人間と亜人間の「花」による共存問題
「で、ケリンさん。おじいさまをも巻き込む話ってなんですか?」
「あ、ああ…まあ、昨日見たと思うが…俺らを狙った人間が増えてきたみたいでな。いや、この開拓が原因と言うより数年前人間らにたまたま俺らの住みかがばれてしまったと言う方が原因だ。開拓中にも揉め事は起きてる。」
『植物の話ではお主も誘拐されそうになったと聞いておる。こちらの場合は誘拐されてしまった…とか、抵抗して殺されたとか…そう言う話まで出てきてしまっておってのぉ。誘拐されてしまうと遠すぎるし、人間の拠点じゃから誰も助けにいけなくてのぉ。酷い目に遭っていると言う話も聞いておる。』
「マイ。お前も花を触られるのは嫌だろう?場所によっては俺らの蜜を強引に採取しようとして互いに半殺しになるという事件も起きている。人間が死のうが知ったことではないが…俺らの仲間がその被害者だとな…。」
「だから人間なんて糞以下なんだ!その人間もここで死んで償え!」
うーん、話を聞く限り…物珍しさからの襲撃と見て取れる。とりわけ花の蜜を狙っている人間も出てきてしまってるのか…。デレナール領でもあーだこーだいう受付嬢がいるが…実力行使に出ているわけではない。対等として接してくれてる。しかし場所によっては違うらしい。
「うーん…。」
シュウ君はおじいさん木の声は聞こえないが…何かしらで憎まれていると言うことは残りの雄花から悟ってしまったらしい。
「まずはシュウ君。シュウ君は何も悪くないから。そこだけは心に止めておいて。」
「だ、だけど…お姉ちゃんお花大事にしてて…お姉ちゃんの仲間がお花の蜜狙われてるのが…」
「別に人間だからーじゃなくって、花はどいつもこいつも狙ってくるからね。むしろそれを守ろうとしてくれるシュウ君は私達にとっては仲間よ。」
「嘘だ!そいつだってお前の花の蜜狙ってるんだろう!」
「例えそうでも強奪と依頼は違うわ。と言うよりそこいらのゴミ人間とシュウ君を同じにしないでくれる?こっちが不愉快。」
「ゴミ人間?お前人間に肩入れしてるんじゃ…」
「うん?私だって人間は危険って学んで生きてきたし…今でも考え変わっていないけど。じゃなかったら、逆にシュウ君の側にいないわよ。」
「は?」
この少女…まあ雄花だが…は、困惑した表情になっていた。
「マイ曰く、人間の中で生きるにはそれなりのルールと言うものがあるとのことだ。それは俺も分からん。だが、…俺らがどんなに人間が危険だと思って、マイが同じように考えても対処法が違うと言うだけだ。これに至っては雌花雄花関係ないな。とにかくだ、マイの生き方に俺らがあれこれいう資格はない。そこだけは理解しておけ。」
「すいませんが、だったら私を監視するの止めていただけませんか?」
「それは無理だ。」
『マイよ。お主もいい加減、自分が雌花と言うことを自覚するんじゃ。人間に対し時には殺すこともせよ。お主は厳しそうに振る舞って実際は甘すぎるところがあるのぉ。』
私はおじいさん木から目をそらしシュウ君を見た。私は元々は前世人間。どんなに相手が極悪でも人間を殺すことが出来ない。魔物でさえ、束縛はするがよっぽど命が関わっていなければトドメはさせない。そこを指摘され私は反論出来ず無言になってしまった。
『まあ、本題はそっちではないの。ケリン、お主に進行役は任せるぞい。そこの少年はわしの声聞こえんようじゃしの。』
「そうだな…。で、本題だが…マイ。お前は人間と暮らしている。俺らの仲間を襲う連中についてなんとか出来ないか?」
「無茶振りにも程がありますよ…。私は国王とか魔王じゃないんですよ?と言うより、王でもそんな事出来ないですよ。ルールを作っても破る人間は絶対にいます。」
「雌花だったらなんでも出来るんじゃないの?」
「あのね…私貴方より年下なのよ?力ずくで人間皆殺しにしろって言ってるの?」
「そうすれば解決じゃない?」
「じゃあ貴方が一人で勝手にやってください。一応言っておくけど…全員殺す前に間違えなく貴方が殺されるからね。」
「じゃあさ、お兄ちゃんとか総出とかどう?」
『いい加減にするのじゃ。わしらは人間に恐怖を抱いている。それは皆んな同じじゃ。じゃからって、その方法はわしらが全滅するだけじゃ。お主はまだ数百年しか生きておらぬから分からぬかもしれぬが…人間は「この種族は危険」と判断すると、その種族を絶滅させようとさえしてくることもある。実際魔物の中で絶滅した種もある。わしらは過去の出来事から学ぶことも必要なのじゃぞ?』
私達のアルビトラウネと言う種は時折人間っぽいなぁ…と考えさせられる私であった。前世、人間と同じ様な全く異なる種族が世の中に存在した場合どうなったのだろう。いや、大昔はホモ・サピエンスとネアンデルタール人が共生している時期があったはずである。今はホモ・サピエンスしかいないが…。同じ様な考えを持つ別の生き物は存在出来ないようになっているのだろうか?となると、この世界は現状不安定なのではないのであろうか。いや、今までは私達は人間と縁が全く無かった。しかし、私やデレナール領民が原因で安定だったのが不安定になったと言うことなのだろうか。
仮に、外に出ると会話出来る植物がいたとします。その植物はとても美味しい花の蜜を作っています。相手は植物なので何をしても問題ありません。さて、その蜜を欲しいと思った貴方…何をしますか?長時間をかけてでも「交渉」しますか?それとも最短ルートで「強奪」しますか?それとも、手取り八丁説明して相手を「脅し」ますか?或いは、感情に訴えて貰えない私を「非難」して渡して貰いますか?
私は確信を持って言えますが、本当に「交渉」出来る人は一握りもいないと思います。社会に出ると大体が「圧をかける」「口回しで相手を不安にさせる」「自虐して相手に心配させる」で相手を操ろうとして来るのですから。。。