人間に甘い花達
「は、はぁ…なんか疲れた…。」
シュウ君が小言で呟いていた。まあ、10歳の子供が長時間森を歩き…本来は貴族が考えるような内容をシュウ君が対応したのである。疲れない方がおかしい。私はシュウ君の頭を撫でてあげた。
「シュウ君は頑張ったよ。うん。お疲れ様。たまには私の花の蜜あげようか?」
「え?本当?!」
「おい、マイ。俺らの花の蜜をそんな安上がりでそいつに渡すな。そんなことするから俺らが襲われるんだぞ?」
「そんなことじゃ無いですよ。と言うより私だって花の蜜垂らすの嫌なんですからシュウ君に滅多に渡したりはしません。ただ、今回の労働はシュウ君のキャパオーバーです。報酬なしじゃ可哀想ですよ。ケリンさんシュウ君の負荷理解してます?」
「生憎だが雌花の面倒は見るが、人間の面倒を見る気はないからな。」
私はため息をつきながら、いつ花の蜜を渡すか考えていた。多分誰かの目線があるところではダメだろう。とりわけケリンさんの前では。と言うより私自身が恥ずかしい。人前で花の蜜を垂らすや溢すは人間換算で人前で急所を出して放尿しているのと同じである。溢れるの場合は制御出来てないから「おむらし」が正しいか?まあどちらにしろ…今度また私の拠点にシュウ君をお持ち帰りしようかなぁと考えている私であった。シュウはこんな魔物を従魔にして本当に良いのだろうか…。
「さてと…カリンには食堂にいるよう連絡してある。食堂に行くぞ。」
食堂に行くと、カリン、シュバレルさん、ジェスさんが座って待っていた。
「あ、お兄ちゃん。どうだって?」
「まあ…極論を言えばシュウ次第だな。」
「へぇ…彼ねぇ…よろしく。」
「え、あ、うん…。」
急に振られてしまいシュウ君は動揺しているようである。まあしょうがない。
「お前ら飯食ったのか?一応バックは持っていったようだが。」
シュバレルさんが言ってきた。
「いや、区切りが悪かったからな。まだだ。お前らは既に食ってるんだろう…ら、と言うよりお前だけか。シュウも適当に選んで食っておけ。」
「う、うん。」
シュウ君はなすがままに食堂で注文し食事を始めた。
「じゃあ、私達はシュウ君が食べ終わったら帰りますね?」
「うむ。おじいさまが言ったことがある。お前も例外じゃない。俺らの仲間がいるところを通るとシュウが危険だ。街道も人間がいるとなると危険だろう。お前らの行き同様、途中まで送っていこうか?」
「あ…そうですね。食料もありますし…そうしてもらおうかな。」
「ちょっと待って。だったら僕が行くよ。それにお前はここの雄花なんだろう?僕は違うから送ったあと暫くこの子の側にいれるしそっちの方が楽じゃないかな。」
「言ってるだろう。お前にマイは渡さん。であるならば尚更お前を追っ払うまでついていく。」
「何を?!」
20歳ぐらいの女性と18歳ぐらいの少女が喧嘩を始めた。私はもう面倒くさいので放置である。ただこの雰囲気だと私にまとわりつく雄花が増えそうで厄介だなぁしか思っていなかった。本音言って雄花事情なんてどうでも良い。自由に生きさせてくれ、である。
「あー、俺も一緒に行きたいんだが…デレナール領へ向かうんだろう?」
シュバレルさんが声をかけてきた。
「無理だな。お前は成人男性だ。シュウは子供だから俺ら…と言うよりマイが背負って移動するが、お前は徒歩だろう?」
「背負うって?シュウ何処か足を痛めたのか?」
「森の中を移動するのだ。一々歩いたりはせん。人間の歩く速度では遅すぎる。」
「お兄さん、ちょっと一緒に来て?僕らの移動方法見せてあげる。」
カリンがシュバレルさんに声をかけ外へ出ていった。ケリンは「何故人間にそこまで教えに行くのだ。」とか文句を言っていたが…戻って来たときシュバレルさんは嬉しそうな顔をしていた。
「ほうほう…おんぶって…?」
シュバレルさんが何故か私を見ながら言ってきた。
「おんぶはおんぶですよ。シュバレルさんの身長的にケリンさん…よりも高いから無理なのではないですか?」
「想像的にシュウを背負うイメージなのだが…背負ってあの雲梯では落ちたりしないのか?」
「あー、だったら後で見せますよ。」
「はぁ。マイ。お前も人間に甘いなぁ…。」
ケリンさんに愚痴られてしまったがしょうがないものとした。シュウ君が昼食を食べ終わった後、カリンを除き街道を進んでいく。カリンは街道の先まで私達を見送ってしまうと1人で帰ることになり途中雄花からの監視が消えてしまうので村で別れることにケリンはした。トンネルを抜け…ある程度進んだ辺りでケリンさんが声をかける。
「ここから先は雄花の拠点範囲外だ。俺らはここから森を抜ける。街道は人が通るから最近の人間の行動を吟味し通らん。」
「分かった。俺は君達が森の奥に抜けたら1人でデレナール領に向かうよ。向こうであったらまた声かけて欲しい。」
「私達はそんな暇じゃないので…まあ、向こうのハンターギルドにでも聞いてください。」
ここで安請負いしてしまうと、私の性格上声を「かけにいかなければいかなくなる」。その為うやむやにしようとしていた。ここら辺は私の悪い癖であり…本来であれば「ヤダ」と言えれば良いのであるが…それが出来ず面倒臭い人間関係を残してしまうことになってしまうのであった。そのような反省会はさておき、シュバレルさんを街道に残して私含めた魔物3匹とシュウ君1人で森をかけていく。駆けるというより雲梯で進んでいくのであるが…。シュウ君に至っては私におぶって貰っているため何もしていない。まあ、従魔としてテイマーを助けるのは当たり前ではあるのだが…主従関係と言うより長年の経験と信頼から私自身が好き勝手にシュウ君をおぶって連れて行っているだけのため私自身にそこまでストレスはなかった。まあ、年を重ねるごとにシュウ君が重くなっていくと言う課題はあるのであるが…。オマケだが、私がシュウ君を自分自身へ固定しているときシュバレルがジーと見て質問して来たので答えれるものは答えたが…無理なものは答えないことにしていた。この様子ではデレナール領で鉢合わせした瞬間、カリン同様質問攻めに遭いそうである。ギルドに予防線を貼って置いて貰おうかと考えながら移動するのであった。