植物伝達のリスク
「あーえっと…もう介入して大丈夫?」
後ろからジェスが恐れ半分で声をかけてきた。
「大丈夫なんじゃないですか?シュウ君。指示を出して。まあ、普通に考えたら犯人見張る役と怪我人救助かしら。シュウ君のカバンの中に臨時用として簡易救急パック入れていたと思うんだけど。」
栄光達が怪我した時用ということで入れておけと言われていたのであった。まあ、そんなことないだろうと思って本当に簡易的なものしか持って来ていないが…良くも悪くも無いよりはマシだった。
「うーん、えーっと、ジェスさん。バック貸して。皆を治療しなきゃ。」
「これか?渡すけど…僕手当なんてしたことないんだけど。」
「シュウ。そのバックの中に手当出来そうなものが入っているのか?」
「う、うん。」
「俺もそこまで知識があるわけではないが…昔人間に関わったことがあって見たことぐらいならある。手伝うことなら出来るかもしれん。後、カリンは俺が手当てする。俺の弟だからな。」
「えーっと、じゃあ…僕とケリンさんで怪我しているお兄さんとケリンさんの魔物さんを助けて…お姉ちゃんとジェスさんは見張り役で良い?」
「分かった。」
「大丈夫よ。」
私は見張る気など全くなかった。面倒臭い。縛り付けた3人を地面経由のツルを使って誘導し、側にあった木の幹に固定した。
「ちょっとお身体お借りしますね。ごめんなさい。こんなゴミ虫固定するために使っちゃって。」
『いや、気にするな。こいつらの死角になるために使われるぐらいならこっちの方が清清良い。』
私は、その木の側に行き、地面から養分を吸い取っていた。まあ、これぐらいの戦闘ならそこまで疲弊しないが…光合成込みで体力維持は基本である。
「マイさん…恐ろしいですね…。僕、あんな太いツル扱ったり出来ませんよ。」
「そうなの?うーん、私の故郷だと10m単位の魔物もいたからなぁ。あれぐらい使えないと生きていけないし。」
「マジか…。」
ジェスにしてみれば改めて雌花の恐ろしさを知ることになるのであった。
「そう言えば聞きそびれていましたが、ジェスさんはどこから来たのですか?ケリンさんとは無縁みたいですし。」
「あ、ああ…こっちとは真反対の方向かな。パッと見ここら辺の魔物より強い魔物が多い森。マイさんの故郷には断然歯が立たないとは思うけど。」
「ふーん。で…私をどうやって見つけたの?ケリンさんから聞いたけど…植物達はよっぽどのことが無い限り雌花の所在は教えないって聞いていたんだけど。」
「ああ、僕もそうだけど…既に受粉できる雄花は雌花を探しに旅に出る奴もいるのさ。で、色々回っていたら…植物達が『姫様へご連絡を…』とか言う声が聞こえたわけで。植物が姫様なんて言うのは雌花かそこいらかなぁって思って調べていたんだよ。」
「………」
やはり盗聴されていた様である。前世のIT技術とかでは情報を暗号化して伝達することにより盗聴されないようにしているが…植物達にそんな事は出来ない。植物との遠距離通信は雄花を釣る元になりそうである。
(植物達が私を姫様なんて呼ばなければ良いのに。)
名前で呼んだり、主語が曖昧や固有名詞なら植物を使って会話する生き物なんて早々いないだろうからバレないと思うのだが。アルラウネやマンドラゴラ率いる代表的な植物の魔物さえ、植物と会話出来るわけではない。まあ、あくまで前世の私の知識としてではあるが…。実際のところ既にケリンさん達は定期的にデレナール領近くの森をウロウロしている。私の視覚に入っていないだけで。雌花である以上、雌花争奪戦には否応でも巻き添えを喰らいそうだなぁと悩む私であった。