雌花の警告
『姫様!お急ぎください!既に戦闘は始まっているようです。しかも、どちらも既に魔物の視野範囲内にいるとのこと。』
「馬鹿なの?!」
時は少し遡る。私がシュウ君を連れて、現場に向かいながらの報告を聞き叫んでいた。本来であればあの休憩地点からでも余裕を持って対処出来たであろう魔物である。しかし、雄花が突っ込んでいってしまったのが原因でそれが困難になってしまっていた。理由は簡単。私の超遠距離攻撃は勿論木の上に登り視野は稼ぐとしても…殆ど植物からの伝言頼りで攻撃しているからである。言わば、伝言情報からの無差別攻撃。仮にターゲットの側にいる生き物が弊害を受けても「運が悪かったね、ごめん。」で片付けていたのが私である。逆に言えば、仲間がそっちに行っている時にそんなことは出来ない。要は私にとって雄花2匹は足手纏い以外の何者でもなかったのである。まあ、どっちも私を守るために突き進んでくれたので…私が手を出す前に敵を処理してくれれば問題無かったのではあるが、植物の情報的に最悪な事態になっていることは明らかであった。
「お姉ちゃん?どうしたの?」
「…いい、シュウ君。二つ警告。」
「うん?」
「まず、戦闘現場直行しているけど…何があっても…そうね、ケリンさんやジェスさんの首が吹っ飛んでいても…冷静さを失わないこと。後は、そもそも論今回の敵については本来現場での戦いではなく、遠距離からの襲撃が基本よ。今日は例外中の例外で超ハイリスクだから普段は絶対敵の方へ向かえなんて言う命令は出さないでね。」
「え…う…うーん…」
「と、とにかく…何があっても冷静でいること。無理そうなら置いて…はいけないわね。こんな森の中じゃ…ごめんね。雄花事情に巻き添えにさせちゃって。」
「うんうん。僕だって戦うもん!」
「…分かったわ。」
ケリンさんじゃないが、口先だけでは困るのだが…とは言え、テイマーである以上、私が戦うと言うことは必然的にシュウ君も戦うことになる。ただ、今回植物の話を聞く限りでも面倒臭い魔物である。シュウ君に判断を仰いでいたらこっちが殺される。今回は実戦の見学にしておいてもらおう。いや…こんな状況本来見ている段階で大ピンチなのであるが…。敵の視野に入る前に処理するのが私流。それを逸脱するものは全部ハイリスクなのである。
『姫様。この先すぐ側です。敵が、範囲氷魔法を撃っているとのことです。収まった時に向かうのが宜しいかと。』
『ここからでも姫様なら対応出来るんじゃねえか?これ以上近づいたら危険だろ。花の匂いもあるし。』
「それが出来たら良いんだけどね…。仲間がいる以上…後、匂いはこの帽子で誤魔化すから平気。」
『仲間?雄花2匹だけだろ。他の魔物と共に殺してしまえ。あ、あれだ。故意的じゃなく偶々当たったら仕方なしって言う意味だからな。』
『姫様。その植物の言い方はキツすぎますが…姫様のお命が第一です。雄花2つより姫様の雌花の方が何百倍…何万倍と言う価値があります。そのことはお忘れなく。』
「………」
私はシュウ君の従魔である。まあ、私が唯の雌花なら雄花を犠牲にしそれを選ぶのかもしれない。しかし、元前世人間の私とシュウ君はそれが許せなかった。
「いい?シュウ君。敵の死角から攻撃するよ。今日は実戦見学で。見ているだけで良いから、その代わり同じことがあったら…あってもらっちゃ困るんだけど…今日の戦闘経験を吟味して私に指示をよろしくね。」
「う、うん。」
私は、植物に指示を出し…反対意見は無視で…敵の背後かつ、乗れそうな木を教えてもらった。と言うより、敵が氷魔法を放ちすぎているのが原因で、木々が凍ってたり倒れていたりと惨状らしい。枝に乗るより、体を木々に縛るしか方法はないか。
「お、お姉ちゃん…急に寒く…」
「シュウ君。我慢出来そう?」
「う、うーん…」
「じゃあ、1分だけ我慢。…大丈夫そう?」
「う、うん!」
頭の中で戦略を立てる。まあ、たかが5m級の魔物。植物の情報を聞く限り、似たような魔物は聞いたことも倒したこともある。見たことはないが…いけるはずである。と言うよりいけなければ困る。全滅である。とか言っているうちに、敵を視野に入れた。戦場を軽く見る。ジェスさんは見えないが、戦闘不能で既に地面に突っ伏しているとのこと。魔物の側にはいないから巻き添えはなさそうである。
「お、お姉ちゃん!あれ!ケリンさん?!助けて!!」
魔物の死角とはいえ、ある程度高い所で木がまだ立っているところに行き…今回は私とシュウ君をバラバラにしている余裕もないので…同時に木に縛り付けているとシュウ君が叫んだ。手を刺した先には…ケリンさんが食い殺されそうになっている。