雄花達の意地
『姫様。大きめの魔物が姫様方に気づいたようです。』
「あー、マジか…」
移動を始め、翌日のお昼頃…私達は光合成をしている。まあ、人間換算で休憩である。シュウ君も昼食を食べていた。
「魔物か…。いつも思うが、ここら辺は強めの魔物が多いな。」
「デレナール領近傍はハンターが魔物を駆除しますし、ケリンさんの住処は雄花が奇襲をしているのでしょう?その中間地点に魔物が集まるのは必然では?」
『姫様。そう呑気に話している場合ではありません。早急に対処を!』
魔物も馬鹿ではない。私達でさえ、人間は危険だと本能に刻み込まれているのである。その為、例え相手が貧弱な人間だとしても人間が通る街道近傍に魔物は滅多に姿を出さない。まあ、0ではないが…食べ物が足りないとか、美味そうな匂いと荷馬車があったりとか…そのような事件は頻繁ではない。であれば、街道など意味をなさないのだから…。万一、起きたとしても…その後、討伐依頼がハンターギルドで発生してハンターが儲かるだけである。しかし、私達は植物の魔物。花には多大な養分が含まれている。匂いも魔物からすると美味しい匂いであるとのこと。私は普段帽子を被って匂いを消しているとはいえ、光合成する時には帽子は邪魔なので取ってしまう。今に至っては誰も見ていないので…シュウ君は対象外…服すら脱ぎ、葉っぱで作られたブラジャー擬きからも光合成している。服を脱ぐ云々はどうでも良いとして、3人前の花があれば魔物は間違えなく襲ってくるのである。今回は森の中にいるが、仮に街道にいたとしても同じであった。
「まあ、いつも通り私が…」
「待ってくれ!」
ジェスが私を止めに入った。
「僕にやらせてくれ。」
「え?」
「な?」
「往路ではマイが強い魔物を討伐してくれたけど…雌花に頼ってばっかりじゃ、僕はいつまで経っても雌花に振り向いて貰えない。だから、ここで倒して強さを証明する。」
「おい!強さを示すにしろ、敵はかなり大物と植物達は言っていたぞ?!」
「じゃあケリンはここで待ってればいいさ。僕が倒してマイを振り向かせる!」
ジェスさんはそう言うと敵の方へ向かっていった。まあ、突っ込むのは馬鹿なので木々に登って狙いを定めているのだろうとは思うが…。
「く…、マイ。見ておけ、俺の強さをな!」
更に、挑発されたケリンさんも敵の方に向かっていってしまった。イメージ的にケリンさんは比較的冷静のはずなのだが…雌花を取られる可能性が発生した以上、危険を覚悟で敵に挑むようである。
「お姉ちゃん。二人とも行っちゃったよ?どうしたの?」
「うーん、人間で言うところの男のプライドか…動物換算でメスの奪い合いか…。」
「プライド?奪い合い?」
「シュウ君にはまだ早いわね。好きな子が出来たら考えなさい。」
「好きな子?うーん、お姉ちゃん!」
「………」
「子」と言っているのに、魔物の私を指定する…しかも、お姉ちゃんという「姉」を指定するのはどうなのか?と色々突っ込みたかったのであるが放棄することにした。あれ、私は魔物である。人間とは考えが違うのかも知れない。
「にしても大丈夫かしら…。」
「お姉ちゃん。どうしたの?」
「とりあえず…私達を襲いに来た魔物がいるみたいなんだけど…、あの雄花二人が退治しに行ったんだけど…直感実力不足だと思うのよねぇ…。とはいって流れ的に私は手を出しちゃいけないみたいだし…。」
「実力不足?」
「私の直感だから違うかもだけど…簡単に言えば、このままだと二人とも死ぬ可能性があるわ。ただ、私は手を出してはいけないらしい。多分。」
「え?!お姉ちゃん!助けなきゃダメ!」
「………」
テイマーであるシュウ君の命令は絶対である。まあ、明らかにシュウ君の指示で私が死ぬ可能性がある場合とかは抵抗するが…。今回は抵抗する基準を満たしていない。私は服や帽子を着る。
「いい、シュウ君。事情を説明するわ。後は私は貴方の指示に従う。」
「うん!お姉ちゃん。お願い!」
かくして、簡潔に事情を説明し…シュウ君の命令の元、戦場へ向かうことになる。しかし、私はここでシュウ君に説明等チンタラかんたら時間を消費していることを念頭に置いていなかった。雌花であるが故、雄花の考えなどよく分からない。ぶっちゃけ、シュウ君の考えの方が良く分かる。私のその偏見が結果として大事件を引き起こすことになってしまった。