雄花達の被害状況
「シュウ君はどうやってケリンさんやジェスさんを助けたい?私達が向かうのもあり、彼らを引っ張ってくるもあり。まあ、あっちはまだかなり寒いらしいし…連れてきた方が私は良いと思うけど…。」
「連れてくる…って…?」
「ツルで引っ張ってくる…かしら…あー、いや…待つと言う選択肢も出来たわね。」
植物達から二人が別々にこっちへ向かっているという情報が入ってきたのである。まあ、目が覚めて…ケリンさんの場合には目の前でツルの襲撃を受けた魔物を見て腰が抜けていただけと思われるが…植物からの情報を得て、こっちへ撤退してくるというイメージだろうか。
「待つ…って、お姉さん…達無事な…の?」
「植物曰く、どっちも生きているって。」
「よ…よかった…」
シュウ君は涙ぐみながらどうやら腰を抜かしてしまったかのように座り込んでしまった。まあ、一件落着なのだろうか。しかし、世の中そんな甘くない。植物達は雌花に心配をかけまいと『生きています。』と言ったのである。生きているは嘘ではない。被害情報が全部抜けていた。少し時間が経つ。シュウ君の腰が少々再起不能みたいな点と、向かっていると言う点から結局待つことに決めたのであった。
「はぁ…はぁ…お、お前らは無事か…?」
草むらが動いたかと思うと、ケリンさんが顔を出した。私とシュウ君は声がした方を向く。
「お、…お姉さん!!!だ、大丈夫?!」
ケリンさんの左胸には氷柱が生えていた。
「大丈夫…とは言えないな、ハハ。」
ケリンさんもかなり無理をしてきたのであろう。私達のそばまでくるとしゃがみ込んだ。まあ、私達の足は厳密には根っこであり、本当にしゃがんでいるのかは不明なのであるが…まあ座ったことにしておこう。
「うーん…シュウ君。シュウ君栄光達からこう言った場合どうすれば良いか学んでる?」
「わ…わかんないよ…。」
胸に矢が刺さった…ケリンさんの場合には氷柱が胸を貫通しているが…人間の対処法なんて分からない。普通死んでるだろ。
「シュウ。お前のバックの中にポージョンなかったか?」
「あ…えっと…」
休憩中に雄花が全速力で敵に向かったため、シュウ君がバックを背負っていた。バックを開け、ポージョンを出す。ケリンさんは氷柱を腕の力では抜けなかったらしく…ツルを地面から出し、強引に引っこ抜いた。
「す…すまん…それを、かけてくれ…」
「わ、わかった!」
豪快だなぁ…と私は思ったが…私は自分で自分に刺さったものを抜く勇気はない…ケリンさんも流石に胸に刺されば痛みはあるだろう。それをゴリ押しで抜いたのだからダメージはかなり大きいはずだが…シュウ君がポージョンをかけると、多少は和らいだかの表情になった。ケリンさんは左側に包帯を巻く。
「ケリンさん。大丈夫ですか?心臓に穴開いてたりしたら、ポージョンとかでは無理な気が…」
「心臓?心臓とはなんだ?」
「え?心臓ってここ!」
シュウ君は自分の左胸を指差した。まあ、厳密には心臓は左胸というか中間辺りにあるんだけど。
「マイ。やはりお前はところどころ人間と俺らを間違えているところがある。むしろ、何故逆にそこまで人間に詳しいのだ。」
「………」
私は無言になる。まさか、前世人間だったなんて言えまい。
「そうだな…俺らの体は、この木で言うところの幹だったり…植物で言うところの茎にあたる。刺されば痛みは発するが…切断とかされなければ死にはしない。まあ、俺らの体は穴が開いても花さえ無事ならそのうち埋まってしまうと言う不思議さがあるが…。まあ魔物だからな。」
どうやら私も今ひとつであるが…私の体には臓器というものが存在しないみたいである。じゃあ、食べたものはどうなるんだと突っ込みたいのだが…一回思考放棄にしよう。穴が開いた場合、流石に普通の植物は再生出来ないが…私達の場合再生するらしい。切断されたらどうなるのか…考えたくないが、腕がもげるとか…は聞きたくないので聞かないことにした。人間換算では再生不能である。だったら、再生不能と捉えていた方がちゃんと身を守れると思うし。
『姫様。もう一人の雄花がそろそろ到着しそうですが…』
植物から声がかかったが、少々困惑と言うかやるせない声であった。「うん?」と思いながら、来るであろう方向を向く。ケリンさんも植物の情報から、シュウ君は私につられて同じ方向を振り向く。
「あー、ちょっと敵が強すぎたけど…なんとかなって良かった。」
ジェスさんが一人言を呟きながらやってきた。誰が倒したんだっけ?と言う突っ込みは放棄した。いや、放棄せざるを得なかった。ジェスさんはケリンさん以上にボロボロだったのである。体には4本の氷柱が刺さっていた。人間観換算で右足…疑似スカートの右側、左腰、右腕…は、まだ良い。花のど真ん中に1本刺さっていた。私は反射でシュウ君の口を手で覆う。
「ムグムグムグ…」
私はケリンさんを見た。彼も動揺を隠せない。