名も無き村の経緯
「ここが村だよ。まだ名前は決まっていないんだって。」
「おおー!」
シュウ君の目がキラキラ輝いていた。比喩ではあるが。まあ、いつもの街の風景を見飽きていたのであろう。森を開拓して村となっているため、周りは全部木々。自然の中に人が暮らしている。私としてはまさに新鮮であった。
「空気も美味しいですね。土は…開拓した直後の割には悪くないですか?」
「それはそうだろう。ここいら一帯も本来は俺らの仲間の住みかだ。土の養分など当に吸い付くされている。」
うーん、やはりこう考えると雄花の食料問題も根が深そうである。とはいえ、そんなところに私やシュウ君が関与できるわけがない。考えるとかえって頭が痛くなるし、考えないことにした。補足ではあるが、木々は問題なく生えている。雑草とかは少ない。私達は動けるがゆえ、地中深くの養分を吸い取ることが出来ない。その為、周りの植物も根が深い植物のみが生き残れるという感じとなっている。
「とりあえずカリン。マイに開拓について説明してくれ。シュウも一緒に行くと良いだろう。俺はあまり人間と関わりたくないから一回席をはずさせて貰う。他は好きにしろ。」
ケリンさんはそのまま森の奥の方へ行ってしまった。
「じゃあここからは僕が案内するよ。うーん、ジェスさんに説明して良いのかなぁ。まあ、村だけなら良いのかな。」
と言うことで村について所謂観光案内をしてもらった。個人的に私やシュウ君へするよりデレナール伯爵連中にした方が良いんじゃないかと思ったが…まあ、彼らにしてみれば最優先は私なのだろう。
(うーん、後で貴族達に報告しておこうかしら。まあ、見た限り人間と魔物でトラブルは起きていなさそうだし…おそらくこっちより本題はさっきの盗賊なのかしらねぇ。)
村に貼ってあるアルビトラウネの説明書き文も…若干違いそうな部分もありそうだが…まあ、大きく間違ってることもないだろう。
(今日はここで泊まっていけだったかしら。まあ、森のど真ん中ということもあるし…予算的には大丈夫かしらね。)
使いすぎはシュウ君の学費問題へ直結する。今もシュウ君は採取依頼を受けてはいるが…大きな収入にはなっていない。生きていくギリギリである。いや、費用面ではギリギリアウト…普通に破産してないか?であった。
「まあざっくりとした村の説明は以上かなぁ。何かあったりする?」
「特にないかなぁ…。シュウ君は?」
「うーん、皆んなここに住んでるの?」
「そうみたいだよ。たまに貿易ということで2領の人達が来たり、興味本位で来る人もいるみたいだけど。」
カリンはシュバレルを見ながら言った。
「じゃあ僕から。カリン以外でここに関わっているアルビトラウネは結局いるのかい?さっきのケリンという魔物もここを避けているみたいだったし、ジェスはここの魔物じゃないんだよね。」
「ああ、違うね。僕の住処付近に人間なんていないよ。よくこんな所に人が村を作ったのか疑問に思うレベルさ。軽い気分で全員殺されるかもしれないのに。」
「うーん、誰も来ないんじゃないかなぁ…ケリンお兄ちゃんなら知ってるかもだけど…僕もまだ植物と会話出来ないから分からないし。村の経緯についてはマイお姉ちゃんに聞いた方が良いかも。」
「そうなのか?」
「うーん、なんて言えば良いかなぁ…。あれよあれ。デレナール領のバカ連中が命よりも街の運営を優先した結果と言うやつね。勝手に全面戦争起こさして共倒れでも良かったんだけど…そうすると、私やシュウ君の命が危ないと思ったからここに村を作るという案が出た訳。詳しく話そうとすると日が暮れるから暇な時にでも話すわ。」
シュバレルにしてみればチンプンカンプンであったが…どうやら意図的には自己防衛っぽいらしい。今は見た限り平和だが、昔は殺し合いでも起きていたのだろうか?まあ、実際起きていたのであったが…。
「他大丈夫そう?まあ、宿と食堂だけ分かっていればとりあえずは平気だと思う。特になかったらお兄ちゃん呼ぶね。説明が終わったらお兄ちゃん呼ぶ様に言われてるから。」
カリンはあらゆる植物と会話出来ないらしいが…まあ植物がカリンの声さえ聞けばケリンさんへ声を届けてくれるだろう。カリンが村の反対側出口…デレナール領と逆側の出口…へ向かうとそこにケリンさんがいた。
「カリン。お疲れ様だな。そうだな…ここから先へ進んでも道があるだけだし…看板もあるが…そこら辺の案内は時間があったらぐらいで良いだろう。うーむ、逆か?時間も大分遅いし…残り時間で案内して今日はシュウ達は村で休んだ方が良いか。」
「了解です。それでお願いします。」
私としても出来ればシュウ君を今日は休ませてあげたい。今日は色々ありすぎたと思う。と言うことで、行ける範囲で道を進み…ある程度暗くなってきたら村に戻り宿を取ることにした。カリンとケリンさんはまた明日来るとのことなので森の中に帰っていく。シュバレルさんは一人で宿を取った。私とシュウ君は…まあ従魔ということで二人で一部屋を取ることが出来た。値段も1人分。安上がりである。
(うん、従魔だからしょうがないね。同居じゃないからね。)
時折マイの思考には心配になるがしょうがない。ただ、私のとって寝床に植物がないのは不安だったりするのであるが…今日は一泊だけだし、後日また検討することになるので今日は保留である。
(寝てるとき奇襲されると植物がいないと不安なのよね…。)
なお、ジェスは…魔物なので宿で休むことが出来ない。更に森はジェスにとって敵の雄花しか存在しない。森に入ったら殺し合いになってしまうらしい。申し訳ないが、村の端っこの方で休んだ様である。敵地ど真ん中というのはこういうことなのであった。そして翌朝、再合流する。そしてケリンさんが私達…主に私に問い合わせる。