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祖母の秘密

「もう降りても大丈夫かな。」

『姫様。駄目です。まだあの魔物は生きております。何かしらの拍子にツルが解けて仕舞えばまた危険な状況に晒されてしまいます。』

「でもあの魔物もう降参してるみたいだし。助けてあげても…」

『いや姫様。殺してしまえ。世の中そんな慈悲は何も役に立たねえ。今度は群れを引き連れてやってくるだけだぞ。』

「う…」

『姫様。何故その魔物が貴女様を襲ったかお分かりになりますか?』

「私の花でしょ?」

『そうではございますが、その狼は姫様の妹を襲った仲間の一匹です。恐らく味をしめてきたのでしょう。姫様のおばあさまからの遺言でも後ほどお話ししますが、大抵の仲間はおばあさまが退治されたそうですが残党かと思われます。』


 そう言えば遺言の話もあった気がする。しかし、それ以前にこいつが私の妹に直接か間接かは知らないが手をかけたということが憎しみを生じさせた。


「おばあちゃん。身を守るためなら殺しても良いんだよね。これは恨みで殺していないということで良いんだよね。」


 逆恨みで殺して良いなら人間社会は成り立たない。ただ、自己防衛なら…生まれてから100年は経っているが、生前の人間の頃の私が殺すことに躊躇いを生じさせている。


『お前さんのおばあさんはもういねえから、俺から代わりに答えてやる。身を守るためなら殺して大丈夫だ。世の中弱肉強食だ。その魔物だってそれは知っている。やったところで誰も文句は言わねえさ。』


 人間の記憶でも蚊や蜂等は駆除対象で殺している。直接的ではないが、食べるために犠牲になった生き物も多数。人間社会でも人間を殺さなければ問題ない。私は自分に暗示をかけるように深呼吸した。


「わかった。じゃあやるよ。」


 弱った狼の首にかけていたツルを強く縛り始める。狼は暴れもがき…動かなくなった。私のツルは切られても痛みは感じない。ただ、感覚が全くないわけでもない。相手の生き物の首を絞めて殺す。生前の人間時代ですらやったことないことを今体感していた。


「………降りても大丈夫?」

『もう少々お待ちください。今、死んでいるかどうが確認をしております。』


 草原の雑草達がどのように確認しているかはわからないが、確認しているとのこと。少しして降りて良い許可を取ったのでおばあちゃんの木から降りた。魔物に頭突かれた幹はかなり痛んでいる。多分治る事はないだろう。おばあちゃんは既に死んでしまっているのだから。寧ろそこを境に木が倒木するかもしれない。死んだ魔物の方にも行ったが、確かに毛が生えていてもふれそうな感じがしたが、野うさぎと違って触ろうとすら思わなかった。


『姫様。大丈夫でしょうか?』

「…うん。」

『姫様。おばあさまの遺言の件ですが、いかがいたしましょうか?お疲れのようでしたら明日でも大丈夫だと思いますが、この状況ですので急いだ方が宜しいかと。』

「急ぎ?」

『はい。この草原に魔物が侵入しているのです。この草原はもう安全ではございません。』

「え?どういうこと?それよりどうしてこの安全地帯に魔物が来たの?」

『お嬢ちゃん。この森に安全地帯なんてないんだぜ。お嬢ちゃんのおばあさんがここを安全地帯にしていただけだ。正確にはお嬢ちゃんにとって…だが。』

「???」


 遺言の内容の一つ目であったが、ここの草原が安全だった理由は草原からちょっと外に出た木々のところでおばあちゃんが近寄ってきた魔物を全て殲滅していたらしい。おばあちゃんは私のようにツルを使う事はできなかったみたいだけど、代わりに自由自在に動かすことができる太い木の根っこが無数存在していたとのこと。魔物が近づいた時は気づいた植物達がおばあちゃんに伝えて、木の根っこでほぼ百発百中捕らえていたらしい。からぶっても既におばあちゃんの根の射程範囲内。追い打ちをかけて捕獲していたとのこと。


「捕まえた魔物はどうしてたの?」

『別の遺言に絡んできますが、そのまま地面に締め上げて根っこからその魔物を吸収したいたとのことです。』


 一つわからなかったことが判明した。おばあちゃんの木に葉っぱが一つとしてなかったこと。光合成出来るわけが無い状態でどうやって生きていたか。他の魔物を根っこから捕まえ根っこから捕食していたのである。おばあちゃんは私に植物の魔物の生き方として色々教えてくれたが、当方人は凶悪な肉食の魔物だったのであった。私の顔が青ざめたのが分かったのか、他の植物が補足してくれた。


『姫様のおばあさまも苦労なされていたみたいです。もし、この草原に魔物が入ってしまったら魔物は間違えなく姫様に向けて一直線だったでしょう。その場合、おばあさまのスピードでは追いつきませんし姫様自身を傷つけかねません。ですので私達植物に四六時中交代で監視させ万一があった場合は魔物が姫様のことを気づく前にすぐ駆除を実施しておりました。』


 おばあちゃんも娘のために必死だった。それが伝わった時、若干私は涙してしまった。おばあちゃんがたまに無言になる時はもしかしたら魔物と戦っている最中だったのかもしれない。


『とはいえ、既に姫様のおばあさまはお亡くなりになっております。魔物も馬鹿ではございません。ここの側に近寄ると襲われると学べば自ずとこちらには来なくなります。しかし、既に1ヶ月は経っておりますし…既に魔物の侵入を許している以上、他の魔物もどんどんやってくることでしょう。姫様がここで余生を過ごすのであれば、今までおばあさまが実施していた…いわゆる魔物フィルターというものとでもいうのでしょうか?…を実施しないといけません。本日のようにある程度近くまで狙われてからでは危険です。』


 言わば、今までおばあちゃんがやっていた魔物駆除を私がやらなければいけないのである。そうしないと、私が死ぬ。襲われる前に襲うということである。そう言えば、私が生まれた直後はウサギとか私に害がない小動物しかいなかったがある程度経過すると害が全く無いとは言えないとはいえ鹿とかの中型動物も来るようになっている。もしかしたらおばあちゃんは私の成長に合わせて環境を変化させていたのかもしれない。妹達が出来た時、若干鹿が減ったような気がしたが私と妹共に最適になるように調整していた可能性もある。おばあちゃんは私の想像を遥かに超えておばあちゃんをしていたのだった。

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