静すぎてグサッとなりそうじゃのぉ。』
植物の間でも揉めていた。全員が躊躇している。まあ、私も言いたくないが。
「え、えっとね…ジェスお姉さん。お姉さんの頭にも刺さってるから…えーっと治療したいんだけど…しゃがんで欲しい。」
シュウ君が意を切ってジェスさんに声をかけた。
「頭?」
ジェスさんは頭をさわり、花を気をつけてさわり…氷に触れた。更にその氷の根本に手を伝っていき…顔色が変わった。
「あ…そ、そんな…い、う、わけない…ちが…」
(不味い、パニクってる!)
私達は植物の魔物だが、命は花なのである。要は左胸に物が刺さっても人間換算で手に穴が空いた程度っぽいが…それでもヤバイが…花に刺さったは、人間換算で心臓に物が刺さったと同じなのである。
「ケリンさん。どうでしょう。ポージョンかければなんとかなると思いますか?」
「いや、分からん。もげたら終わりだが…これだと何とも…。」
私は考えたが…やはり放置は確実的に死だろう。
「えっと…とりあえず治療します。動かないで…」
「こ…来るな…」
「マイ!」
私が一歩前に出た瞬間、ジェスがツルを私に伸ばしてきた。
「お姉ちゃん!」
シュウ君が何故か私の前に立ちふさがり、ジェスのツルを受けることになる。ジェスのツルは腕から直接シュウ君の左腕を攻撃…縛り付けた。
「い、痛い!!!」
どうやら蛇が生き物を絞めるようなことをしているようでる。
「ジェス!貴様…雌花に向かって…」
「ケリンさん!待って!私がなんとかします!」
ケリンさんが何を考えているか大体分かる。雄花にとって、雌花は絶対に攻撃してはいけないものである。とりわけ、ジェスさんとケリンさんは血縁がない。要は、「殺しても良い」のである。対し、ジェスさんはパニックで暴れている状態。悪気はないはずである…が、このままではシュウ君の左腕が持たない。私は地面にツルを刺し、ジェスさんの体及び両手首を縛り付ける。体は固定のため、両手首はツルを制御させないためである。ジェスさんと私は同位種。どうすればツルを制御出来なくなるかぐらい知ってる。
(腕から直接出たツルなら切れるはず!)
私達が地面からツルを出す際、そのツルは変幻自在。そんな簡単に切れなくすることも可能であるが…腕についてるツル自体は引っ張る力には強いものの切る力には弱い。合計数百キロの重量でも支えれるんじゃないかと最近思っているが…とはいえ、私の歯でも噛み切れる。前世の記憶でそんなものあったか分からないが…まあ、魔物だからで済ませることにしていた。と、とにかく…ジェスさんのツルを封じ込めたので、ジェスさんとシュウ君を繋げているツルを歯で噛み切った。まあ、噛みきれなかったら石とか使ってでも強引に切ろうと思っていたが。
「ううう…」
「シュウ君?!大丈夫?」
解放された縛られた左腕を見てみると、かなり青くなっていた。
「放せ…放せ…やだ、やだ…シニタクナイ…!!!」
「ジェス!落ち着け!落ち付かんと治るもんも治らんぞ!」
「まだ…若干痛いかも…」
ケリンさんはジェスさんに叫び、シュウ君は涙目で私に問う。とりあえず、だいぶ減ってきてしまっているが…ポージョンを軽くかけて様子を見てもらう。縛られた時間は短時間。壊死はしていないだろう。左手の動き的にも折れてはいないと思う。
(どうしましょうか。)
感情論が勝つならジェスは死刑である。しかし、それはあまりにも無慈悲過ぎる。
「ケリンさん。ジェスさんの氷の棘抜くことは出来ますか?」
「…出来なくはないだろうが…この様子だと、大丈夫か?」
「顔も固定します?目隠しと口も閉ざせば無抵抗にすることが出来ます。」
「マイ…時折お前、えげつないな…。」
ケリンさんに避難されてしまったが、ケリンさんが私が言ったことを実施した。ジェスさんの視覚、聴覚、口をツルで奪い…ツルを使って、氷柱を引っこ抜く。もし私の監視が無ければ、もしかしたらこの隙にケリンさんはジェスさんを殺したかもしれない。花が完全に無防備であったのだから…それだけケリンにとってマイは雌花として重要であり、歯向かえない相手なのであった。マイはそんなこと1ミリも思っていないのではあるが。