雌花の花
「お姉ちゃん。助け終わったよ。」
シュウ君から私へ声がかかった。私が振り向くとシュウ君以外に30歳ぐらいの男性が立っていた。私は植物に色々聞き、他に襲撃してきそうな奴がいないか警戒している。盗賊3人と言うことは仲間がいてもおかしくはないし…ここら辺はケリンさんのおじいさまの拠点近くとはいえ、魔物も0ではないのである。まあ、街道にするぐらいだし…ハンター達が駆除に当たっているとは思うが…。或いは、ケリンさん達が食い物として食べているか…。
「お疲れ様。こっちも異常なしね。」
私が後ろ指を刺した方向には盗賊3人が拘束されていた。全員意識はある様だが…抵抗不可能かつ喋ることも出来ない状況になっていた。
「君は魔物か?」
男性は私の左手首にある従魔の印でもあるリストバンドのようなものを見ながら言った。
「魔物ですね…まあ、見て分かる通りその子の従魔です。その子や私に手を出さないならアイツらみたいな目には遭わないのでご安心してください。」
私はクズどもをクズ以下の目線で見ながら言った。
「そうなのか。いや、横にいる女性っぽい子はさっき話していたカリンに似ているからすぐ分かったんだが…君は帽子やら服やら着ていて人間に擬態でもしているのかい?」
「あー、デレナール領にいる領主の夫人がですね…あそこに来るならこう言う格好をしろと煩いんですよ。一回首の骨折りたいんですが…貴族の妻に手を出すわけにもいかないですしねぇ。で、今日も村に行くとかなんとかなので人間に関わるからこんな格好なのです。」
「デレナール領か…と言うことは君がそこに住んでいるアルビトラウネの雌花なのか?」
「アルビトラウネ?」
「マイ。人間どもが俺らの種族とかなんとかで付けた種族名だ。俺らの住む地域に入らないように看板を作る際、魔物の種族名を定義しないといけないとかどうとかがあったらしくてだな。」
ケリンが話に割り込んできた。カリンをお姫様抱っこしている。私の横にカリンを置いた。
「ふむ。俺はもう腐葉土を信用していないからな。マイがそこで光合成しているならそこに腐葉土もあると言うことだろう。」
「私の休憩スポットを奪わないでくれませんか?」
「移動しろと言ってはいない。それにカリンの様子も見てくれ。頼む。」
私は魔物の子供を見た。養分を吸いやすいように木に寄りかかるようにして足元が地面についているように調整したらしい。まあ、傷だらけであった。矢が刺さっていたであろう腕は包帯で治療されている。
「はぁ…まあ私は雌花とは言えそれを乱用する気もないですし…あ、そう言えば帽子取ってなかった。なんか回復が微妙だなぁと思ったのはこれか。服は…人間がいるから止めるかぁ。」
私は帽子を取り、再度光合成をし始める。
「人間がいるから?君、そこの子供の前だったら気にせず脱いでなかった?」
ジェスが問う。森での移動中、休憩時で光合成する時には私は帽子だけではなく服も脱いでいた。
「シュウ君はいいの。例外。シュウ君私の裸見飽きてるでしょ。」
「え?」
シュウ君はいきなり振られて困惑した表情になっていた。
「お、おおー。た、確かに花の形が違う!」
30ぐらいの男性がいきなり私のそばに来て私の花を覗き込んだ。
「すいません。そんなジロジロ見ないでくれませんか?私にとってこれは人間換算で心臓なんです。触れた瞬間殺しますよ?」
「おい人間。カリンに何を吹き込まれたかは知らんが…雌花に無闇に近づいたらこいつらと同じにするぞ?」
私が忠告し、ケリンが脅しにかかった。男性はシマッタという顔と共に後ろに後退する。
「お兄さん。お姉ちゃんはお花を大事にしているの。だから絶対にお花の側に近寄っちゃダメ。お姉ちゃんが本気でキレちゃったら僕何にも出来ないから…。」
シュウ君が更に念を押してきた。シュバレルはアルビトラウネの実態をもっと知りたいが、流石にカリンとは違い成長しきっているだろう魔物やそいつらの最優先事項に携わるのは危険だと認知した様である。とは言え、このテイマーはその最優先事項を従魔として使役している。彼からなら情報採取出来るのではないか。勿論下手に刺激したら何されるかなど分かりきってはいるが…魔物ではなく人間なのだから多少は…と思っているのであった。しばし休憩し、私はまあこれぐらいかと光合成をやめ、帽子を被り直す。カリンも回復したのか動ける様になっていた。
「あ…えっと…シュウお兄ちゃん。マイお姉ちゃん。助けてくれてありがとうございました。」
「あ、うん。」
「私達の事知ってるの?」
「うん!一度デレナール領だっけ?彼処に行った時に、一緒に馬車に乗ったよ?」
「あー」
私は考えを巡らした。そして、この道の開拓問題に当たって3人の魔物が派遣されたことを思い出していた。身長的に一番小さい雄花かな。私達は寿命が物凄く長いため数年で身長は殆ど変わらない。シュウ君はこの数年で私と同じぐらいの身長にまで成長していたが…。
「あー、あの子か。名前は?」
「カリン!元々無かったんだけど、村へ何回も行く様になったからケリンお兄ちゃんに付けてもらったの。」
「へえそうなの。あーじゃあ次いでに皆で自己紹介としましょうか。」
私は男性を見ながら言った。植物の情報からこの男性はどうやら私達の生態系も調べたいみたいである。ならばまずはそっちの情報も欲しかった。まあ、自己紹介から分かったことだが…このシュバレルという男性は魔物研究者ということである。その都合でデレナール領へ向かいたいとのこと。あの領には既にムサビーネ伯爵夫人や受付嬢のミサとか面倒臭い魔物オタクがちらほらいる。また面倒臭いのが増えたなぁと考える私であるが…、まあ私も前世ブラック企業で働き鬱になっているが…学生時代は研究室で探究心から研究していた過去を持つ。気持ちは分からなくはないし、魔物の本能と吟味で協力はしてあげようとは思っていた。実際ミサさんには不本意ながらも協力している…というかさせられているし。




