雌花の実力
(マジか?!間に合え!!)
咄嗟に私は、ツルを地面に刺し…私の反対側の方から太さ10cm程のツルを魔物の口元に伸ばす。魔物はケリンさんの花…ではなく、そのツルに噛み付いた。
(チッ…痛みはないけど、噛まれた体感は頂けないわね…)
魔物は口を離し、ツルが出てきた方を向く。私は帽子を被っている。匂いは抹消されている。シュウ君の声があり相手に聞こえていたら…とは思っていたが、魔物にとってみれば声という聴覚情報よりもツルが出てきた方角という視覚情報の方が上だったようである。まあ、ある程度離れているので声が届かなかった或いは聞こえなかった可能性もあるが…まあ、そういう意味では運が良かったとなるが…隙が出来た。
「さあ、覚悟なさい!」
私はツルを一気に操る。植物の情報より相手は魔法を打つらしい。であるならば、まず狙うのは足ではなく…口である。地面から太いツルが一気に出てきて敵の口を封じ込めた。
(冷たいわね…まあ、平気でしょ。)
ケリンさんやジェスさんのツルは太くても2cmぐらいらしい。そんなものではあっという間に凍りついて粉々である。しかし、私の場合ツルの太さが10cmとか20cmとか桁が違う。ツル自体を凍らせた所で砕けるわけがない。敵は前足を使って口のツルを解こうをもがく。
「足。」
後ろ二足ががら空きである。そっちも束縛した。
「お、お姉ちゃん…寒い…」
「そ、そうね…忘れててごめんなさい。撤退するわよ。」
「う、うん…ケリンさんは?」
「一回置いていく。異論は認めない。」
「え?」
「良いから。これぐらいの寒さでケリンさんは死なないから大丈夫。敵を叩く前にシュウ君がギブアップされてしまった方が困る。」
「う…分かった。」
シュウ君の表情的に自分自身の不甲斐なさを悟ってしまったようである。私は「これは後でフォローアップしないとダメかなぁ…」と、前世の自身の鬱状態のことを考えながら、木に縛ったツルを解除し、撤退していくのであった。
「こんなものかな。」
敵の視覚からある程度離れた。敵はまだツルと遊んでいるらしい。口を封じられ、両後ろ足を束縛されているのである。ツルが切れない限り、敵は動けない。
「シュウ君。ちょっと待っててね。後でいっぱい撫でてあげるから。」
「え?」
マイのフォローアップなど散々上司からコテンパンにやられてきた身分にとって何をすれば最適なのか理解してない物の末路なのであった。私は、自身とシュウ君を縛るツルを解き放ち、シュウ君と私別々に一本の木の高いところに縛り付ける。魔物が他にもいると危険だが、どうやらここら辺はあの氷の熊が陣取っているようで他にはいなさそうである。私は地面にツルを刺し、さっき見た風景と植物の情報を連鎖させて…ケリンさんを戦地から退けた後、逆襲に図った。ぶっちゃけ、口と両方の後ろ足を縛っていることで体はかなり不安定である。両前足が口元に行っているお陰でお腹もがら空き。お腹をツルで巻き、横に倒す。更にそのままありとあらゆる場所をツルで縛っていく。敵は氷の魔物。私のツルを持ってしては凍らせて破壊はまず不可能。とはいえ、再度あっちへいく必要がある…いや、やめよう。シュウ君が凍ってしまう…。どうやって雄花を連れてくるか。…まあ、敵が近すぎるのでどんなに私が相手を殺すのが嫌だとしても…おばあちゃん木の言う『身を守るためには殺す』と言う最悪の方程式を使わざるを得ないのであった。
(謝罪するわ。雄花が貴方に仕掛けていなかったら、束縛だけで済ませていたのに…。)
予めだが、マイの束縛は「生涯一生」である。言わば、「餓死するまで」なのでマイに束縛されたら結局終わりなのではあるが…まあ、敗者に死に方は選べないだけであった。私は、敵をツルで拘束したのち…首元をへし折るレベルで縛り付けた。現地にいれば折れた音が聞こえたかもしれない。
「シュウ君。ごめんね。今回緊急だったから…あまりシュウ君の出番出せてあげられなかった。」
「…うんうん。僕…何も出来なかった…。お…お姉ちゃんの…お姉ちゃんのま…魔物使いな…に…うう…」
シュウ君はどうやらとんでもなく大きい魔物に対峙してしまって、その恐怖からなのか…本当に何も出来なかった、と思い込んでいるのか…責任感からなのか…泣き出してしまった。私は仕方なしに、木から降りてシュウ君も木から降ろす。シュウ君は良くも悪くも体をツルに任せてくれたので簡単に降ろせた。私は泣いているシュウ君に抱きついて頭を撫でてあげる。私のルールで「抱きつく」と「撫でる」はシュウ君が辛かった時に必ず実施すると言うものがある。信頼している、よく頑張った…色々口でも言えるが、私は口下手である。だから、そんな中途半端ではなく態度で示すことにしていた。
「シュウ君のお陰でケリンさん救えたんだし、大丈夫大丈夫。あ、じゃあここからはシュウ君にお願いしようかな。」
「…え?」
敵は排除した。ここいらに魔物はいない。私の他、ケリンさんとジェスさんを除き。